クラウドサービスが普及する中で、通信の遅延が大きな課題となっている。顧客体験を向上させるため、通信やデータセンターの事業者は「分散型クラウドモデル」への移行を急ぐ。それを支えているのが、光ネットワークの広帯域・高速通信だ。すべての通信を光で実現するAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)が加速している。この分野で世界をリードする日本シエナコミュニケーションズの今井俊宏氏に、データと通信を取り巻く課題と最新トレンドについて聞いた。

通信の遅延が顧客体験の大きな課題に
「分散型クラウドモデル」への移行が加速

通信やデータサービスを提供する事業者は、どのような課題に直面しているのでしょうか?

一局集中型のクラウド活用が進むにつれて、それを支えるデータセンターのトラフィックが爆発的に増えています。TeleGeography Transport Network Forecast 2023の調査によれば、毎年30%のスピードで増えており、従来のクラウドに加えてAIクラスターの構築が進むと、その勢いは今後さらに加速していきます。

クラウドを活用したアプリケーションやサービスが続々と登場する中で、通信の遅延が顧客体験を悪化させる大きな要因として注目されるようになりました。その結果、通信インフラの構造が大きく変化しています。サービスを提供するクラウドの機能を、なるべくユーザーの近く(エッジ)に配置し、遅延を改善する試みが進んでいます。

従来は、大きなデータセンターを作り、ユーザー側端末と1対1で直線的につなぐ構造が主流でした。しかし今日では、一局集中型のクラウドモデルからデータセンターを分散化させてエッジ近くで移動させ、センターとエッジを結ぶだけでなく、エッジ同士も通信するメッシュ状の「分散型クラウドモデル」へと進化しています。多数のマイクロサービスが互いに連携するクラウドネイティブな世界が普及するに伴い、この傾向はますます強まるでしょう。

通信の遅延を防ぐため、データセンターを分散させてユーザーの近くに配置し、お互いをメッシュ状につなぐ「分散型クラウドモデル」への進化が加速している

この動きが進んでいる背景には、別の要因もあります。一つのデータセンターにリソースを集中させて巨大化すると、消費電力が急激に増えますし、広大な土地とスペースが必要になります。エネルギー価格の高騰や脱炭素社会へのトレンドからも、データセンターを分散化させるニーズが高まっているのです。

「APN(オールフォトニクス・ネットワーク)」が実用化へ
製品とサービスが揃い、導入企業が続々

分散型クラウドモデルを実現するには、何が必要でしょうか?

分散化された多数のサーバーやストレージを高速につなぎ、連携を強化する必要があります。それを支える中心的な技術が、デジタルコヒーレント光伝送ネットワーキング・ソリューションです。通信インフラの隅々まで、可能な限り光回線だけで接続する「APN(All Photonics Network=オールフォトニクス・ネットワーク)」が注目されるようになりました。光だけでつなげば、途中で電気信号に変換する際に起因するデメリット(コスト増加、消費電力増加、遅延増加など)を除け、通信を効率化できます。当社はこの分野で世界をリードしています。

従来の光通信インフラストラクチャーは、光の強弱を使ってデータを送受信していました。今日、光通信技術の中心は「デジタルコヒーレント光伝送方式」に移行しつつあります。光の強弱だけでなく、波としての性質も利用して、大容量かつ長距離の通信を実現します。当社はデジタル光伝送方式の開発を世界的にリードしてきました。シエナのデジタルシグナルプロセッサー開発チームを率いるWaveLogic Science担当VPであるKim Robertsが、実用的なデジタルコヒーレント(DSP)光通信技術開発への貢献が認められ、2019年に「ジョン・チンダル賞」を、2024年にはIEEE Photonics Awardを受賞しています。

継続的な研究開発とイノベーションの積み上げにより、2005年にシエナが初めてDSPを活用した光電ソリューションではわずか10Gbpsだった通信速度が、2017年のWaveLogoc Aiで400Gbps、2020年のWaveLogic 5 Extremeでは800Gbpsへと劇的な高速化を実現しています。シエナはデジタル光伝送ネットワーキング技術の最先端に立ち、今年後半には業界初の1.6Tbpsソリューションを実現する「WaveLogic 6 Extreme」の製品群を発売する予定です。

シエナはすでに、APNに必要な一連の製品群を揃えています。デジタルコヒーレント光通信技術、ROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)、リモートトランスポンダー、スイッチポンダー、PON(パッシブ光ネットワーク)、IPレイヤと光を融合するコヒーレント・ルーター&スイッチ、ネットワークソフトウエア、システムをインテリジェントかつ効率的に運用管理するプラットフォーム等です。加えて、デジタルコヒーレント光伝送用プラグやPON用のμOLTプラグは、データセンターや装置収容局の小スペース化とコスト削減を進めたいお客様に大変喜ばれています。

シエナコミュニケーションズの主な製品群。APNを構成するためのハードウエア、ソフトウエア、管理プラットフォームを提供している

シエナの強みは、どこにありますか?

