
AIはかつてない変革とビジネスチャンスをもたらす可能性を秘めたテクノロジーだ。ただし、その潜在能力を最大限に引き出すためにはいくつかの課題もある。こうした課題を払しょくするため、デル・テクノロジーズは、多様なポートフォリオとオープンなエコシステムにより、AIの開発・検証からビジネス実装まで全方位的に支援している。AIの可能性とその未来を見据え、デル・テクノロジーズは日本市場にどのようにコミットしていくのか。Dell Technologies グローバルCTO兼CAIOを務めるジョン・ローズ氏に話を訊いた。

――AIの利用が広がりを見せています。これによってビジネスはどう変わっていくでしょうか。
Dell Technologies
グローバル チーフ テクノロジー オフィサー
&チーフAIオフィサー
ジョン・ローズ氏
ローズ氏 AIは認知作業を人から機械に移行させることで、生産性を大幅に向上させるツールです。世の中の仕事の20~30%はAIに任せられるのではないかといわれています。実際、ソフトウエア開発やコンテンツ生成、バーチャルアシスタント、記憶の増強、創薬研究など多岐にわたる分野で活用されています。あらゆる産業で、今後ますます“創造的破壊”が広がっていくでしょう。
――そうした中で、企業はAIとどう向き合っていくべきと考えますか。
ローズ氏 AIの効果もさることながら、注目すべきはその進化スピードです。LLM(大規模言語モデル)やSLM(小規模言語モデル)、RAG(検索拡張生成)、エージェント、オープンモデル、AI PC、ベクトルデータベースなどが広く使われていますが、これらは2年前にはなかった技術です。非常に短期間でAI関連技術が進化しているわけです。その進化スピードに追随していかないと、すぐに時代遅れなものになってしまいます。
――組織体制やユーザーの意識も変えていく必要がありますね。
ローズ氏 私はデル・テクノロジーズの技術部門を統括するグローバルCTO(チーフ テクノロジーオフィサー)を務め、AIの実装や活用、技術革新なども推進するCAIO(チーフ AIオフィサー)も兼務しています。以前からAIが社会やビジネスを大きく変えていく未来を予見し、デル・テクノロジーズでは既に8年も前から製品開発やビジネスにAIの活用を検討してきました。だからCAIOの設置もスピーディーに進められたのです。
これからの企業にはCAIO、あるいはこれに準じた権限を持つ人材や組織の設置が不可欠でしょう。そうしないとAI戦略全体のコーディネートも、必要な技術や施策の優先順位付けも難しい。スピード感を持って最新AIを導入することができず、ライバルに差を付けられてしまいます。

――具体的にどのような取り組みが必要ですか。
ローズ氏 AI時代を予見し、その取り組みを進めてきた経験から、企業のAI導入・活用には5つの原則が重要になると考えます。1つ目は「データそのものが差別化要因になる」ということです。AIというのは内燃機関、つまりエンジンのようなものだと思います。AIが効率よく動くことで、人力とは比べ物にならない大きなパワーを生み出します。エンジンを動かすためには燃料が必要ですが、その“燃料”に相当するのがデータです。AIの根幹はデータといっても過言ではありません。データをより正しく使えば、大きな原動力となります。データの収集・蓄積・活用を戦略的に考えていくことが重要です。
2つ目は「データのある場所にAIを持っていく」ことです。これはデータ戦略とも密接に関係します。例えば、データが分散していると、AIのコンピュートリソースがある場所まで移動させなければならない。データの移動は手間もコストもかかるし、セキュリティーリスクも高まります。クラウド上にデータがあれば、そのクラウド上のリソースで処理をする。オンプレミスのエッジで生成されることが多い企業データは、エッジで処理する。データが存在する場所にリソースを最適配置することが、コストやリスク、パフォーマンス面でも最も効果的です。
――AIの“燃料”であるデータをいかに効率よく使うかがポイントになるわけですね。
ローズ氏 もちろん、そのためにはインフラ全体のデザインも重要になります。それが3つ目のポイントになります。「IT規模の適正化」を考えることです。AIのワークロードは今後ますます拡大していくと見られています。AIインフラの規模は、今後変わっていくわけです。小さく始めて、利用の広がりやワークロードの拡大に応じてスケールしていく。AIインフラはそういう柔軟性・拡張性を確保することが大切です。
4つ目は「オープンかつモジュラー型のアーキテクチャ」の採用です。AIインフラを迅速かつ柔軟にスケールするためにも欠かせないアプローチです。AIが今後も進展していくことは間違いありませんが、テクノロジーのトレンドがどう変わっていくかは予測が難しい。特定のテクノロジーや方法論でAIのコアシステムを構築してしまうと、トレンドの変化への対応が難しくなります。オープンなアーキテクチャを採用すれば、モジュラーやコンポーネントの入れ替えで、新しいテクノロジーにも柔軟に対応できます。
