ルクセンブルクを本拠に、グローバルでエッジソリューションを提供するGcore(ジーコア)が日本での攻勢を強めている。特に力を入れているのがエッジAIである。日本拠点の開設から1年が経ち、このほど最高経営責任者(CEO)のアンドレ・ライテンバッハ(Andre Reitenbach)氏と最高収益責任者(CRO)のファブリス・モワザン(Fabrice Moizan)氏が来日した。2人のキーマンは、日本市場をどのように見ているのか。日経BP 総合研究所 フェローの桔梗原富夫が、Gcoreの強みや日本での戦略、今後の展望を聞いた。
──まずはお二人のビジネスキャリアを教えて下さい。
ライテンバッハ
私は2014年にGcoreのCEOに就き、今年で10年目になります。2012~14年に対戦型ゲーミングプラットフォームを運営するWargaming Interactive社でManaging Directorを務めた後に独立し、ルクセンブルクでエッジコンピューティングを手掛けるGcoreを立ち上げました。Wargamingの在籍前は、大手IT企業やコンサルティング会社で金融業界向けサービスを推進した経験があります。
モアザン
私は現在、グローバルで事業を展開する関係構築の責任者です。以前在籍したNVIDIAでは欧州、Graphcoreでは米国で勤務し、欧州クラウド開設、GraphcoreのAIチップビジネス開拓に携わりました。主にクラウドやAIプラットフォームに関する技術開発、営業活動が中心でした。
──Gcoreの事業内容を教えてください。
ライテンバッハ
当社は世界中の企業に向けてEdge as a Serviceを提供しています。エッジとは利用者側の近くに設置するサーバーなど、ネットワークのエッジ部分でデータを処理するコンピューティング手法です。具体的には、CDN(Content Delivery Network)やクラウドサーバー、ホスティング、DNS(Domain Name System)などの用途で、世界180カ所以上の接続拠点を用意し、顧客向けにカスタマイズした形で提供しています。2023年度の売上高は7500万ドルでしたが、2024年度はそれを大きく上回る見通しです。
Gcore CEO
アンドレ・ライテンバッハ氏
──ルクセンブルクは金融業界が強い印象ですが、IT関連事業も盛んなのでしょうか。
ライテンバッハ
政府は金融だけでなく国内産業の多様化を推進する方針を掲げており、IT事業の登録や節税を容易にするなど、招致したIT企業が効率的に事業展開できる制度を導入しています。制度面で有利なルクセンブルクに本社を置いていますが、世界展開を積極的に進めるため、欧州だけでなく、アジア、北米などにも事業拠点を拡大しています。
ルクセンブルクだからこそ守れるデータ主権
──GcoreはEdge as a Serviceプロバイダーということですが、特にどのようなサービスに力を入れているのですか。
ライテンバッハ
現在、最も注力しているのは、既存サービスにAI機能を追加する取り組みです。例えば、サイバーセキュリティーは企業の関心が高いテーマですが、近年はサイバー攻撃を仕掛ける側がAIを使い始めたので、当社もAIを駆使して顧客のネットワークを守っています。当社のサービスの特長は世界規模の企業に低遅延のネットワーク環境を提供できることです。遅延の短縮化を推進し、ネットワーク環境の継続改善に常に取り組んでいます。
モアザン
今後は特定用途向けにAI学習を終えた形で、エッジコンピューティングサービスを展開していきます。例えば、NVIDIAのジェンスン・ファンCEOはAIのキラーアプリケーションとして自律運転を挙げていますが、その実現には当社のような低遅延のスペックを必要としますので、積極的に対応していきます。また、米Teslaのイーロン・マスクCEOが10億台の人間型ロボットを展開する方針を表明しましたが、こうしたヒューマノイドを提供する企業向けのサービスにも取り組んでいます。このほか、遠隔医療やヒューマンアバターの提供に向けたサービス展開の準備も進めています。
Gcore CRO
ファブリス・モアザン氏
──Gcoreが提供する低遅延のサービスは、ハイパースケーラーと呼ばれる巨大クラウドベンダーに対する優位性になりますか。
モアザン
当社は10年かけて、インテリジェントグリッドという技術を使い、低遅延、高セキュリティーのネットワークを構築し、日米欧など世界中のユーザーがマルチプレーでゲーミングできる環境を整備してきました。必要に応じて世界の各地域でデータセンターを追加していく、ハイパースケーラーとは考え方が違います。
