セミナーレビュー

テレワークやハイブリッドワークが主流となった今、企業の生産性向上に目覚ましい効果を発揮し得るとして注目される「RPA」。しかし、RPAによるDXや業務効率化に成功している企業はまだまだ少ない。メリットは理解していても導入に障害が多い、導入しても最適な運用方法が分からない、という課題を抱えているからだ。本セミナーでは、RPAの先進事例やノウハウを有識者・第一人者が説く。今日から使える、業務効率化・生産性向上を進めるヒントが満載だ。

主催者講演

中外製薬

デジタル基盤刷新で7.3万時間を削減
中外製薬のイノベーションを支えるDX

中外製薬
デジタルトランスフォーメーションユニット
ITソリューション部長
小原 圭介 氏

2021年、中外製薬は2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」を発表した。世界最高水準の創薬を実現し、先進的事業モデルを構築するためには何が必要か? DXを進めて研究開発にリソースをシフトするとともに、オープンイノベーションを推進することが重要だと考えた。

DXの推進に当たっては「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を策定し、その実現に向けて「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタル基盤の強化」の3つの戦略を掲げている。そしてこのビジョン・戦略に対してはトップマネジメント層自らがコミットメントを積極的に発信している。ビジネスのデジタル化が加速している中で、DXを全社ごと化・自分ごと化することは必然であり、トップの強いリーダーシップと明確なビジョン、推進体制が必要だ。「継続して積み重ねることで、他社には模倣できない現場力や組織風土が備わることを期待しています」と小原氏は話す。

デジタル基盤の強化の施策として、社員からボトムアップでアイデアを集めてインキュベーションする「Digital Innovation Lab」の設立・運用による社員のチャレンジや失敗を許容する風土の醸成や、「Chugai Digital Academy」というデジタル人財を体系的に育成する体制の構築・運用などが挙げられる。また、noteやYouTubeなどのSNSを使った社内外への発信も行う。

すべてのバリューチェーンの効率化の施策の一つとして、RPAを活用して定型業務の自動化を行っている。2020年にはRPAによって年間3.5万時間以上を自動化する活動へと発展させた。2021年はRPA推進活動をさらに加速させ、5万時間の自動化をKPIとして設定し、2023年には10万時間の自動化を目指しているという。

また、薬事規制情報の自動収集・評価・要約作成業務において、単純作業にはRPAを、判断を必要とする作業には自然言語処理ができるAIを活用することで年間570時間の削減を実現。アウトソーシングしている申請業務もRPA化することで年間1567時間の削減も実現している。

現在では96%の部署でRPAの活用が進んでいるという。これによって、2021年は7.3万時間の削減を実現できたため、前述の「2023年に10万時間の削減」という目標を1年前倒しで2022年中に達成できる見込みとなっている。

主催者講演

住友商事

3つの施策でグループ全体のRPA活用を拡大
余剰時間の創出による“業務の高度化”を実現

住友商事
デジタルソリューション事業第二部
岡田 尊助 氏

総合商社である住友商事の事業分野は多岐にわたる。同社の岡田氏は、「RPAは業務時間の削減につながるだけでなく、生まれた余剰時間の中で、既存事業の高度化を検討できるという効果があります。まさにDXの契機となっており、重要視しています」と語る。

同社では2017年度から、先進的な一部の部署でRPAの活用をスタート。効果があったことから利用を検討する部署が徐々に増え、2018年度から全社での管理を本格的に開始した。現在全134部署中54部署で活用。岡田氏は、「RPAと親和性の高い定型業務の多くを、当社から連結対象の事業会社に移管しているため、利用部門は半分以下にとどまっていて、当社だけでなく事業会社への普及促進も重要でした」と語る。

普及促進策は大きく3つ。まず開発体制の整備である。同社ではRPA化する業務の抽出や業務フローの修正提案などを社内で行い、開発フェーズをグループのSCSK社に外注する体制が一般的である。外部の専門人材に開発を委託することで、リソースが不足する部署でも質の高いロボットを迅速に導入することが可能になっている。

2つ目が「全社共通RPA」の開発だ。これは、複数の部署で汎用的に発生する業務を自動化するRPAの総称である。ユーザー数の多いロボットであるため、利用に当たっての各部署の費用負担が少なく、RPA検討の社内障壁を下げる効果があった。

3つ目が、特に重要だと語る事業会社への普及促進である。住友商事では以前から各種IT施策を事業会社と議論する「グループICT協議会」を運営していた。ここを拠点にRPA未導入企業の課題をヒアリング。その結果を踏まえて、「教育」「導入支援」「業務分析支援」「開発支援」「環境構築」「部品共有」「ライセンス販売」といったサービスを提供。開発手法やノウハウ、汎用的機能を事業会社とも共有することで、活用促進を図っている。

住友商事グループでは、RPAの活用により2021年度は44万時間の業務削減を実現した。定性効果も、業務品質の安定や業務スピードの向上、業務フローの標準化などが生じている。さらに副次効果についても、岡田氏は、「ITリテラシーの向上と、それに伴う業務改善意識の強化、余剰時間創出による業務の高度化など、効果を強く感じています」と語る。

同社は、今後も業務を高度化していくために、他のITツールと連携したRPAの開発や、特に費用対効果が高い既存ロボットをモデルにした新たなロボットの提案などを続けていく。事業会社に対してもヒアリングや意見交換を継続し、普及促進を進める予定だ。