人工知能サミット 2021 〜AI活用は総論から各論へ、業種別に活用の勘所を探る〜 Review

AIで網羅的かつ精緻な意思決定を支援し エコシステム全体の「攻めの規制対応」を実現

社会が大きく様変わりする現在は、ビジネスにかかわる様々な規制も激しく変化している。内容が矢継ぎ早に改訂されたり、新たな規制が登場したりする中では、これらに速やかに対応し、正しいビジネス意思決定を行うことが企業にとって不可欠だ。KPMGコンサルティングは、この規制対応業務にAIを活用することを提唱。規制の変更/新設によるビジネスへの影響を迅速に特定し、的確な意思決定を行う方法を提案している。

不定期かつ高頻度な規制変更への対応が、製造業の課題に

KPMGコンサルティング株式会社 Advanced Innovative Technology SENIOR MANAGER 江原 圭司氏
KPMGコンサルティング株式会社
Advanced Innovative Technology
SENIOR MANAGER
江原 圭司

AIは企業がDXを推進する上で欠かせない技術の1つである。長年、人が行ってきた仕事を代行し、業務の自動化・効率化を図る。実際、このようなAI活用の事例が多数報告されている。

一方、多くの企業のAIプロジェクトを支援してきたKPMGコンサルティングの江原 圭司氏は、次のように指摘する。「AIの活用アプローチや、もたらす価値は決してそれだけではありません。むしろ、より重要なのは人の代わりを務めることではなく、人の能力を拡張すること。我々はこれを『Intelligence Amplification』と呼び、これからのAI活用の軸に据えるべきアプローチと位置付けています」。

人が行うことが難しい作業や業務を、AIで正確かつ効率的に実行する――。このような視点で、同社がAI活用を進めるべき業務の代表例に挙げるのが規制対応業務だ。

近年の社会では様々な環境変化が加速している。そこで製造業における切実なテーマとなっているのが、ビジネスを取り巻く各種規制への対応である。例えば、個人情報保護や企業のガバナンスにかかわる規制。環境、化学物質にまつわる規制から、品質対応、自動運転、貿易、そして経済安全保障に関する規制に至るまで、製造業各社がビジネスを展開する上では、おびただしい数の規制への対応が不可欠なのだ。

「しかも、それらの規制は社会の変化に伴って不定期かつ高頻度に改訂・新設されます。デジタル化によって、規制情報自体の流通量や蓄積量も飛躍的に増加している。すべてをリアルタイムに確認・把握し、ビジネスを規制に即した状態に整えようとすると、膨大な人員と工数が必要になるでしょう」と江原氏は言う。

AI活用によって「“攻め”の規制対応」を実現する

一般に規制対応は、リスク管理やサイバーセキュリティ対策などと同様、ビジネスの“守り”の領域に属するものと意識されがちだ。だが同社によれば、必ずしもこの認識は正しくないという。企業が提供する製品やサービスの開発にも深くかかわっている以上、売上増につながる “攻め”の領域にも深くかかわるものといえる。

「例えば、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連の規制に対応することは、企業の未来のビジネス戦略を左右するものであり、“攻め”に大きくかかわっています。その意味で、先回りした情報入手に基づく『“攻め”の規制対応』こそが、これからの企業に求められる取り組みといえるでしょう」(江原氏)

では、この攻めの規制対応はどうすれば実現できるのか。ポイントは次の3つだ(図1)。

図1 「攻めの規制対応」に向けた3つの要諦

図1 「攻めの規制対応」に向けた3つの要諦

規制の変更をステークホルダーがエンド・ツー・エンドで共有し、影響を理解する。このプロセスをテクノロジーの活用によって迅速かつ正確に進めることで、人の意思決定を精緻化する

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1つ目は「エンド・ツー・エンドの連携」。自社ビジネスに関連する規制に変更があった場合、フロント部門、バックオフィス部門、さらに取引先などのパートナー企業も含め、ステークホルダー全員が速やかに情報を共有し、影響を理解できるようにする。その上で、互いに連携して対応できる仕組みをつくっておくことが肝心だ。

