HCM・働き方イノベーションForum 2022 Online Seminar Review

DX推進する方改革新時代

不透明さ、不確実性が増すアフターコロナ時代を見据えると、DX推進やデータドリブン経営を実現しているか否かは、いま以上に企業競争力を左右する重要なファクターになるのは間違いない。それは組織戦略、人材戦略においても同様。「新たな働き方への対応」「人と組織の活用」「組織マネジメント」といった課題をDXによって解消することが、今後を生き抜くためには必要不可欠なのである。去る2022年4月27日にオンラインで開催された「HCM・働き方イノベーションForum 2022」では、そのような課題解消のヒントになる先進事例やデジタル活用ノウハウを数多く紹介。その中から注目のセッションの内容をレポートする。

  • 基調講演:メルカリ

    人事の未来、組織としての土台と工夫がカギとなる

    新しい働き方の定着へ

新しい働き方「YOUR CHOICE」の実現

メルカリ Evaluation & Compensation Management Manager  / 一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員 岸井 隆一郎 氏

メルカリ

Evaluation & Compensation Management Manager

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会

上席研究員

岸井 隆一郎

 元々フル出社であったメルカリでは、日本国内であれば居住地を問わずにフルリモートでの勤務ができる制度「YOUR CHOICE」を2021年9月に導入。個人と組織のパフォーマンスが高まり、最もバリューを発揮できるワークスタイルを自らが選択し、制度申請などのプロセスは経ずに決めることができるような環境を整えている。

 新たな働き方を定着させるために、メルカリではメンバー、チーム、会社のそれぞれの段階でソフトとハードの両面から様々な施策を施し、スムーズな移行ができるようにしてきた。リモート環境構築に向けた手当や支援、1on1やチームビルディングを推進する施策などはもちろん、お互いのワークスタイルや生活リズムなどを共有し日常の働き方のトーンを整える工夫もなされている(メルカリでは経営陣のワークスタイルも社員に公開されている)。会社との接点においては、経営陣などからのメッセージやOKR(Objectives and Key Results)の進捗などを共有する場も毎週設けていると岸井氏は説明する。同社では、チャットツールや各種社内資料・議事録がオープンにされているなど、場所や時間に囚われずに業務ができる慣習や工夫が元々存在しており、経営層やリーダーからの積極的なアクションやメッセージも加わって新たな働き方を定着させていったという。また、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを持つメルカリの個人のValueが最大限発揮できるよう、組織全体で育み、大切にする共通認識としてのFoundationを策定するという思想も、新たな働き方の定着に役立てられている。

<モデレーター>一般社団法人グローバル人事塾 事務局長 アーシャルデザイン 専務取締役 久野 晋一郎 氏

<モデレーター>

一般社団法人グローバル人事塾

事務局長
アーシャルデザイン
専務取締役

久野 晋一郎

 後半は、一般社団法人グローバル人事塾 久野晋一郎氏がモデレーターとなり、岸井氏と人事の未来についての対談が行われた。岸井氏によれば、Momentum(採用競争力を高めるための時間軸を意識した意思決定)、Culture(一貫した組織づくりを行うための土台となる思想の統一)、Experience(解像度の高い従業員体験)、DX(目指す従業員体験を実現するシステムやツールの構築)がメルカリの人事のポイントとなっているという。

 その上で岸井氏は、今後人事に求められるものとして、昨今の労働市場や価値観の変化を捉えた人事戦略全体の見直しは必須であり、事業戦略・ファイナンス・IRへの一歩踏み込んだ理解と連携を踏まえ、企業価値向上のため人事がどのように貢献していくのかをしっかり説明できるようにならなければならないと話す。また、従業員と企業の関係性の変化を踏まえて人材採用や活用の仕組みもデザインし直す必要があり、施策・制度など一つひとつのアウトプットにおいても人事がこれまで高くは求められてはこなかった「わかりやすさ・伝わりやすさ」はもっと改善しなければならないと説いた。資料一つとっても、人事がつくるわかりにくい資料は社員の体験を悪化させるので、人事としてわかりにくさからの脱却は益々重要になる。

