CHRO×CDOラウンドテーブル [レビュー]

開催日:2024年10月29日(火)会場:ホテル雅叙園東京協賛:ベネッセコーポレーション

DXには
人事と
デジタルの連携が必須
CHROCDO
協働はいかにあるべきか

デジタル部門と人事部門は、仕事の内容も求められるスキルも対照的と思われがちだ。だが企業が変革を進めるうえではこの両者の連携が欠かせない。それぞれを統括するCHRO(最高人事責任者)とCDO(最高デジタル責任者)の協働はどうあるべきか。それを探るため、2024年10月「CHRO×CDOラウンドテーブル」が開催され、3つのアジェンダについて活発な議論が交わされた。司会進行は日経BP 総合研究所 チーフコンサルタント主席研究員の小林暢子が務めた。

  • 花田 琢也 氏

    日揮ホールディングス株式会社
    専務執行役員
    CHRO 初代CDO
    花田 琢也 氏

  • 小和瀬 浩之 氏

    株式会社荏原製作所
    執行役 CIO
    (情報通信担当)
    小和瀬 浩之 氏

  • 河西 敏章 氏

    双日株式会社
    常務執行役員
    人事担当本部長
    河西 敏章 氏

  • 瀬尾 明洋 氏

    株式会社IHI
    取締役
    常務執行役員 CHRO人財担当
    瀬尾 明洋 氏

  • 野村 泰一 氏

    J.フロント リテイリング株式会社
    執行役
    デジタル戦略統括部グループシステム推進部長
    野村 泰一 氏

  • 飯田 智紀 氏

    株式会社ベネッセコーポレーション
    執行役員
    社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)
    飯田 智紀 氏

テーマ 1 DX教育はやった。その先はどうする?

 せっかくDX人材を育成しても、人事や組織戦略とうまく連動しないと、宝の持ち腐れになりかねない。ラウンドテーブルの第1のアジェンダ「DX教育はやった。その先はどうする?」は、DX教育の先にある、人事との連動や成果創出への道筋作りを問うものだ。

 DX人材育成や人事変革などのテーマで、多くの企業に伴走するベネッセコーポレーションの飯田智紀氏は、「社員がDX教育を受けたのに、それを実践する場がなく、デジタルの知見がなかなか社内に流通していかない。育成した人材が組織のどこにいるか分からず、戦略的なアサインがしにくい企業もあります」と話す。

 DX教育を受けた人材にとっての実践の場は、デジタル部門などへの異動だけではない。今働く現場やその周辺での困りごとを発見し、デジタルの力で解決する現場密着DXを進めるJ.フロント リテイリングの野村泰一氏はこう話す。「デジタルをベースにしたビジネスをデザインしたり、データ分析や開発などの技術を身に付けたりした『コア人材』をこれまで100人以上育成してきましたが、彼ら彼女らが意味のある活動を実践し、それを価値につなげるには、コア人材だけでは足りません。各現場にデジタルリテラシーの高い人材が一定数いれば、課題を発見してDXの対象となる業務を発見できるし、経営層のデジタル活用の意識が高まれば、DXに取り組む社員を応援してくれます。コア人材だけでなく、経営と現場レベルを含め、3つの階層でDX教育を行っています」

 デジタル教育を受けた人材が、組織のどこにいるかを明らかにする「見える化」の取り組みの1つの例として、双日の河西敏章氏はこう話す。

 「DXの中核を担う人材は、今60人ほどいます。こうした社員と周囲の社員との対話を通じてデジタルの実装を加速するため、その60人には社内では一目でそれと分かる特別なネックストラップを用意することにしました」

 DX人材の見える化のため、荏原製作所は「技術元素表」を作成している。荏原製作所の小和瀬浩之氏は「元素表にならってデジタルを含む様々な技術を表にまとめ、どこにどのような技術を持つ人材がいるのか、一目で分かるようにしました」と話す。

 IHIの瀬尾明洋氏は、人材の見える化とジョブの見える化を両輪で進めてきたと話す。「どの事業のどこに変革の機会があり、どの業務をデジタル化することが重要か。そうした戦略的な判断の下、DX人材のプールから適任者を選んで、プロジェクトなどにアサインし、人材とジョブをマッチングしています」

粘土層のマインドを変える

 DX教育によって個人が変わっても、組織がなかなか変わっていかないのはなぜか。座長を務めた日揮ホールディングスの花田琢也氏は、「変革を阻む層の存在」を指摘する。「経営と現場との結節点に位置する部長たちが、ともすれば『粘土層』になってしまいます。上の水が下に落ち、下の水が上がっていくことを阻むこの層を『揺らし』て、変えていかなくてはいけません」

