経済安全保障のカギを握る
ITシステムの「自律性」と「利便性」
国際情勢が複雑化し、地政学的なリスクが高まる中で、国家の維持と国民の安全・安心な暮らしをどのように確保するべきか――。近年、この「経済安全保障」の概念が重要度を増している。各国が法整備などを進めている中、日本政府も取り組みを開始。数年の検討を経て2024年5月に運用開始されたのが「経済安全保障推進法」だ。
この法制は、大きく次の4つを柱にして構成されている。
- ①重要物資の安定的な供給の確保
- ②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保
- ③先端的な重要技術の開発支援
- ④特許出願の非公開
①の重要物資とは、電気やガス、水など、国民の生存に不可欠、ないしは広く国民生活や経済活動で用いられている物資を指す。②は、それらの供給を支える事業者などが、サービスを安定的に提供できる状態を維持することだ。政府は、全15の分野で「特定社会基盤事業者」を公表。指名を受けた企業・組織は今後、設備の導入・維持管理などを実施/外部委託する際に、しかるべき機関の審査を受けることが義務付けられた。
「こうした社会情勢を踏まえてIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)は、取り組みを支援する『重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド』を公開しています」と富士通の五月女 雄一氏は紹介する。そこで強調されているのは2点、サービスの安定供給や非平常時の統制力確保に関する「自律性」と、変化するビジネスやテクノロジーへの対応力を支える「利便性」だ。
富士通株式会社
システムプラットフォームビジネスグループ
エグゼディレクター
Global Fujitsu Distinguished Engineer
五月女 雄一氏
「利便性とは柔軟な運用や、最新テクノロジーの早期導入などが可能な状態にすることであり、これらはクラウドサービスを活用することで実現できますが、一方の自律性はそう簡単ではありません。有力な選択肢となるハイパースケーラーはいずれも海外拠点を中核とするサービスで、データ主権や運用の透明性を担保するという点において、多くの工夫が必要になるからです」と五月女氏は言う。
なお現時点で、社会インフラにかかわるITシステムはオンプレミス型であることが多いという。つまり、特定社会基盤事業者は今後、既存システムをクラウドに移行して利便性を高めるとともに、そこで高度な自律性をどう確保するかを考える必要性に迫られているのである。
オラクルとの協業に基づき、
データ主権要件を満たすクラウド基盤を提供
そこで富士通は、この課題に対する新たなソリューションを提案している。それが、オラクルとの戦略的協業に基づき開発を進めているソブリンクラウド「Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloy」だ。
「当社は、お客様ビジネスの成長と社会課題の解決を支援する事業ブランドとして『Fujitsu Uvance』を展開しています。本サービスはその中のHybrid ITソリューションに位置付けられるものです」と五月女氏は説明する。
富士通が新たに提供するソブリンクラウドの土台になる「Oracle Alloy」は、変更管理や運用のプロセスを利用者側が強力に制御することで、法規制やデータ主権の要件を満たすことができるクラウドインフラプラットフォームだ。これを富士通の国内データセンターに導入し、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)が備えるサービスをそこから提供する。これにより、日本市場におけるデータ主権を満たすものである。
図1 Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloy

