新たなステージに入った

Dell APEX

マルチクラウドをより簡単に利用できる

運用管理サービスが続々登場

2024年5月19日から22日にかけて、「Dell Technologies World 2024」が米国ラスベガスで開催された。既に様々な媒体でも取り沙汰されているが、ここ数年で最も熱気のあるイベントの1つとなった。Dell APEX関連でも、生成AIの実装をはじめ複数の重要な発表が行われている。ここではそれらの中から注目すべきものをピックアップし、その内容や利用企業にとってのメリットを解説していきたい。

マルチクラウド・バイ・デザインを具現化してきたDell APEX

今回のDell Technologies World(DTW) 2024のメインメッセージは「Accelerate your AI adoption(AI活用の加速)」。基調講演でも創業者兼CEOのマイケル・デル氏が、AI活用を加速する様々なテクノロジーに言及していた。このような中、Dell APEX関連でも複数の発表が行われていた。

 

ここでDell APEXとは何かについて、簡単に振り返っておきたい。

デル・テクノロジーズが「Dell APEX」を発表したのは、2021年5月に開催されたDTW 2021だ。この当時は、オンプレミスシステムにパブリッククラウドのユーザー体験を導入し“サービス型モデル”を実現する、という側面が注目されていたが、その本質はオンプレミスとパブリッククラウドを融合し、データやワークロードを自由に動かせる世界を創り上げることにある。

こうした考え方を「マルチクラウド・バイ・デザイン」として提唱した上で、その実現に向け、オンプレミスとクラウドの双方向戦略を提示。「クラウド・トゥ・グラウンド(クラウドライクな体験をオンプレミスでも実現する)」「グラウンド・トゥ・クラウド(オンプレミスの先進機能や使い慣れた機能をクラウドでも利用可能にする)」という2つのアプローチを打ち出したのだ。

デル・テクノロジーズ株式会社
Customer Centric Cloud and Containers
アジア・パシフィック&ジャパン
アドバイザリーシステムエンジニア
平原 一雄氏

「このころ、既に多くの企業がパブリッククラウドへの移行を進めていましたが、クラウドの進化は目覚ましく、それに追従できない運用管理者も増えていました。またオンプレミスと複数のパブリッククラウドでシステムがサイロ化し、管理・運用が煩雑化。データ/ワークロードの最適な配置が難しい状況にありました。こうした問題を解決するため、デル・テクノロジーズはマルチクラウド・バイ・デザインという考え方を提唱。マルチクラウド環境全体のシンプル化を目指しました。そしてその実現に向け、様々なテクノロジー製品を矢継ぎ早に発表してきたのです」とデル・テクノロジーズの平原 一雄氏は振り返る。

既にストレージに関しては、オンプレミスと複数のパブリッククラウドで同じように利用できる環境を整備。デル・テクノロジーズではこれを「ユニバーサル・ストレージ・レイヤー」と呼び、Dell APEX全体の中核に据えている。これによってデータを自由自在に、マルチクラウド間で移動できるようにしているわけだ。その一方で、コンテナ環境をマルチクラウドで共通化する「Dell APEX Cloud Platforms」という取り組みも推進してきた。

これからのDell APEXは「より簡単に」へと軸足がシフト

今回のDTW 2024では、このDell APEXが「次のステージに入った」ことが示された。これまでは「マルチクラウド・バイ・デザイン」というコンセプトを具現化するソリューションの提供に軸足が置かれていたが、今回はこれらのソリューションを「より簡単に」利用できる運用管理サービスの発表がメインとなったからだ。まず注目したいのが、SaaS型の運用管理サービス「Dell APEX Navigator」に関する発表である。

その1つが、オンプレミスに加えてパブリッククラウド上のDell APEXストレージも統合管理できる「Dell APEX Navigator for Multicloud Storage」のサポート拡張である。既に米国では2023年11月から、Dell APEX Block Storage for AWS向けのDell APEX Navigator for Multicloud Storageが利用できるようになっていた。今回のDTW 2024では、Dell APEX File Storage for AWSやDell APEX File Storage for Azureでも、利用可能になることが発表された。

既に米国で提供が始まっていた「Dell APEX Navigator for Multicloud Storage」ではサポート対象が拡大された。その一方で、Kubernetes環境でのストレージソフトウエア導入・管理を合理化できる「Dell APEX Navigator for Kubernetes」も新たに発表されている

実はDell APEXは当初から、オンプレミスのDell APEXストレージを統合管理できる「Dell APEXコンソール」が提供されていた。Dell APEX Navigatorの登場で重要なのは、管理対象をオンプレミスだけではなく、「パブリッククラウド上のDell APEXストレージ」にも拡大した点にある。

「Dell APEX Navigatorによって、マルチクラウド環境へのストレージのデプロイを、エンド・ツー・エンドで自動化できます。また、各ストレージの利用状況も一元的に俯瞰でき、それぞれのストレージに格納されているデータの移動も同じ画面で管理可能です。利用状況の管理は『Cloud IQ』と連携することで実現しています。Cloud IQはAIを活用したSaaS型の可観測性ソリューションであり、これまでもデル・テクノロジーズのインフラストラクチャー製品向けに提供されていたものです」(平原氏)

新たに発表されたものもある。マルチクラウドのKubernetes環境におけるデータストレージソフトウエアの導入・運用・管理を合理化できる「Dell APEX Navigator for Kubernetes」がそれだ。

「ストレージ製品をKubernetes環境で利用する場合には、別途CSI(Container Storage Interface)ドライバの導入を行う必要があり、その管理にも手間がかかっていました。この導入作業を自動化し、状況管理まで行えるようにするのがDell APEX Navigator for Kubernetesです。スナップショット機能などの拡張モジュールの導入にも対応。コンテナアプリケーションのモビリティを実現するには、そのアプリケーションが利用している永続ストレージのモビリティも必要になりますが、これを簡単に実現できるようになります」(平原氏)