 日揮グループでは、部長層にAI研修など様々な機会を提供し、そのマインドに働きかけている。5年前にはデジタルインフルエンサー制度をつくり、各部門に配置して現場を「揺らし」続けている。

テーマ 2 デジタルを前提に、新しい働き方をつくる

 第2のアジェンダは「デジタルを前提に、新しい働き方をつくる」。第1のアジェンダより長期的な視野に立つ。

 「デジタルが当たり前になる時代には、その企業にとって望ましい働き方も変わるでしょう。デジタルにより生産性が向上する一方で、今は見えていないリスクも生まれるかもしれません。人事とデジタルをうまく連携させている企業の多くは、新しい働き方を強く意識しています」とベネッセの飯田氏は語る。自社に適した働き方は、企業にとってこれからの大きなテーマだ。

 双日の河西氏は「社内の各部門でデジタルと共存する働き方の模索が始まっています」と話す。例えば自身がかつて所属していたリスク管理部門では、取引先の格付け業務のDX化を進めている。「主に若手が担当する業務だが、『手間がかかる割に、自分の成長を実感しにくい』という不満がありました。そこでDXで自動化して、若手がよりやりがいを感じられる仕事にシフトできるようにしています」(河西氏)

 一方、生産性だけを重視した急速なデジタル化に警鐘を鳴らすのは、J.フロント リテイリングの野村氏だ。「小売りの現場でデータ活用は進んでいますが、例えば、『優良顧客を即時に分析できるシステム』をデジタル部門が開発して現場に提供しても、分析結果が担当者の肌感覚と異なっていたり、担当者が自分の存在意義を損なわれたと感じたりしたら、使ってもらえません。丁寧に対話して相手を尊重し、デジタルの価値を理解してもらうことが必要です」と指摘する。「変革のスピードと個人の意識の変化のスピードは必ずしも一致しません。人の心に寄り添うことを意識しなければ」(野村氏)

 IHIの瀬尾氏は「DXで重要なのはDではなくX、変革にどう取り組むかです。その取り組みを通じて、企業には『競争優位につながり、自社に残すべき要素は何なのか』という問いが突き付けられます。例えばオンライン会議をはじめとした生産性を上げる働き方は、どの企業にとっても有用なので横並びで導入していけばいいでしょう。一方で、その企業の強みに直結するプロセスやカルチャーは独自に作っていかなくてはいけません。それがCHRO、CDOの共通の課題でしょう」

変革のデザインを広める

 では新たな働き方をつくり上げるうえで、デジタルや人事部門はどのような役割を果たすべきなのか。日揮の花田氏は、「これまで仕事というものは基本的に縦のラインで行われてきました。デジタルの発達によって、横の情報共有が進み、連携できるようになりました。さらに今後は、斜めのつながりも重要になるでしょう」と話す。人事部門やデジタル部門は特に縦のラインが強く、上から言われたことに、高いレベルで応えることに価値があると考えられていたが、それを改め、「斜めのラインを重視し、様々な部門に乗り込んで現場のシーズやニーズ、ウォンツをつかまなければなりません」と花田氏は話す。

 J.フロント リテイリングの野村氏は「デジタル部門は技術を提供する部署と考えられがちだが、これからは『デザイン』の機能を担っていきます」と話す。変革においては、ビジネスや組織、人をどう結び付けていくかをデザインする必要がある。この主体は事業部門などになるが、「デザインのやり方」を教えるのがデジタル部門になるという。「データやビジネスの流れを踏まえ、そこに関わってくるであろう様々なステークホルダーのアクションを想定して新しい流れをつくっていく。それをサポートするのがデジタル部門だと考え、社内でデザイン思考を啓もうしています」(野村氏)

 IHIの瀬尾氏は「デジタルの価値の1つは、膨大な生データを収集・分析できることです。生データの根拠があれば、誰も文句が言えなくなる。これをいかに生かすか、行動に結びつけるかが問われます」と言う。

 これを受けて双日の河西氏はエンゲージメント調査の生データを、個人情報を切り離した形で各部門に渡している取り組みを紹介した。「『人事部門あるある』に、良かれと思って考えた施策が、独善的になって現場から受け入れられないということが挙げられます。生データをそのまま現場に渡すのは、人事部門としては勇気の要る決定でしたが、各部門は工夫しながら生データを分析し、課題発見などに取り組んでいます」(河西氏)