そして5つ目が「オープンなエコシステム」の構築です。AIの“燃料”となるのがデータであることは先ほどお話しましたが、多くの良質なデータを学習させれば、AIはより賢くなっていきます。自社のデータだけでなく、他社とも連携してデータの質と量を拡充していくことが大切です。その際は、当然、システム間の連携も必要になります。ネットワークやセキュリティーも含めたAIシステムの構築も単一のベンダーではなく、それぞれに強みを持つベンダーの協力が欠かせないでしょう。

――5つの観点からAIシステムの構築とその活用を支援するため、デル・テクノロジーズは「Dell AI Factory」という構想を打ち出していますね。
ローズ氏 AI活用には高度なテクノロジーが必要ですが、すべてのテクノロジーを私たちだけで提供することは難しいため、先ほどお伝えしたオープンなエコシステムによる製品開発を進めています。NVIDIA社との共創によって実現したハイエンドGPUサーバーはその一例です。高騰する電力消費を抑制する次世代サーバーの開発も進めています。冷却効率の高い直接液冷方式(DLC)を採用することで、従来の機種に比べて消費電力効率が約2.5倍も向上します。よりシンプルで高速なネットワークを実現する製品も提供していきます。
優れた製品だけではなく、AIの世界で、私たちはもっと大きな役割を果たしていこうとしています。私たちが構築したエコシステムやその中で培った知見、テクノロジーやメソッド、さらに先端ユースケースなどを包括的に提供し、お客様がAIを効果的に活用できるようにする。この取り組みを「Dell AI Factory」と呼んでいます(図)。
多様なデータソースを取り込み、オンプレミスやクラウド、エッジに構築したAIシステムとオープンなエコシステムでデータ活用を促進し、新たなサービスを開発する。多くのユースケースを生み出し、そのナレッジやノウハウは横展開していく
――データがエッジやクラウドに広がると、情報漏えいや不正利用のリスクも高まります。エコシステムを考える上でも、データガバナンスやセキュリティーは重要な要素です。
ローズ氏 もちろん、それについても当社は幅広いソリューションをご提供しており、お客様が定義するガバナンスやデータの運用ルールに基づいて最適な仕組みを構築可能です。物理的に隔離されたセキュリティー空間でデータを保護する「サイバーボルト」、そのデータの迅速な復旧をサポートする「サイバーリカバリー」などポートフォリオも豊富に揃っています。

――Dell AI Factoryによって、どのようなことが可能になるのか。具体的なユースケースを教えてください。
ローズ氏 ある通信事業者は無線アクセスネットワークの保守サポートにAIを活用しています。ネットワークや基地局を指定すれば、リアルタイムなパフォーマンス状況を通知します。パフォーマンスが低下している場合、AIに問い合わせれば、その要因や構成変更などの改善策も提示します。対応はリモートでも可能なので、現地に作業員を手配する必要もありません。保守対応の工数を削減し、無線アクセスネットワークの安定性も大幅に向上しました。
日本でも既に実績があります。ある重工業メーカーのユースケースはその1つです。AIを活用したカメラ映像システムで工場内をモニタリングし、機械や作業場所に異常があれば直ちに検知します。腐食や劣化の兆候をとらえ、早期に対処することで、トラブルや事故の防止につながっています。この取り組みは当初、工場内の一部で始めたものですが、一定の成果が確認できたことから、現在は工場全体の可視化に取り組んでいます。
――日本企業のAI活用支援に向けて、どのような施策を展開していきますか。
ローズ氏 デル・テクノロジーズは40年にわたりイノベーションを継続し、お客様の変革を支援する革新的な製品やサービスを数多く開発・提供しています。イノベーションは私たちの文化の一部です。この強みを生かし、お客様のAI導入を加速し、効果の最大化を支援します。
ただ製品を提供するだけではなく、先端テクノロジーやパートナーの知見も含め、私たちの手法や学んできたことをすべて提供していきます。この取り組みの拠点となるのが、今年9月に開設したAIソリューションの検証施設「Solution Center AI Innovation Lab」(以下、AI Innovation Lab)です。
様々なユースケースを産業別に展示するほか、最新のインフラ設備を整えた検証環境も用意しました。お客様のソリューション開発や検証にご利用いただけます。様々なパートナー企業やお客様とのエコシステムを軸に、お客様同士のマッチングも支援します。
AIの力を最大限に引き出し、イノベーションを実現する――。この“AIジャーニー”は決して平坦な道のりではありません。デル・テクノロジーズは多様な製品ポートフォリオや業界屈指のエコシステム、AI Factoryの実績やノウハウも総動員し、今までにない大きなケイパビリティを提供します。そして多くのお客様と一緒に手を携えて“AIジャーニー”を歩み、新しい未来づくりに貢献していきます。
コラム
ローズ氏のインタビューでも触れたAI Innovation Labは企業の本格的なAI利用とイノベーションを支援するための施設だ。ラボにはデル・テクノロジーズやパートナーが開発した業種別の先進的なAIソリューションが展示され、実際にそのデモも体験できる。AIソリューションの“最前線”を実際に見て・触って、具体的に「どんなことができるのか」というイメージを膨らませることができる。