  • 基調講演:社会的健康戦略研究所

    利潤の追求と環境変化対応を両立する
    ニューノーマル時代の経営戦略とは

    5つのポイントで解説する“働き方”の現在地

今求められる健康経営、パーパス経営、人的資本経営

社会的健康戦略研究所 代表理事 浅野 健一郎 氏

社会的健康戦略研究所

代表理事

浅野 健一郎

 社会的健康戦略研究所の浅野氏は、本フォーラムの紹介文の中から5つのキーワード「激変したビジネス環境」「DXは待ったなし」「生産性向上」「変化に強い自律型の組織と人材」「働き方改革はニューノーマル時代の『経営戦略』」を抽出し、ニューノーマル時代の経営戦略や、本フォーラムを聴講するうえでのポイントを解説した。

 最初は、「激変したビジネス環境」。社会の変化、テクノロジーの変化、ものづくりの変化など、ビジネスを取り巻く環境は常に変化している。しかも、すべてが並行して起こる。「本セミナーを聴講するうえで、講演者の方々がどのようなビジネス環境変化への対応を目的としているのかが、重要な視点です」と指摘する。

 続いて、「DXは待ったなし」では、「DXは特効薬ではあるが、同時に劇薬(リスク)でもあることに注意すべきです」と述べた。本セミナーの講演者はこのリスクを克服しているため、「人と組織の何を、どのようにDXし、その結果何を得たか。なぜうまくいったのか」が聴講のポイントだと語る。

 次の「生産性向上」「変化に強い自律型の組織と人材」は、「どうやって自律型に変革するのか、そのポイントは何か、そのときにデジタルをどう活用しているのか」が重要な視点となる。

 最後のポイントは、「働き方改革はニューノーマル時代の『経営戦略』」。何をニューノーマルと捉え、そこへの道筋をどう考えているか? ニューノーマルでの経営戦略となり得るものや、そのための主要ツール(DX、働き方改革など)を考えることが重要だと解説した。

 では、なぜ今働き方改革や人事戦略が重要視されているのだろうか。世界91カ国1300人強のCEOに「特に懸念している脅威」を聞いた調査によると、「鍵となる人材の獲得」は、2011年の56%から上昇を続け、2019年には79%になっている。しかし、日本企業の7割は、効果的な人材マネジメントができていない。その理由として挙げられているのが、「人事戦略が経営戦略にひも付いていない」と「デジタル化ができていない」だ。まさに、DXによって複雑な現実をシンプルにして見える化し、現状を把握したうえで経営課題に基づく人事戦略を策定することが求められている。

 「経営の命題は、利潤の追求とビジネス環境変化への対応を両立することです。地球環境の持続性や働き手の減少というビジネス環境変化が起きている今、この2つを両立させるためには、健康経営、パーパス経営、人的資本経営といった経営戦略が必要となります」と浅野氏は強調し、講演を終えた。

※出典:経済産業省「経営戦略と人材戦略」(2020年2月)

  • 特別講演:ベルリッツ・ジャパン

    コミュニケーションを重視しながら進めるDX/社内構造改革の手引き

    個の力を強めていき、組織の力に変えていく

コロナ禍でDX推進が加速

ベルリッツ・ジャパン 人事部 清水 里香 氏

ベルリッツ・ジャパン

人事部

清水 里香

 ベルリッツ・ジャパンでは、2018年から、商品・サービスのデジタル化、営業・マーケティング手法の刷新などを目的としたDX/社内構造改革に取り組んできた。しかし、取り組みが本格化したのは、登壇者を務めた同社の清水氏が「それまでスムーズに進んでいなかったところ、(コロナ禍で)やらざるを得ない状況になり、DXがさらに進んでいきました」と語ったように、新型コロナウイルス感染症が広がった後だった。そんな同社におけるDXは「組織を強化するためには個を強めていかなければならない」という考えの下で進めてきたという。

 では、実際にはどのような取り組みが行われてきたのだろうか? 

