メガバンクのデータセンターでは初採用 三井住友銀行がUPS用リチウムイオン電池(SCiB)を選んだ理由

メガバンクのデータセンターとしては初めて大型UPS(無停電電源装置)の蓄電池にリチウムイオン電池が採用された。絶対の安全性が求められる設備に、東芝製のリチウムイオン二次電池「SCiB」はなぜ選ばれたのか。三井住友銀行のシステム開発・運用を担う日本総合研究所および日本総研情報サービスの担当者に、導入の経緯や効果を聞いた。

耐用年数を迎え、鉛蓄電池を使い続ける課題が浮上

三井住友フィナンシャルグループの三井住友銀行は、データセンターのUPS(無停電電源装置)の主要部品である蓄電池をリプレースした。採用したのは東芝製のリチウムイオン二次電池「SCiB」である。一瞬たりとも止まることが許されないデータセンター。そのデータセンターで、メガバンクがリチウムイオン電池を採用したのは初めてのことだ。

三井住友銀行をはじめとする三井住友フィナンシャルグループ各社のシステム開発・運用は、同グループ企業である日本総合研究所が手掛ける。日本総合研究所開発支援部次長で、同社の元、データセンターに関する企画、推進を担う日本総研情報サービス業務統括部の部長でもある佐藤直樹氏は「三井住友銀行のデータセンターにある大型UPSの蓄電池が耐用年数を迎え、更新を検討することになりました。検討にあたっては、ただ後継製品にリプレースするのではなく、最新技術の導入やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組み、コスト削減など何か付加価値を加えたものにしたいと考えていました」と背景を説明する。

日本総合研究所 開発支援部 次長 佐藤 直樹氏

日本総合研究所

開発支援部 次長

佐藤 直樹

データセンター用の大型UPSは、鉛蓄電池が主流である。リチウムイオン電池に比べ、一般的には導入コストが安価であり、安全面でも実績があるからである。一方、最近は新設データセンターなどでは、リチウムイオン電池を導入するケースが出てきている。

日本総研情報サービス業務統括部次長の村上武氏は、当時の状況をこう説明する。「鉛を使うかリチウムイオンを使うか、頭を悩ませました。鉛蓄電池は成熟した技術で信頼できますが、デメリットもあります。一つは重さや大きさです。鉛蓄電池は非常に重く、更新の際には現用と新規の2セットを用意しなければならないため、データセンターの建屋の補強などが必要になる可能性がありました。また、鉛蓄電池は寿命が7~8年で、UPSの15年という期待寿命に対して途中で更新が必要です。リチウムイオン電池はUPSと同等の寿命があり、トータルでは更新コストを抑えることができます」。こうしたメリット・デメリットを考慮し、リチウムイオンの利用を検討することになった。

日本総研情報サービス

業務統括部 次長

村上 武

日本総研情報サービス 業務統括部 次長 村上 武氏

安全性の高いSCiBリチウムイオンの懸念を払拭

リチウムイオン電池に対して、当初は好意的な印象を持っていなかったと村上氏は言う。一般的なリチウムイオン電池の発熱や発火の事故を見聞きしていたからである。そこで検討にあたり、鉛蓄電池と同等の電気的仕様と安全性の確保を条件にした。

各社のリチウムイオン電池をリサーチし、データセンターのUPS用途で大規模に利用できるリチウムイオン電池を比較した結果、東芝のリチウムイオン二次電池「SCiB」に白羽の矢が立った。SCiBは、負極にチタン酸リチウムを採用することにより「安全性」「長寿命」「低温性能」「急速充電」「高入出力」「広い実効SOCレンジ」に優れ、容量と寿命だけでなく、安全性の側面で熱暴走が起こらない特性もあった。

「リチウムイオン電池は、物理的な刺激を与えると熱暴走して発火に至るという認識は、過去の事故の情報などから得ていました。しかし、SCiBは負極の素材が一般のものと異なるなど、化学的な側面から熱暴走が非常に起こりにくい構造であることが確認でき、データセンターでの運用において安全性が確保できると確信しました」(村上氏)

