日経クロステック Special

オープン協創クローズ競争
EV時代変革勝ち抜く

PwC Japanグループ
「自動車未来サミット2022 春」では、PwCコンサルティングが「eモビリティエコシステムの将来像とLCA時代への対応」と題して講演。EV化が進むと、つくり方・売り方・稼ぎ方のそれぞれでエコシステムが大きく変化することや、資源調達や部品製造に始まり、回収リサイクルに至る製品単位でのライフサイクルCO₂排出評価(LCA:ライフサイクルアセスメント)が重要になると説明した。

顧客体験の創出へと価値がシフト

PwCコンサルティング
Strategy& ディレクター
阿部 健太郎

 講演の前半では、Strategy& ディレクターの阿部健太郎氏が、「eモビリティエコシステムの将来像」をサブテーマに、EV化を取り巻く産業の動向とエコシステムの変化について解説。

 まず、日本の自動車産業について、「当初は、持続的イノベーションとしてのハイブリッド車(HEV/PHEV)を経由しながら、なだらかにEV(BEV)へと着地することを目指していましたが、脱炭素化に向けた世界的な政治・投資環境の変化から、EVに対する取り組みを加速しています」と阿部氏は説明。国内におけるEVの販売比率も、EUや中国には遅れるものの、2030年代には50%程度に達するだろうと述べた。

 EV化によって今後生じるパラダイムシフトとしては、「顧客の生涯価値(Life Time Value)を最大化する顧客体験の創出に向けた動きが活発になるでしょう」(阿部氏)。バッテリーなどのコア部品を供給するサードパーティの影響度が高まることや、新興EVメーカーの台頭などによって既存のOEMやサプライヤーの収益性が低下することで、新たな付加価値を求めるために顧客体験へのフォーカスが強まっていくだろうという見立てである。

 また、EVのバッテリーを再生可能エネルギーの調整力として活用する動きや、バッテリーのリユース・リサイクルを進めながらCO₂排出量の削減と経済合理性の両方を追求していく循環型社会の形成も、新たなパラダイムシフトとして起こってくるだろうと述べた。

つくり方・売り方・稼ぎ方の変革

 続いて阿部氏は、eモビリティ時代に起こるであろう、つくり方・売り方・稼ぎ方のそれぞれにおける変革について説明(図1)。

図1│eモビリティエコシステムの構成要素

eモビリティの時代には、つくり方・売り方・稼ぎ方のそれぞれで変革が進み、エコシステムも大きく変化

 まず、つくり方は、EVのコアとなるバッテリーやeアクスルなどの分野でサードパーティの台頭が見られていることからも、今後は水平分業化が進んでいくだろうとの考えを示した。

 サードパーティ製部品の使用機会が増える場合、後述するLCAを実現するためにも、その部品に関するCO₂排出量などの情報を提供してもらう必要が出てくる。また、EVに関連する新たな規制や社会的な要請にも対応していかなければならない。そのため、「データ連携基盤やデジタルツインの本格的な活用を進めて、対応力を高めていくべき」と阿部氏は提唱する。

 売り方の変革としては、ディーラーがサービスへ注力し、OEMも顧客理解を深める上で、ディーラーのエージェント化、OEMへの一部機能の集約化も進みうると述べた。稼ぎ方も変わり、自動車に閉じない収益源を探すことが重要であることから、売り切りではなく継続的に利益を得るリカーリング・ビジネスを実現する幅広い連携が望ましいと語った。

CO₂排出量をライフサイクルで評価

PwCコンサルティング
製造業・自動車事業部 シニアマネージャー
細井 裕介

 後半では製造業・自動車事業部 シニアマネージャーの細井裕介氏が「LCA時代への対応」をサブテーマに、先行する欧州での法規制やデータ流通基盤の状況を交えながら、LCAの動向を概説した。

 「内燃機関が主流の時代は、CO₂排出は利用・走行段階が主体であり、テールパイプから排出されるCO₂をいかに低減するかが大きな課題でした。ですが、利用・走行でCO₂を出さないEVでは、発電、部品製造、車両製造を含めた車両のライフサイクル全体でCO₂排出量を評価する必要があり、LCAという観点が重要になります」(細井氏)

 欧州では主な規制やルールとして、テールパイプからのCO₂排出量基準を定めたEU規則(2019/631)があるが、EVの普及を見据えて、新たな製品LCA規則や電池関連規則の検討・策定がEUで始まっていると説明。

 このうち電池規則には、ライフサイクルの段階ごとのCO₂排出量開示のほか、利用後のリサイクル率の規定や、リサイクル素材の含有率の規定などが含まれており、EUがサーキュラーエコノミーの形成を主導するとともに、他国に対する資源競争に勝ち抜きたいという狙いが見えるという。

攻めのカーボンニュートラルを

 現在は各社がLCAを自主的に計算している段階であり、例えば鉄の使用量といった単純な原単位をベースにしているが、今後はサプライヤーごとの排出量を計算時に使用することで精緻化を図っていくと見込まれている。

 すなわち、LCAを精緻化するには、計算に必要な数値をサプライチェーン全体でやりとりすることが重要だ。

 それらを実現する手段として、EUあるいはドイツで、自動車サプライチェーンのデータ流通基盤「Catena-X」、利用や走行等のモビリティに関するデータ流通基盤「MDS(Mobility Data Space)」、それらを支える産業横断でのデータ流通基盤「GAIA-X」などの動きが加速していることを細井氏は説明し、「ある1社がデータを独占するのではなく、交換や流通によって必要なデータを得て、変革を進める時代に入ろうとしています」との見方を示した(図2)。

図2│全体に横串を通すトレーサビリティプラットフォームの重要性

データのオープン化と、ライフサイクルにわたる利用情報や排出情報などの蓄積・流通が、eモビリティの変革を加速

 最後に細井氏は、「単にEVシフトを進めるのではなく、社会全体を良くしていくオープン(協創)と、企業活動として利益を追求するクローズ(競争)を組み合わせた戦略を通じて、“攻めのカーボンニュートラル”を進めるべきです」と語った。

 今後、企業がLCAを実践していくには、設計、調達、生産、アフターサービスなどを横断的に見ていく部署が必要になる。PwCでは社内の専門人材を集め、企業の取り組みを包括的にサポートしていく考えだ。