2つ目は「テクノロジーの活用」である。人手による対応では迅速なリスクの発見と識別、そして意思決定は望めない。そこをデジタルテクノロジーでカバーする。

「そして3つ目は、最終的に意思決定を行う『人』です。人の能力を拡張し、規制にかかわる意思決定をより精緻なものにしていくことが不可欠です」と江原氏は説明する。

このような規制対応のためのテクノロジー活用は、一般に「RegTech」と呼ばれる。そこでは、膨大なデータの網羅的な解析を行い、素早く影響を把握する技術こそがカギになる。この要件を満たすのがAI、中でも自然言語処理技術だという。

「最近は安価なAIツールや自然言語処理のフリーのライブラリなどが出回っており、誰もがこれらを簡単に利用できます。ただ、個別の要素技術を単独で導入するだけでは大きな効果は得られません。規制対応業務に対して、テクノロジーをどのように適用するかを十分精査することが大切です」と江原氏は話す。

それには、規制対応業務のプロセスを可視化しておく必要があるだろう。大きくは次のような流れで進められる。

まず、規制の網羅的かつ継続的な監視によって、変化を即座に把握する。次に、大量の規制情報の中で、どこがどう変わったのかの変更内容とそれぞれの重要性を判別。そこに社内外の関連情報を重ね合わせることで、規制変更が影響を及ぼす範囲を特定する。最後に、情報を人が理解できる形に変換し、意思決定者などのしかるべき人に伝える。この一連のプロセスにAIを適用することになる。

規制情報と社内外の情報を突合し、影響などを速やかに特定

KPMGコンサルティングは、以上のような「“攻め”の規制対応」を実現する最適なAIの仕組みを提案している。概要は次のようなものだ。

まず、クローラ機能によって、国内外における規制の状況を自動的かつ網羅的にチェック。規制情報の変更があれば、それを検知して利用者にメールやポップアップで通知する。その後、関連情報抽出機能で、クローラが検知・取得した情報の中から重要と思われる情報を抽出する。「教師情報を事前に与えて学習させることで、規制の重要な変更内容と、AIがそのように判断した根拠を合わせて提示することが可能です。判断が本当に正しいかどうか、人が確認する際の基準になるでしょう」と江原氏は説明する。

次に、規制当局が公表した情報と社内外の技術文書、論文の内容などを突合し、情報同士の関係性をAIが解析してひも付ける。これにより、関係性のネットワーク図のようなものを生成し、それを基に規制の変更があった際の影響箇所を表示するという。「この影響度分析の結果はヒートマップのイメージで視覚化できます。これにより、規制変更の影響が及ぶステークホルダー全員が、容易に状況を把握できるようにします」と江原氏は言う。

ヒートマップをクリックすることで、関連する技術情報の詳細までブレークダウンしていくことも可能だ。社内の技術情報はもちろん、サプライヤーや顧客などのエコパートナーの情報を表示すれば、社外への影響もより詳しく把握できる。

このように、AIを活用すれば、規制変更の検知、および変更内容や影響範囲の把握が速やかに行えるようになる。関連部門との連携に基づき、精緻な意思決定をスピーディーに行うことができるだろう。まさしく、AIが人の能力を拡張することで、規制対応のループを高速回転させていくわけだ(図2)。環境の変化は今後もますます加速するとみられる。KPMGコンサルティングの提案は、製造業の規制対応業務に一筋の光明を差し込むものとなりそうだ。

図2 「“攻め”の規制対応」のループを高速回転させるAI活用

図2 「“攻め”の規制対応」のループを高速回転させるAI活用

AIを活用することで、エンド・ツー・エンドの情報連携に基づく速やかな規制対応、“攻め”の規制対応のループを高速回転させられる

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