
つい先ごろ(5月下旬)ラスベガスのベネチアンリゾートで3日間にわたり開催されたDell Technologies World 2024。巨大な会場を埋め尽くすパートナー展示をはじめ150を超える講演や発表に共通するキーメッセージは「生成AIのもたらす革命の波に乗り遅れるな」だった。急成長する生成AI市場を見据え米国のIT大手は着々と事業戦略を固めている。デル・テクノロジーズもこの市場に向けた製品ポートフォリオを整え、さらに主要プレーヤーとのエコシステムを構築した。今後は「Dell AI Factory」構想のもと、生成AIのビジネス導入を考える顧客企業に向けAIに特化したインフラ構築サービスを展開していく。

「時代はまさにコンピューティング(単なるデータ処理)からコグニティブ(人工知能による学習や推論)に移り変わろうとしています」。そう語るのは初日の基調講演に登壇したデル・テクノロジーズの会長兼CEOマイケル・デル氏。その言葉の意味するところは、生成AIが社会と産業界に引き起こした巨大なパラダイムシフトだ。
実際、自然言語の入力でテキストから画像、音楽、動画まであらゆるデジタル情報を生み出す生成AIはビジネスをはじめ学術研究から芸術、エンタテイメントまであらゆる領域に革命を起こしている。今後どんな企業も生成AIなしでは仕事が進まなくなるといっても過言ではないだろう。
基調講演のステージにゲストとして招かれたエヌビディア(NVIDIA)社のCEOジェンスン・ファン氏も詰めかけた聴衆に向かい「今後はどんな企業もAI企業になる」と宣言した。エヌビディアはAIの頭脳といえるGPU(グラフィック・プロセシング・ユニット)を開発するチップメーカー。その時価総額はこの2月2兆ドルに達し、グーグルの持ち株会社アルファベットを抜いて世界第3位となった。
参加者が埋め尽くした基調講演会場

しかし、大手をふくめ多くの企業にとってファン氏のいう「AI企業」へのトランスフォーメーションは簡単な仕事ではない。そのためには「AIに特化した新たなインフラとデバイスが求められる」とデル・テクノロジーズの副会長兼COOジェフ・クラーク氏は強調する。実際、テラバイト級のデータをミリ秒単位で処理するAIテクノロジーを業務現場で展開していくためにはクライアントデバイスをはじめデータセンターやクラウド、アプリケーションプラットフォームなどの見直しが不可欠だ。
基調講演の壇上でデル氏の隣に立ったファン氏は「そのすべてをサポートできるのは世界で唯一デル・テクノロジーズだけだ」と語った。

実際、デル・テクノロジーズは自社のハードウェアとサポートに加え大手AIプレイヤーとの連携を交えたAI基盤構築サービスを展開している。
「Dell AI Factory」と名付けられたこの取り組みのパートナーリストにはAI用半導体開発のエヌビディアやクアルコム、Azure AIサービスのマイクロソフト、大規模言語モデルLlama 3を提供するメタ、AIモデルのオープンソースプラットフォームを展開するハギングフェースなどが名を連ねる。
EMCとの統合によりITソリューション企業としての認知を高めているデル・テクノロジーズだが、生成AIの基盤構築に関しても実績を挙げている。生成AIを活用した業務生産性向上プラットフォームを運営するサービスナウ(ServiceNow)社はその成功事例のひとつだ。元SAPのCEOで現在サービスナウ社のCEOを務めるビル・マクダーモット氏はデル・テクノロジーズの構築したAI基盤について「これまでにない成果を挙げている」と話す。
デル・テクノロジーズのグローバルCTO(最高技術責任者)を務めるジョン・ローズ氏は「今後生成AI市場はエンタープライズセクターを中心に大きく躍進するだろう」と話す。「大手企業にとって生成AIの導入は必須課題です。Dell AI Factoryはそんなお客様に足掛かりとしてのAI基盤を提供するものです」。
企業や行政機関にAI基盤を提供する「Dell AI Factory」

今回のカンファレンスではこうした戦略に沿って開発された製品群も発表された。
ラックあたり最大72のGPUを搭載できる水冷式高速エッジサーバーPowerEdge XE9680L、NVIDIA DGX SuperPODに対応したイーサネットストレージPowerScale F910、高帯域、低レイテンシーで生成AIのワークロードをこなすイーサネットスイッチPowerSwitch Z986F-ON、そしてマイクロクロソフトのCopilotに対応した“AI PC”がそれにあたる。
5機種ある“AI PC”のうちXPS 13、Latitude 7455、Inspiration 14Plusにはクアルコム社のSnapdragon(スナップドラゴン)Xが搭載された。これは1秒間に45兆回の演算処理をこなすNPU(ニューラル・プロセッシシング・ユニット)を備えた最新AIチップだ。電力消費が少ないのでバッテリ—寿命にも貢献する。
(画像左)「生まれ変わったPC」と大きく書かれたクアルコム社の展示ブース
(画像右)基調講演で発表された5機種の“AI PC”

もうひとつカンファレンス会場で目を惹いたのがテキサス州アマリロ市に導入されたエマ(Emma)だ。エマはデル・テクノロジーズが開発した“デジタルヒューマン”。悲しい話題には同情的な表情、嬉しい話題には笑顔で応答した。
アマリロ市は62の言語が入り乱れる多言語コミュニティ。自然災害の警報や子供たちの教育などで言語ギャップによる不便が生じていた。そこで市は生成AIの活用を構想。デル・テクノロジーズに基盤構築を依頼した。依頼を受けた同社はコミュニティの現状把握からはじめ、大規模言語モデルを搭載した“デジタルヒューマン”を開発。市民はスマホからエマに直接アクセスするだけで必要な情報を入手することができるようになった。
「ひとつのアクセスポイントで欲しい情報を自分の使う言語で得ることができるというのは市民にとって大きなメリット」とアマリロ市のCIOを務めるリッチ・ガノン氏は話す。「デル・テクノロジーズは生成AIの活用に関して予想以上の仕事をしてくれました」。
多言語対応で市民をアシストする“デジタルヒューマン”エマ

デル・テクノロジーズ
グローバルCTO
ジョン・ローズ氏
生成AIをはじめとするAI関連のこうした事例は今後さらに増えていくだろう。国内でも大手インターネット総合サービス事業社によるデジタル広告用機械学習の基盤構築やスバル(SUBARU)社の予防安全運転支援システム「アイサイト」の開発用AI画像解析システムといった事例が見られる。 これら日本発の事例はグローバルでも紹介されており、とくにアイサイト事例は今回のカンファレンスで記者向けの特別セッションが行われた。
ビジネスやサービスの業務生産性を飛躍的に高める生成AI。デル・テクノロジーズのグローバルCTOローズ氏にそのメリットについてあらためて問いかけると氏はこう応えた。「業務生産性が高まることは間違いありません。経営者の立場でそれを言い換えれば、社内に優秀な(デジタル)人材が増えるということです」。
デル・テクノロジーズ
グローバルCTO
ジョン・ローズ氏
(画像左下)展示場に設けられたハンズオン会場
(画像右下)F1チームマクラーレンの展示ブース
ロサンゼルス在住のアーティスト エリー・ブリッツによる AIを使ったアート作品
関連記事