 エンゲージメント向上のヒントが得られれば、働きやすい職場づくりにも生かせるだろう。それは、企業風土の変革にもつながるかもしれない。「DXに向けたカルチャー変革は険しく長いプロセスですが、人事部門とデジタル部門がうまく連携することで、そのプロセスをよりスムーズなものにできるでしょう」と荏原製作所の小和瀬氏は話す。

テーマ 3 デジタルとHRが協働できる場をつくるには

 第3のアジェンダは「デジタルとHRが協働できる場をつくるには」である。デジタルが業務に浸透する中で、デジタルリテラシーの全社的な底上げが求められている。

 「それぞれの現場にリテラシーを埋め込むのは容易ではありません。また、それを誰が責任を持って実行するのか。現場任せでいいのか、あるいは人事部門、デジタル部門はどのように関与すべきかで悩んでいる企業もあるでしょう」と飯田氏は語る。互いの立場を尊重するためか、各部門が「お見合い」状態になっているケースもあるようだ。

 こうした課題に対して、花田氏はCHROとCDOの対話が重要だと指摘する。

 「経営戦略はn次方程式であり、必ず因数分解することができます。そのとき、人事に特有の因数もあれば、デジタルならではの因数や両方に共通する因数があります。共通する因数については、CHROとCDOが深く話し合い、両者の部下の各レベルでも認識を合わせる必要があるでしょう。その上で、具体的なプランをつくり実行するのです」

マインドの共通言語を持つ

 まずは、各部門のトップ同士が議論を深めることが重要との指摘だが、双日はこれを役員合宿などの場で実践している。「ここ数年、役員合宿のテーマの3本柱は事業戦略、人材戦略、デジタル戦略です。これらについて徹底的に議論します。普段からのコミュニケーションは欠かせません」と河西氏は話す。例えば、重要な協業案件が生じたときなど、CHROとCDOが疎遠な状態では、腹の探り合いから始めることになるかもしれない。これではDXは程遠いだろう。

 荏原製作所では、毎週の執行ミーティングが連携の土台づくりに役立っているようだ。「全執行役が参加する会議ですが、これがコミュニケーションの重要な機会になっています。世界各地の執行役が参加するので、オンライン会議としての開催です。本来は対面で行いたいところですが、事業をグローバル展開している以上、対面で毎週は現実的ではありません。デジタル時代のコミュニケーションは大きな課題です」(小和瀬氏)

 花田氏が指摘したようにCHROとCDOだけでなく、部課長や一般社員など各レベルでのコミュニケーションも重要だ。また、野村氏は全社的なデジタルマインドの醸成、その共通化を重視しているという。

 「3つの階層でDX教育を実施していると述べましたが、具体的なプログラムとは別に、マインドに関する教材はすべて同じものを使っています。役員とDXコア人材、一般社員が共通のマインドを持って、それぞれの持ち場でDXに取り組む必要があると考えているからです」

 こうした施策により、経営トップから現場まで、マインドの部分では「共通言語」で理解し合うことができる。そのような土壌づくりができれば、他部門との連携はスムーズになり、共通課題の発見、成功事例の横展開なども容易になるだろう。

 例えば、野村氏はデジタル部門と人事部門が協力して、求められる人材像を定義したことがある。「人事部門は人的資本経営、デジタル部門はDXという大きなテーマを抱えています。それぞれの部門が自部門の都合に合わせて人材像を検討すれば、部分的に部門間の利害が衝突することがあるかもしれません。そこで、一緒に人材像を定義しました。1つの成果を複数部門が共に社内アピールできる状態が望ましいと思っています」

 CHROとCDO、いずれも経営の中枢を担う立場だけに、中長期的な視点で企業の将来を見据える必要がある。瀬尾氏は次のように話す。

 「足元のビジネスだけでなく、今後どのような社会になるのか、事業はどのように変わるかを、経営者は考え続けなければなりません。DXマインドの醸成や共通化とともに、ビジネスの未来についてもCHROとCDOは議論を交わしながら、お互いの認識を深める必要があります」

 ラウンドテーブルを通じて最も頻出した言葉は、“コミュニケーション”である。花田氏の言葉を借りれば、「組織における縦、横、斜めのコミュニケーション」が重要だ。それを促進する環境づくりにおいても、CHROとCDOは大きな責任を担っている。

CHRO×CDOラウンドテーブルの参加者一同。終始なごやかな雰囲気でディスカッションは進んだ。一番右は司会進行役の日経BP 総合研究所 小林暢子

ベネッセコーポレーション

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