加えて、当社が優位な点として、顧客企業のデータ主権を守れることがあります。多くのハイパースケーラーは米国のクラウド事業者です。2018年に施行されたクラウド法(Cloud Act)により、米国は政府の権限で利用者のデータを閲覧できますし、日本企業もその規制から逃れることはできません。しかし、ルクセンブルクは中立的な立場ですので、顧客企業のデータ主権を守ることができるのです。
ライテンバッハ
NVIDIAと良好な関係を築いているのも大きな強みと言えるでしょう。当社は、エッジ環境での高速AI処理に最適なL40SやA100等のGPUを採用しています。
180超PoP
6大陸にわたる
200超Tbps
ネットワーク総容量
30ms
平均レスポンスタイム
14,000超
ヒアリングパートナー
NVIDIA GPU「A100」を搭載した「Gcore AI Cloud Infrastructure」の特長
──先日、Gcore発足以来初となる外部資本を6000万ドル調達したと発表されました。その資金は、AIの取り組みに対して活用されるのでしょうか。
ライテンバッハ
はい、AIが牽引するイノベーション推進の強化を目的とした資金調達です。NVIDIA GPU搭載の先進AIサーバーを含むGcoreのテクノロジーおよびプラットフォーム戦略に差し向けます。今回の投資は、高効率化とデータ主権を確立するAIソリューションの提供への、Gcoreのコミットメントを明示するものです。
──米OpenAIがChatGPTを公開して以降、ビジネスを変える技術として生成AIが注目を集めていますが、そのインパクトをどう見ていますか。
モアザン
現在提供されているGPT-4に対して、2025年に提供予定のGPT-5は10倍の能力になり、その次のGPT-6はヒューマンインテリジェンスに匹敵するAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)に到達すると予想されています。そのような時代になれば、現在のデータセンターの周辺でAIが使われる形態から、エッジ周辺でも使われる“AI Everywhere”の形態に移行していくはずです。AI自動化を採用する企業が増え、当社サービスのユースケースも拡大していくでしょう。
日経BP 総合研究所 フェロー
桔梗原富夫
AI時代に不可欠なスピードと信頼性を両立
──Gcoreは2003年6月に日本法人を設立し、東京と大阪にデータセンターも開設しました。日本市場をどのように見ていますか。
ライテンバッハ
とても魅力的な市場です。日本は前述したAIにおけるキラーアプリに関連した自動車やロボットの輸出大国ですから、当社の対応サービスを是非提供していきたいです。また、産業規模が大きいので、日本のデータセンターは今後も増設していく方針です。日本発のユースケースにも注目していて、パートナーや見込み顧客との連携を強化していきたいと考えています。
──ホンダがソニーと提携するなど、自動車業界は100年に一度の変革期を迎えていると言われていますが、その点はどのようにお考えですか。
モアザン
従来は自動車の主要技術はエンジンでした。しかし、近年のTeslaの製品は “車輪の付いたスマホ”とでも言うべきもので、製造技術が大きく変貌しています。こうした動向を見れば、ホンダとソニーの提携に驚きはありませんし、今後は自動車でもAI技術が中核を成していくと考えています。
──日本市場の開拓にあたって、戦略や顧客ターゲットをお聞かせください。
ライテンバッハ
トヨタ自動車やホンダなどの自動車メーカーに加えて、楽天、GMOなどの電子商取引事業者の利用も期待しています。AIによる人間のアバターを使ったサービスの変革などをサポートしていきたいですし、私たちはその準備ができています。

──日本では多くのSIer(システムインテグレーター)が存在し、システム構築を委ねる企業が多いので、ITベンダーはSIerとの関係づくりが重要と言われています。日本でのパートナー戦略をお聞かせください。
モアザン
日本ではSIerが企業から根強い信頼を得ており、様々なシステムやネットワークを提供していることは知っています。SIerとは良いパートナーシップを築き、当社のサービスを活用してもらいたいと思います。
──最後に、日本企業の経営者やITリーダーへのメッセージをお願いします。
モアザン
前職で何度も来日した際の経緯も踏まえ、日本企業との間に信頼関係を構築する重要性とプロセスについては理解しています。当社は10年以上事業を展開し、AIの進化に呼応して最新のサービスを提供しています。日本企業のお役に立てると自負しています。
ライテンバッハ
Gcoreはスピードと信頼性を両立できますが、日本では新参者です。迅速な対応やデータ主権の保護をはじめ、まずは顧客からの信頼を獲得することに注力し、ブランドを確立していきたいと考えます。