千代田区にある大手町本社のOtemachi Oneタワー17階に開設した。様々な業種別ソリューションを展示し、そのデモも体験できる。開設時には、複数主要ベンダーによる歓迎のコメントも紹介された
様々な業種別ソリューションの中でも、特に関心が高いのが製造業向けソリューションだ。製造業は高齢化に伴う就業人口の不足が深刻であるため、AIやデータの活用に大きな期待が集まっているという。カメラ映像を活用した組み立て支援ソリューションはその1つ。ベテラン作業員の組み立て手順をAIによってサポートする事で、最適な作業手順を指南する。これによりベテラン作業員が退職しても、その知見やノウハウを継承できるわけだ。
AIを活用した組み立て支援や検品支援のソリューション、VRを用いたデジタルツインのシミュレーションなどを展示する。既にこれらを実装し、スマートファクトリー化を進める工場も増えているという
生産ラインの検品を自動化するAIソリューションもある。これはラインを流れる製品をカメラ映像でとらえ、それをエッジAIが判断する仕組み。外観検査や不良品検出などを人手を介さずに行えるようになるという。
医療分野についても未来を見据えたソリューションが展示されている。その1つが、「Cancer AI-Consultant」である。大腸がん患者500人超の臨床データを学習させ、デル・テクノロジーズが独自のAIモデルを構築。これによって、がん患者の治療プランをシミュレーションする。複数の治療シミュレーションを比較することで、患者にとって最も高い効果が見込める治療法の選定が可能になるという。
運動機能を評価するAIソリューションは、ワークステーションとWebカメラだけのシンプルな構成。カメラの前を歩くだけで、AIが歩行状態を分析しロコモティブシンドロームの該当性を出力する。
AI活用の期待は流通業界でも高まっている。人口減少やECサイトへの顧客の移行に伴い、リアル店舗での顧客の減少は深刻である。対策として顧客の店舗における行動分析をAIを用いて実施する事で、売り場ごとの来店者の年齢、性別だけでなく、その表情から感情を認識し、結果をレポート化したり、店舗内の滞留時間や顧客の行動パターンをヒートマップで可視化したりして、これらのレポートを活用することで、利用者目線での店舗レイアウトや売り場の改善が可能になる。
ここで紹介した以外にも、金融や自治体など様々な業種・業界に向けたソリューションも展示されている。
業種・業界を問わず、関心の高いソリューションもある。「デジタルヒューマン」はその1つだ。既にテキサス州のアマリロ市では、住民サービスの一環として、生成AIを活用したデジタルヒューマンを導入して住民サービスに利用を開始している。市民の24%が英語を話さないアマリロ市では母国語に関係なく、すべての市民に重要な情報をより効果的に提供するためにデジタルヒューマンが活用されている。このような市民サービス以外にも、例えばWebサイトに組み込む事で、これまで営業社員が行っていた、顧客の要望に応じた製品のリコメンドといった業務も自動化できるという。
AI Innovation Labは先進のAIソリューションを体験できるだけではない。企業のソリューション開発も支援しており、そのための最新設備も整えられている。自社あるいはパートナー企業と共創しながら、AIソリューションの開発・検証設備として利用できるという。こうしたメリットが着目され、既にコニカミノルタ社をはじめ、多くの企業がラボに訪れているという。
コニカミノルタ株式会社 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 大幸 利充氏
この度は「AI Innovation Lab」が新たに開設されましたこと、心よりお祝い申し上げます。当施設の訪問、産業別のAI活用事例を体験し、当社お客様の課題解決に向けて、あるいは、当社の社内生産性向上の観点から種々のソリューションを活用させていただく可能性を感じることができました。このAI Innovation Labにより新たな共創が生まれ、技術の発展が加速し、AI活用の幅がさらに広がることを期待しています。
これに加え、AI Innovation Labでの活動を通じて、デル・テクノロジーズが企業・パートナー企業のマッチングも支援する。共創の場を提供するだけでなく、共創そのものを積極的に支援するわけだ。さらにAIや関連する先進テクノロジーのスキル習得や人材教育もサポートしていくという。
日本企業のAI活用を新たなステージに引き上げていく。AI Innovation Labはそのためのインキュベーション施設。多くの企業の共創を促し、新たなマーケットプレイスの創出を目指している。
デル・テクノロジーズの最新サーバーやストレージ、NVIDIA社のハイエンドGPUを搭載したサーバーなどで構成される実証環境を無償で提供する。ソリューション開発のPoC環境やパフォーマンス検証などに利用可能だ
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