 セッションでは「チャットボットを活用した社内問い合わせ自動化」「社員自らがRPAツールを活用した業務効率化」「デジタルスキル向上と情報交換を目的にした有志の会『Berlitz AVENGERS』の立ち上げ」などの取り組みが紹介されたが、これらはいずれも社員が自発的に取り組んだもの。清水氏いわく「ある部門の成功事例が社内で波及しながら、社員が自発的に様々な取り組みを行う」のが同社のDXの特徴の1つのようだ。また、続けて紹介されたマーケティング部の取り組みも非常に興味深い。プロジェクト管理ツールを導入し、施策や課題を見える化した取り組みだが、組織調査の「生産性向上」項目が、半年間で49%も向上したのだ。

 以上のような取り組みが進む中、人事部では組織力向上のための支援に尽力してきたと清水氏。具体的には、マネジメントに対する研修やキャリアカウンセリング、ジョブポスティング制度などの実施を通じ、仕事や貢献意欲に対して気づきを与え、チャレンジにつなげていく──エンゲージメントサイクルを仕組み化していったのである。

 セッションの最後、清水氏は「個の力を強めていき、組織の力にいかに変えていくのかというところを、人事がしっかり策として打ち出していく──そういったところが重要になってくると思っています。デジタル化を進める上でも、根本にある大事なことは、コミュニケーションなのではないでしょうか? 人と人がつながり合うことでイノベーションやダイバーシティが体現されていくと考えています」と、これまでの取り組みをまとめたが、DXの本質を突いたかのようなその言葉は、多くの聴講者に多くの示唆を与えるものとなったようだ。

  • 特別講演:山野美容芸術短期大学

    ビジネスを活性化させる最強戦略としての「健康経営」

    データに基づく施策で経済効果を生み出す

健康経営は「経営戦略」の基礎

山野美容芸術短期大学 教授 新井研究室 主宰 新井 卓二 氏

山野美容芸術短期大学

教授
新井研究室 主宰

新井 卓二

 「人材マネジメントの能力が企業価値に直結する時代になっている」と新井氏は冒頭で述べた。企業にとって最も価値の高い資本は人材であり、昨今流行の「パーパス経営」においても人的資本は重要なキーワードになる。

 人的資本を向上させる土台となるのが健康経営だ。経済産業省は、企業の健康経営を推進するため、複数の表彰制度を設けている。大企業向けには「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人(ホワイト500)」、中小企業向けには「健康経営優良法人(ブライト500)」などがある。今日の経営の基礎は健康経営にあり、その上に企業理念や戦略、戦術などを構築する時代に入っている。

 最近、新井氏は「パーパスや戦略と健康経営がマッチしない」という話を聞くようになった。主な原因は、健康経営が従来型の産業衛生や安全衛生の延長線上にあると誤解していることだ。健康経営は産業衛生や安全衛生のような「管理」ではなく「戦略」である。従業員の健康増進を企業戦略と位置づけ、企業価値の向上につなげていく視点が求められる。

 また近年、「プレゼンティーイズム」や「アブセンティーイズム」という指標を駆使し、健康経営の状況を客観的に評価する動きが加速している。プレゼンティーイズムとは、従業員が健康上の理由で最大のパフォーマンスが発揮できていない状態のこと。例えば、腰痛や眼精疲労によって10あるはずのパフォーマンスが8に低下しているような状態をいう。またアブセンティーズムは、健康問題によって欠勤が起きている状態だ。

 これらの指標を活用し、「健康投資管理会計ガイドライン」に即して業務パフォーマンスを客観的に評価する。健康投資額を分母に取り、その効果を分子に取って健康経営の投資利益率(ROI)を算出するわけだ。

 また、新井氏は健康経営のレベル向上を目指すための3つのステップを紹介した。第1のステップは、経済産業省の「健康経営度調査」に参加すること。第2ステップでは健康投資管理会計ガイドラインに従って健康投資の最適化を進める。第3ステップで健康経営資源を活用し、独自の健康経営を確立する。

 健康経営に取り組むと、まず組織内のヘルスリテラシーとコミュニケーションが高まる。その結果、生産性やモチベーションが向上する。医療コストは、健康診断の受診を100%に高めるなどの施策によっていったんは上昇するが、従業員の健康リスクが下がることで長期的には減少する。

 新井氏は2022年6月に健康経営に関する書籍『最強戦略としての健康経営』を出版する。その中で、「ウェルネスキャリア」という新たな概念を紹介し、健康経営に必要な人材開発のノウハウについて解説している。

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