デジタルコヒーレント光伝送のパイオニアとして、「より速く、よりスマートな、よりグリーンな」Adaptive Network(適応型ネットワーク)に注力し、アクセスから、メトロ、コア、データセンター間接続、海底ケーブル通信まで様々な領域をオープンにAPN化するための技術を提供しています。

シエナコミュニケーションズが実現するAPNの全体像。APNの構築に必要な機材とサービスを提供している

データセンター間をつなぐだけでなく、公共サービスや長距離接続、数千kmを光でつなぐ海底ケーブルなどでも大きな役割を果たしています。個々の要素技術を組み合わせ、1つの地域だけでなく世界をつなぐようなAPNの構築に貢献しています。

エコシステムとマルチベンダー化に努力
「IOWN Global Forum」も積極的に推進

「IOWN Global Forum」への参加など、マルチベンダーによるAPNの実現に努力されています。
なぜ、マルチベンダーが重要なのでしょうか?

低コスト化や冗長性の観点から、同様な製品を異なるベンダーから購入し、マルチベンダー化したいお客様は少なくありません。半導体不足の影響で、複数のベンダーに製品を手配せざるを得ないお客様もいます。

マルチベンダーで相互接続できなければ、お客様が困ってしまいます。例えば、A社のAPNとB社のAPNをつないで広域化するには、両社の機器をつなぐインターフェースが必要です。各分界点でどのような監視が必要か、長距離通信で劣化する信号を、どこで再生中継すればよいかなど、インフラ全体の可用性を高めるノウハウが求められます。当社はそうしたエコシステムがしっかりと機能するよう、オープン化へも積極的に取り組んでいます。

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、2020年に設立された次世代コミュニケーション基盤の国際フォーラムです。インテル、ソニー、日本電信電話(NTT)の3社が発起人となって誕生しました。当社のCTOを務めるStephen Alexanderが、ボードメンバーとして参加しています。

2024年3月に行われた光ネットワーク技術の世界最大級の国際会議「OFC 2024」でも、NTTコミュニケーションズと協力して「IOWN APN」のマルチベンダー相互接続検証を行いました。当社のWaveLogic 5 NanoをNTTの通信機器に接続し、マルチベンダー環境において、400Gbps OpenZR+による高速通信が問題なくできることを実機で証明しました。

APNは1社では実現できません。APNの市場を拡大していくためにも、業界全体が協力していく必要があります。

未来を見据えた「3つの視点」で技術を磨く
通信とデータセンターに大きなメリット

今後、シエナコミュニケーションズの製品開発はどのような方向に進化していくのでしょうか?

未来を見据え、3つの視点から研究開発を進めています。

1つ目は「よりグリーンに」です。通信を高速化すればするほど、機器の発熱が課題になっていきます。冷却効率の高い、大規模な水冷式のクーリングシステムの可能性を探っています。OFC2024では水冷式400Gb/sコヒーレント・プラガブル・トランシーバの先端技術デモを行い、非常に多くのお客様から注目を集めました。

2つ目は「より速く」です。WaveLogic 6では、1.6Tモジュールと800Gプラグは、CバンドとLバンドの両方に対応する予定です。国内の通信インフラはDSFファイバが多く、Lバンドへの対応が必須ですし、グローバルマーケットにおいては、ハイパースケーラー各社からも伝送容量を拡大する為にLバンド対応が求められています。日本市場で25年以上オプティカルビジネスを行なってきた経験から、グローバルマーケットを見据えながらも日本特有の条件を満たす製品開発を意識して行っています。

3つ目は「より安全に」です。
シエナは、最大800Gb/sの大容量光レイヤ暗号化をサポートしています。また、複数の「量子暗号光通信(Quantum Key Distribution:QKD)システムベンダーと協力し、短距離アプリケーション向けの800Gbps量子セキュア通信の実証に成功しています。また、長距離アプリケーション向けの量子セキュア光通信を実現するため、人工衛星をQKDに使用する先進的なネットワーク研究プロジェクトにも参加しています。

シエナは今後も通信事業者やデータセンター事業者に大きなメリットをもたらす業界トップクラスのテクノロジーやソリューションを提供し、適応型ネットワークの構築を支援するため業界をリードしていきます。

デジタルコヒーレント光伝送を主軸としたシエナのイノベーティブなテクノロジーは、APNがもたらす価値(低消費電力、高帯域伝送、低遅延等の実現)に共鳴していると考えており、APNの実現に是非貢献したいと考えています。

東京都千代田区、東京駅のすぐ近くに多数の実機を用意したシエナのラボがあります。マルチベンダー相互接続検証や最新機能の試験、導入前の動作確認などを実行して頂けます。必要なサービスやサポートは、グローバルレベルで対応可能です。シエナのイノベーティブな取り組みで、お客様やパートナー様のイノベーションを支援すると同時に、サステナブルな取組みを通じて、日本の成長と社会全体の発展に貢献したいと考えています。お気軽にご相談ください。

日本シエナコミュニケーションズ合同会社

https://www.cienacorp.jp/