

「円安の逆風下でも、ベトナムIT企業による日本向けITサービス産業の市場規模は年15〜20%のペースで伸びていく」。ベトナムIT企業を束ねる業界団体、Vietnam Software & IT Services Association(VINASA)のグエン・ティ・トゥ・ジャン副会長は自信を見せる。日本向けのシステム開発に従事する技術者の人数も、毎年2割の勢いで増え続けている。現地取材を通じて、成長を続けるベトナムIT産業の最新動向に迫る。

ベトナムソフトウェア・ITサービス協会
副会長
グエン・ティ・トゥ・ジャン氏
急成長を支える最大の理由は、日越間における「商流」の変化にあるという。以前はベトナムのIT企業が日本のIT大手からシステム開発などの仕事を受ける、いわゆる下請けの形態が中心だった。ところがここ数年で「日本企業から直接受注する機会が増えている」(ジャン副会長)。日越のIT企業が汎用型のソフトウエアやクラウドサービスを共同開発し、収益を分け合うといったケースも出てきている。
日本向けに提供するITサービスの「内容」も変わりつつある。従来はプログラミングやコーディング、テストといった、下流工程の一部を受注する案件が大半だったが、近年はコンサルティングやDX(デジタルトランスフォーメーション)の支援、ソリューション提供、研究開発など、「上流工程や戦略案件まで受注できるようになった」(ジャン副会長)。
扱う「技術」についても、以前はC言語やJavaが主だったが、最近はAI(人工知能)やブロックチェーン、クラウド、IoT(Internet of Things)、ロボティクスなど最先端の分野に広がっている。特にブロックチェーンについては、「技術者の人数と会社数の両面で、ベトナムが東南アジアをリードしている状況だ」(ジャン副会長)。
商流、内容、技術という3つの側面からベトナムIT企業が成長できた背景には、VINASAによる支援がある。2002年の設立後、日本との関係強化に注力し、2003年には下部組織として日越IT協力クラブ(VJC)を設立した。VJCは日本向けのオフショア開発支援に加え、日本企業によるベトナム進出も支援している。
VINASAに加盟するIT企業は現在550社。そのうち日本向けにソフト開発やITサービスを手掛ける企業は100社を超える。VINASAによる地道な支援と、ベトナムIT企業の努力によって、「ベトナムIT業界の売上高全体に占める日本向けの割合は4%と、2009年の4倍に増えた」(ジャン副会長)。
日本向けIT事業に携わるベトナムのIT技術者数は推定で3万人ほど。日本向けの事業規模は推定で20億ドル(3000億円)規模に達するという。
日本から見たオフショア先としての存在感も年々高まっている。中国、インド、フィリピンに続く4番手だったが、今や「中国に次ぐ2番手だ」(ジャン副会長)。先頭を走る中国については安全保障などの観点から取引関係を見直す日本企業が増えている。「日本企業からの新たな受注に備え、準備をしています」とジャン副会長は述べる。
ベトナムは約1億人の人口を誇る。さらに平均年齢は30代前半であり、平均が約50歳の日本と比べ若年層が圧倒的に多い。そのような中で、IT産業は人気ナンバーワンの職種であるため、優秀な人材が集めやすいという。
日本向けビジネスを展開するIT企業も増え続けているという。早い時期から日本向けオフショアを提供している企業の創業者の多くは、日本での留学や勤務を経験していたが、「現在、盛んに起業している1980〜1990年の世代(20〜40代半ば)は、そういった経験がなくとも日本向けのビジネスをスタートしているし、日本企業とも良好な関係を築いている」(ジャン副会長)。
現在、ベトナム工科大学など複数の大学が日本語とITトレーニングのプログラムを提供しており、これを日越の政府が支援しているという。このほかにも様々なベトナムの大学や企業が、IT教育と日本語教育に力を注ぐ。
ジャン副会長はIT分野における日越のこれまでの歩みを振り返り、「最初の段階はたった数社で始めた取り組みが、今は何倍にも膨れ上がっている。10年後はもっと協力関係が深まっているはずだ」と語る。日本はデジタル化の需要が高まるにつれて技術者不足が深刻化している現状を踏まえ、「ベトナムの企業は若者が多く、技術的な能力を備えており、日本語も話せる。ベトナムは日本の問題を解決する、良い選択肢になるはずだ」と強調する。