Dell APEX Navigator for Kubernetesはまず米国でリリースする予定。ここでユーザーからのフィードバックを得た上で、ほかの地域への展開へと進んでいくことになるという。

AIOps実現に向けた新たなチャレンジも

新たに発表されたのは「Dell APEX Navigator for Kubernetes」だけではない。「Infrastructure Observability(インフラストラクチャーの可観測性※1)」「Application Observability(アプリケーションの可観測性)」「Incident Management(インシデント管理の効率化)」で構成される「Dell APEX AIOps」も今回新たに発表された。

「Infrastructure Observability」は既にCloudIQで実現されていたが、今回生成AIを活用した「AIOpsアシスタント」が追加された。その一方で「Application Observability」と「Incident Management」は、新たなチャレンジだという

「Infrastructure Observabilityは既にCloudIQ(※2)で実現されていましたが、今回の発表では、このCloudIQをAPEX AIOpsの一サービスとしてリブランド化し、そこに生成AIで管理者の疑問に素早く回答する『AIOpsアシスタント』が追加されました。CloudIQでは膨大なデータに基づくインフラストラクチャーに関する洞察が提供されていますが、当社の膨大なナレッジベースと生成AIを組み合わせることで、運用担当者は洞察に対するアクションのための情報検索・収集の負担を大幅に軽減できます」(平原氏)

これに対し、ほかの2つは今回新たに追加されたもので、Dell APEX AIOpsに向けたデル・テクノロジーズの新たなチャレンジなのだという。

「Infrastructure Observabilityによってインフラレイヤーの可観測性は実現しますが、これをアプリケーションレイヤーにも広げるのがApplication Observabilityです。しかも単にアプリケーションの可観測性を実現するだけではなく、インフラレイヤーの情報と統合した可視化が可能です」と平原氏は説明する。

またIncident Managementは、AIによって「アラートストーム」を解消するための仕組みだ。アラートの相関分析によって関連するアラートを1つのインシデントとして集約、これを管理者に提示することで、見るべき情報を大幅に減らし、的確なアクションに結び付けることで問題解決までの時間を短縮できるのだという。

Dell APEX NavigatorとDell APEX AIOpsに関する発表で感じられるのは、1つの管理ツールのカバレッジ範囲を拡大することで、より少ないツールでマルチクラウド全体の管理を可能にしていくという、デル・テクノロジーズの強い姿勢だ。

「実際にこれまでは、Dell APEXの管理ツールだけではカバレッジが限定的だったこともあり、他社製品を組み合わせて運用管理するケースも多く、『この機能を提供してくれればいいのに』といったご意見をいただくこともありました。今回発表されたDell APEX関連の発表は、このようなご意見を反映した結果でもあるのです」(平原氏)

※1 可観測性:あらゆるデータを監視・分析し、システムに影響を与えている原因を特定するもの
※2 CloudIQ:ストレージの稼働状況に関するデータをクラウドに集約し、様々な洞察を引き出していくための機能

生成AI活用を支えるためにも重要なDell APEXの進化

DTW 2024ではもう1つ、Dell APEX関連の興味深い発表があった。それは「Dell APEX Cloud Platforms」における、AI分野でのリファレンスアーキテクチャだ。「AI分野でのリファレンスアーキテクチャ」とは、具体的にどのようなものなのか。平原氏は次のように説明する。

「多くの企業がパブリッククラウドでのAIを活用したデジタルアシスタントの利用を模索していますが、その中には企業内文書へのアクセスが制限されているため、満足のいく結果が得られていないケースも少なくありません。この問題を解決するための最も低リスクな方法は、オンプレミスにLLM(Large language Models:大規模言語モデル)とRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)の仕組みを構築することです。最近では様々なAIコンポーネントがコンテナ環境に実装されるケースが増えており、Dell APEX Cloud Platformsを活用することで、パブリッククラウドで動かしていたAI関連のコンテナアプリケーションを、オンプレミスで速やかに動かすことができます。しかしデジタルアシスタントの実現には、かなりパワフルなインフラを用意しなければなりませんし、AI基盤構築のノウハウも十分ではありません。そこでDell APEX Cloud PlatformsとRed Hat社との例ではOpenShift AIを組み合わせてどのように実現すればいいのかを、明確に示したのがこのリファレンスアーキテクチャなのです」

具体的には、AI/MLのプラットフォームとなるRed Hat OpenShift AIを動かすために必要なDell APEX Cloud Platformsの構成として、スケーラブルなベアメタルサーバー群、オブジェクトストレージ、広帯域なネットワークなどが示されている。これらによって、LLMやRAGに対する厳しい性能要求やセキュリティーを満たせるようにしているわけだ。

オンプレミスでLLMやRAGの環境を利用したい場合、このリファレンスを活用することで必要なインフラを迅速に構築できる

「これはAIユースケースの『クラウド・トゥ・グラウンド』を具現化したものだといえます。このようなリファレンスがあることで、デジタルアシスタント実現に必要なオンプレミスのコンテナ基盤を、より迅速に構築することが可能になります」(平原氏)

AIの可能性を追求するためにオンプレミスでの活用が広がっていけば、マルチクラウド・バイ・デザインの考え方はより重要になっていくだろう。当然ながらマルチクラウド全体をシンプルに運用管理できることも、必要不可欠になっていくはずだ。

このように見ていくと、DTW 2024の主要テーマだったAI活用の加速は、Dell APEXの新たな進化がなくては実現が難しいことが分かる。つまり両者は表裏一体の関係にあるのだといえるだろう。

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