「データ」は過去を知るのみならず、未来を予測し見通すための力になる。その価値を引き出すのが、データサイエンティストをはじめとするデジタル人材だ。一方、統計学などの高度な知識や技術、ノウハウを備えた人材は市場でも少ない。そのため、「現場発」の人材を自ら育てることはもちろん、特別なスキルを求めない「ノーコードツール」の活用や、共にAI活用に挑むパートナーをどう選ぶかが重要になっている。それにより、データをビジネスの武器に変えられた企業が、アフターコロナ時代の勝者となっていくだろう。日経クロステックは、高度なデータ活用を目指すあらゆる企業に向けたセミナーとして「データサイエンティスト・ジャパン 2022」を開催した。ここではオンラインで行われた当日の模様をダイジェストで紹介する。
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新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、最も大きな影響を受けた業界の1つが航空業界だ。米国の同時多発テロ、リーマンショックなど、過去に起こった出来事と比較しても最大級の負のインパクトがあったと全日本空輸(ANA)の荒牧 秀知氏は述べる。
「ただ、嘆いているばかりではなく、アフターコロナに向けて力強く羽ばたくための戦略構築が必要です。『タッチレス』『エコ』などをキーワードに、お客様の変化に合わせた新サービスを具現化するほか、フルサービス/ LCCの長所を組み合わせた第3のブランドも立ち上げました。これらの取り組みにより、持続的成長を実現する強靭な企業グループへ生まれ変わろうとしています」
カギになるのが人的サービスとデジタル技術の融合だ。顧客一人ひとりに最適化された1to1サービスによって顧客体験価値(CX)向上を目指す。具体的には、2018年度に立ち上げたCX基盤をベースに多様なデータをつなぐことで、最適かつスピーディーな顧客体験を提供する。「扱うデータ領域が拡大しているため、今後はDX推進部門がハブとなり、各業務部門、ITベンダーや通信キャリアなどのパートナーとの連携を強化します。様々な知見を合わせた協創型開発を進めます」(荒牧氏)。
社員のデジタルリテラシー向上に向けたデジタル教育も推進している。全グループ社員に向けて教育コンテンツを展開するほか、ワークショップやSNSなどの場を提供。内製人財を育てるためのハンズオントレーニングも行っている。「特に、現場部門の社員を『デジタルリード』と呼び、デジタル技術をビジネスに適用する役目と位置付けています。2022年度からは、半年間をかけた集中講義も開講し、一層のスキル向上を図る予定です」と荒牧氏は紹介する。
“日本の空”を背負って立つ1社として、全社規模の変革に挑むANA。そのプロセスはこれからが本番のようだ。
国内に4つの拠点を持ち、年間2700万トンに上る粗鋼生産量を持つJFEスチール。同社は「IT構造改革の断行」「データ活用レベルの高度化」「ITリスク管理強化」という3本柱でDXを推進し、様々な取り組みを行っている。中でも特に重視しているのが「DX人材の育成」だ。2017年10月には「データサイエンスプロジェクト部」を発足させ、データサイエンティスト育成が強化されている。
「育成の対象者は、『DS(データサイエンス)先駆者』『DS伝道者』『DS活用者』『DS利用者』という4階層に分けており、DS先駆者とDS伝道者がいわゆるデータサイエンティストという位置づけになっています。育成方法としては、DS先駆者は学術機関への派遣研修や研究所での研修、DS伝道者は高度DSツール活用をOJT主体で行っています」とJFEスチールの四辻 淳一氏は説明する。こうした育成を行うことで、2018年度に100人だったデータサイエンティストを、2020年度には350人に増員、2024年度には600人にまで増やす計画だ。
2019年度からはデータサイエンスに関する論文発表会も開催。オンラインで全地区と接続し、社長をはじめ役員を含む約400人が出席し、成果を挙げている事例の中から選考された10本の論文が発表されている。
育成を受けた社員にアンケート調査を行った結果、「データの見方・課題へのアプローチが変わったか」という設問に対して「変わった」「少し変わった」と回答した割合はほぼ100%に。その一方で「管理職・上司への教育を希望」「複数回の受講を容易にする仕組みを要望」という回答も多かった。こうした結果から、データサイエンティストの育成はスキル向上のみならず、周囲の理解も含めた「誰もが心置きなくDSを活用できる環境も重要だ」と四辻氏は指摘した。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)をBX(ビジネストランスフォーメーション)」と捉え、顧客起点の価値創出を推進し、ビジネスモデルやプロセスの3区分変革を開始したアサヒグループ。その加速にはグループ全社でのデータ利活用推進が不可欠。酒類、飲料、食品事業を担う国内のグループ会社を中間持株会社として統括するアサヒグループジャパンは、グループ共通データ基盤の構築を推進中だ。
「目指す姿として、これまで部門や業務ごとに蓄積・分析していたデータをグループ全体で、横断的かつ自由に利活用できる状態をつくり上げることです」とアサヒグループジャパンの合田 篤氏は話す。そのためにグループ共通で活用できるデータウエアハウスを導入し、データを集約・整理した。現在はそのデータ基盤上に最終的に全バリューチェーンを対象としたデータを充実させることを進めている。
必要なデータを社員が自由に利活用できる環境が整備できれば、データの組み合わせを増やすことができる。その結果として、一人ひとりの顧客にパーソナライズした施策立案や、価値提供を可能にすることが同社の狙いだ。
BIツールやAIを活用した分析を可能にする技術基盤を充実させる一方、データを具体的に分析し利活用する人材育成も重要であることから、原則全社員を対象とする「データリテラシー入門確認講座」を開講。希望者が段階的に高度なデータ利活用技術を学べる「データ人材育成プログラム」も展開中だ。また、データを利活用する文化・風土を醸成するため、社内の人材交流コミュニティも発足させている。
「今後はSNS上で発信されているお客様の声を速やかにキャッチし分析できる仕組みを構築し、事業会社の業務改革実現のため伴走し支援していく計画です」と、合田氏はグループ全社でのデータ利活用文化の浸透を加速させたいという思いを語った。