膨大なデータを不動産の魅力向上に生かす

執行役員
アドバンストテクノロジー部
部長
大武 義隆氏
現在の不動産業界は、不動産会社-消費者間の情報格差や慢性的な人手不足、IT化の立ち遅れなど、様々な課題に直面している。アットホームのグループ会社でデータ分析を手掛けるアットホームラボでは、AI×ビッグデータの活用によって、これら諸課題の解決を目指す取り組みを展開中だ。
「アットホームでは、物件情報や画像情報、アクセス情報、不動産会社情報など、不動産にかかわる大量のデータを保有しています。これらの分析・活用を通して、不動産会社の業務効率化や消費者の安心な住まい探しに貢献していくことが当社のミッションです」とアットホームラボの大武 義隆氏は説明する。
その具体的な取り組みとしては、まず「不適切画像チェック」が挙げられる。「不動産情報サイト アットホーム」には物件外観や周辺施設の画像が掲載されているが、そこに人の顔や自動車のナンバーなどが映り込んでしまうとトラブルの原因になりかねない。とはいえ、1カ月あたり1000万件以上にも上るデータをすべてチェックするのは至難の業だ。
そこで同社では、不動産会社が物件登録サイトにアップした画像をAIで自動的に解析する仕組みを構築。「もし、AIが人の顔などを検出した場合には、NG判定を行って自動的にモザイク加工を施します。また、AIだけで判別が困難な場合は、NG候補と判定して人によるチェックに回します」と大武氏は話す。
この結果、従来の1/4の人員で高精度な全件チェックを行うことが可能になり、プライバシーにかかわるトラブルなどを防止できるようになった。ちなみに、モザイク加工の件数は月間18万件にも達するという。「これを人手で処理すると約6000時間かかりますので、相当な業務負荷軽減にもつながっています」と大武氏は胸を張る。
課題が自然と集まりスピーディーに実行できる組織作りを
続いて2点目は「不適切コメントチェック」である。前述の不動産情報サイト アットホームには、不動産会社が物件をアピールするためのフリーコメント欄が設けられている。ここに不適切な単語が使われていないかチェックするのがこの取り組みの目的だ。
「従来のチェックシステムでは、コメント登録時にルールベースでのエラー制御を行っていました。しかしこの方法では、キーワードに引っかからないよう表現を変えるとすり抜けられてしまう。一方、AIを用いたとしても、すべての判定を任せるにはまだ精度面で不十分です。そこで、AIにNG候補を抽出させることで、運用の効率化・省力化を目指しました」と大武氏は話す。ここでは、月間約130万件のコメントの中から、NG候補を約5万件にまで絞り込むことに成功。その結果、人の目による全件チェックが実現できた。
同社では、このほかにも様々な取り組みを行っているが、大武氏はその経験を踏まえて「間違いを許容できること」がAI活用のポイントと説く。「AIは万能ではないので、漏れも誤判定もあります。しかしその特性さえ理解すれば、業務に有効に活用できます。当社では『AIと人とのハイブリッド運用』が重要と考えています」(大武氏)。
加えて、もう1つ大事なのが組織体制だ。同社はアットホームのデータ分析部門を母体として設立されたが、社内の一部門として活動していた時代は「他部署からなかなか相談が来ない」「承認フローが多く実行まで時間がかかる」などの課題を抱えていた。「しかし別会社となったことで、社内の各部門ともビジネスの関係になり、相談や提案が行いやすくなりました。また、所帯が小さくなったことで、分析・研究に専念できる環境が整い、様々なテーマに、よりスピーディーに取り組めるようになりました」と大武氏は振り返る。
このように、課題が自然と集まりスピード感を持って実行できる組織を創り上げることが、DX推進を成功に導くポイントといえるだろう。