安全性が確保できれば、リチウムイオン電池は鉛蓄電池に対してメリットが大きい。初期費用は鉛蓄電池より高いものの、鉛蓄電池の倍ほどの寿命により、ランニングコストを考えると、トータルでは安く抑えられる。鉛蓄電池に比べると格段に小型軽量で、設置スペースの確保が容易な上、負荷に対する補強工事などが不要だ。さらに、鉛を使う鉛蓄電池は環境負荷が大きく、SDGsへの取り組みを進める三井住友フィナンシャルグループとしてリチウムイオン電池を選択する意義もある。

佐藤氏は「様々なメリットがある上に、トータルコストも抑えられるということで、SCiBでの更新を進めたいと考えました」と語る。採用にあたっては、三井住友銀行の同意が必要だった。「メガバンクでの導入の前例がないことが懸念でした。しかし、安全性を確保した上でトータルコストをはじめとするメリットがあること、そしてSDGsへの取り組みの側面を説明し、理解を得ることができました」(佐藤氏)

東芝のリチウムイオン二次電池「SCiB」を採用したUPS

東芝のリチウムイオン二次電池「SCiB」を採用したUPS

導入後は安定した稼働を実現、大幅なコストメリットも試算

実際の導入には課題もあった。SCiBもリチウムイオン電池の一種であり、発火点が低い電解液が封入されている。データセンター用途になるとリチウムイオン電池の量に相当して、電解液の総量が消防法上の危険物取扱の規制にかかるのだ。村上氏は「危険物の取り扱いの技術基準を満たした環境の部屋を特別に用意する必要がありました。とは言え、リチウムイオン電池は小型で大きなスペースが不要なため、一般取扱所の部屋を作っても鉛蓄電池で更新するよりも低コストで済む試算ができ、導入に踏み切りました」と語る。

三井住友銀行では、東西2つのデータセンターにSCiBを導入した。2021年12月から西日本センターは全面的にSCiBに切り替え、東日本センターでも部分的にSCiBを導入し、今年3月から稼働を始めた。

佐藤氏は「UPSの蓄電池は大規模な停電だけでなく、落雷の影響などで系統電源が瞬間的に電圧降下したようなときも機能します。導入前に様々なケースの試験を入念に実施し、正常に稼働することを確認しました。そして、導入後も問題なく稼働を続けています」とSCiB採用後の信頼性を説明する。また、「鉛蓄電池は直接人手で確認しないと電池の状況が分からないのですが、SCiBは常に蓄電池の状態を監視でき、見える化の機能も実現したことで運用面でもメリットを感じています」(村上氏)という。

そして、コスト面においても、鉛蓄電池へのリプレースに比べてリチウムイオン電池は、前述した一般取扱所の構築を含めても、2割ほどのコスト削減を想定している。その上で、SDGsへの取り組みにつながる施策でもあり、三井住友銀行からの評価も高い。

SCiBをデータセンターのUPS用途で導入し、その効果を実体験したことで、横展開も検討している。「サーバー用だけでなく、設備用のUPSや太陽光発電設備用の蓄電池もリプレースの時期を迎えるものがあり、SCiBの導入を検討しています。ロングライフで最終的にコスト削減できるだろうと考えています」(村上氏)

SDGsに注力する三井住友銀行にとっても、有害物質を含む鉛蓄電池をリプレースして、コスト削減にもつながるSCiBの導入はメリットが大きい。リチウムイオン電池のSCiBを通した三井住友銀行と東芝の連携は、今後の省エネ化やSDGsへの貢献の一つのモデルとなるかもしれない。「今後も東芝と共に、省エネやSDGsを実現する施策を作り上げていきたいと考えています」と佐藤氏は語る。5年、10年、さらにその先の未来を見据え、持続可能な社会を目指す意欲的な取り組みに今後も注目したい。

※SCiBは(株)東芝の商標です。

佐藤 直樹氏/村上 武氏

インタビューを終えた佐藤 直樹氏と村上 武氏

東芝インフラシステムズ株式会社