オラクルとの戦略的協業に基づき、特定基盤事業者をはじめとする顧客に対し、日本市場におけるデータ主権要件に対応したシステム基盤を提供する
Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloyの特徴は大きく3つある。
1つ目は機能性の高さである。先に紹介した通り、OCIが提供するサービス群によって、ハイパースケーラー同等の機能性を有したサービスを実現する。単にOCIが提供する機能をそのまま利用するわけではなく、富士通が事前に検討し定めた機能要件を基に、オラクルと徹底的に議論を繰り返して調整したという。
「元々富士通は、官公庁や民間ベンダーなどの関係者ともクラウド関連の議論を行ってきました。そこで得た知見を基に、ソブリンクラウドに求められる機能要件を洗い出し、想定される要件をオラクルの開発チームに伝えてきました。運用体制の構築と同様、機能性にかかわるテクノロジーの実装についても、オラクルと当社の密な連携があってこそ実現できたものだと自負しています」と五月女氏は話す。
富士通株式会社
サービスインフラ事業本部
New-Onpremise事業部
井上 秀枝氏
2つ目は、運用の透明性を担保できること。一般的なクラウドサービスではアップデートやパッチ適用がプロバイダー側の判断で行われるため、意図しないタイミングで検証が必要になったり、運用負荷やコストが高まったりすることがある。これに対しFujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloyでは、日本オラクルとの連携のもと、豊富なパブリッククラウドの運用経験を持つ運用チームを国内に配備した。
「運用全般についてお客様と相談しながら進めるほか、メンテナンス日時も調整できる形にし、お客様の負担を軽減します」(井上氏)。また、システムの稼働状況の公開、トラブル発生時のレポート提出などを通じて運用状況を徹底的に可視化するという。
そして3つ目は、富士通の国内データセンターで提供されることにより、日本の法律が適用される点だ。米国のCLOUD Act法、EUのGDPRをはじめとする海外の法制度の影響を排除して法的な主権(ソブリニティ)を担保できるほか、データ主権も担保できる。
「加えて、Oracle Alloyの採用に当たり重視したのが機密性です。機密性を高める上で、当社が必須だと考える100以上の要件についてオラクルと交渉の末、すべて対応いただけることになりました。その結果、高度な機密性を具備した富士通独自のソブリンクラウドサービスを実現することができています」と富士通の井上 秀枝氏は説明する。
運用ハイブリッド環境の
最適化を支援するサービスも充実
また、Fujitsu Uvanceのサービスをはじめ、富士通が提供する様々なサービスと組みあわせて利用できる点も重要なユーザーメリットだ。
「現状分析・将来像の明確化・ITインフラ選定」の3段階で顧客のITインフラ最適化を支援する「ITSMコンサルティング」(図2)、富士通のベストプラクティスを詰め込んだツールと、ITILベースの運用プロセスによって顧客のハイブリッドクラウド環境の統合運用を最適化する「Fujitsu Cloud Managed Service(FCMS)」(図3)、といったサービスはその一例である。
図2 顧客のITインフラ最適化を支援する「ITSMコンサルティング」

経験豊富な富士通の専門家が、現状分析・将来像の明確化・ITインフラ選定の3段階で、顧客のITインフラ最適化を支援する
図3 ハイブリッド環境の運用管理をサポートする「Fujitsu Cloud Managed Service」

富士通が長年培ってきたベストプラクティスと、ノウハウを詰め込んだツール、さらにはITILをベースとした運用作業により、ハイブリッドクラウド環境の運用の統合化・最適化を支援する
「現行のオンプレミスシステムすべてをハイパースケーラーに移行することが、必ずしも最適解ではないと当社は考えています。ハイブリッド環境を前提とした最適な環境構築のアドバイスやマネージド型の運用支援サービスも含めて、トータルなソリューションを有している点は富士通の大きな強みです」と五月女氏は語る。
Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloyは、2025年4月のサービスインを目指して開発が進められている。とはいえ、現実問題として経済安全保障領域における我が国の取り組みは、欧米に比べて遅れているというのが実情だ。まだ多くの課題を乗り越えていくことが必要になるだろう。
「今後の世界情勢や社会構造の変化、ビジネスや技術の状況に応じて、法制度やガイドラインも変わっていくことが予想されます。そのような状況の変化に、お客様だけで対応するのは大変かと思います。当社はお客様のパートナーとして伴走しながら手助けし、お客様がより戦略的な取り組みにフォーカスするためのお手伝いができればと思います」(五月女氏)
もちろんサービス自体は特定社会基盤事業者以外にも開かれている。高度な自律性と利便性を両立したシステムを考える企業・組織にとって、Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloyは重要な選択肢になるだろう。




