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星野楽器 | |
| 本社 | 愛知県名古屋市東区橦木町3-22 | |
| 設立 | 1981年(創業1908年) | |
| 資本金 | 4500万円 | |
| 従業員数 | 155人 | |
| 事業概要 | ギター、ドラムなど楽器の企画設計・開発業務および輸出入業務、海外市場開拓、海外卸販売、ドラムおよび付属品の製造 | |
星野楽器株式会社
総務部 情報システム課
梶原 誠悟氏
星野楽器は、ギターとドラムを主軸に世界で事業展開する楽器メーカーだ。ギター「Ibanez(アイバニーズ)」、そして今年50周年を迎えたドラム「TAMA(タマ)」はグローバルブランドとして国内外のミュージシャンに愛され、一般ユーザーの間にもファンが多い。
「当社は100年以上の歴史を持ち、長い時間をかけてブランドを育ててきました。ただ、社員数は150人ほどなので、自分たちの力だけでできることには限界があります。国内外の工場や販売代理店などのパートナーの協力を得て、地道な活動を続けてきました」と星野楽器の梶原 誠悟氏は語る。
以前から海外市場に注力してきた同社の海外売上比率は91%。多くの社員が頻繁に海外出張に出ているという。こうしたビジネスの特性が、同社のIT活用力を高めてきた。
「今ではオンラインミーティングを気軽に行える時代ですが、ひと昔前、海外とのやり取りは容易ではありませんでした。しかし、世界中で活躍するプロのミュージシャン、当社商品を販売する代理店などとのコミュニケーションを通じて得られた情報は、素早く本社と共有して新モデルづくりなどに生かす必要があります。逆に、日本から海外に伝えるべき情報も多い。そんな必要に迫られて、ダイヤルアップ接続の時代からIT環境の整備を進めてきました」(梶原氏)
星野楽器が重視しているのは、ユーザーのニーズをいち早くとらえて商品化し、市場に送り出すこと。ギターとドラムの商品企画から開発・製造、販売までを一貫してカバーしているが、提携する世界各国の販売代理店とパートナー工場も重要な存在だ。長いバリューチェーンをいかにコントロールするか、円滑に回し続けるかが、ビジネスのカギとなる。そのためにIT活用は必須である。
図1は同社の社内ポータル画面。あらゆる業務システムがリンクを通じてポータルに集約されており、社員の日常業務にとって欠かせない場となっている。具体的な内容は後述するが、これらのシステム開発をリードしてきた梶原氏は、ここ数年話題となっているDXへの率直な意見を述べる。

「私たちはDXという言葉のない時代から、課題解決の優先度を考えつつ、必要に応じて必要な仕組みをデジタルでつくり、業務改善を繰り返してきました。それが結果として、今でいうDXにつながっているのかもしれません」
同社のIT活用で特筆すべきは、自社の強みや独自性を最大限に生かすため、システムの多くを内製している点だ。その中心的な役割を担っているのが、「HCL Domino」である。
最初の取り組みはクレーム処理システムの開発だった。従来、紙のクレームレポートが担当者の机の上に積み上がり、どのような種類のクレームが何件あるのか、処理がどこまで進んでいるのかといった状況を把握するのも難しかった。
クレーム処理の遅れはユーザーの不満の元になる。紙ベースだったクレーム処理のデジタル化は、きわめて重要度の高いテーマだった。梶原氏はSIパートナーの支援を受けつつ、このプロジェクトを牽引した。
「クレームレポートをデジタル化し、レポートを必要とする担当者が情報共有する仕組みが必要でした。複数のソフトウエア製品を検討しましたが、選んだのはHCL Domino(当時はIBM Lotus Notes/Domino)による内製でした。アプリケーション開発、運用基盤となる要素が一式揃っていて開発がしやすいことと、環境の維持が容易なことが決め手でした。SIに教わりながら開発を進め、約3カ月で稼働を迎えました」と梶原氏。
以前は紙のレポートを回覧していたが、システム化によって、メール回覧でのクレーム処理プロセスが完成した。HCL Domino上に構築したデータベースを見れば、特定のクレームに誰が対応しているのかが分かり、クレーム全体の傾向なども把握できるようになり、処理時間を大幅に短縮できた。
「その後の改変で、クレームの重要度を大・中・小に分類し、それぞれの処理プロセスを短縮する形にしました。重要度の高いクレームへの対処を急ぐのは当然ですが、パーツ交換で対応できるような軽微なクレームは営業担当者の判断で即座に処理できるようになっています」(梶原氏)
クレーム処理時間の短縮に加えて業務負荷も大きく軽減された。社内の情報共有や必要なパーツの手配など、関連する業務への連携も内製で実現が進んだ。このクレーム処理システムを成功体験として、以後、梶原氏が所属する情報システム課はHCL Dominoのノウハウを着実に蓄積していった。
さらに梶原氏は、大きなプロジェクトに挑む。アプリケーションサーバーを中心とした3層構造で構築していたパーツカタログシステムの移行だ。
「当社は毎年、ギターだけでも100機種以上の新モデルを発表しています。多品種少量生産は当社のビジネス特性であり、パーツの種類は必然的に増大します。そこで、国内外の販売代理店が自由に注文できるようパーツカタログシステムを構築していました」(梶原氏)
パーツの在庫管理などを担う基幹システムとして、同社はIBM AS/400(現在のSystem i)を活用。その在庫管理システムのデータを取り込み、データベースとWebアプリケーションサーバーで構成される仕組みだったが、製品のバージョンアップなどのライフサイクルで改修が必要となった。複数の製品で構成した場合のバージョンの組み合わせなどは継続して発生する課題であったので、HCL Dominoを活用したWebアプリへの移行に踏み切った。
ちょうどそんなときに発表されたのが「XPages」である。Domino 8.5から採用されたアプリケーション開発技術で、Webテクノロジーに対応し、JavaやJavaScriptなどの標準的な技術を活用してDomino上でWebアプリケーションを開発できる。
「発表後、すぐにXPagesについて片っ端から調べ、『これなら理想的なWeb開発ができるのではないか』という感触を得ました」と語る梶原氏。約4カ月の開発期間を経て、無事カットオーバーを迎えた。パーツカタログの機能はすべてHCL Dominoに移行した。
「稼働後は十分なレベルのパフォーマンスが出ています」と梶原氏は語り、Dominoへの移行によってコスト削減も実現できたという。新パーツカタログシステムは、膨大な種類のパーツに関する情報を安定的に提供するという同社のビジネスのコアの一部を支えるものとして、現在も稼働している。
現在、星野楽器の業務システムのほとんどがXPagesで開発され、HCL Domino上で動いている。先に触れたパーツカタログはSystem i上の基幹システムと連携している。また、Microsoft 365ともAPI経由でつながっており、HCL Dominoが各システムやクラウドに対するハブとして機能している(図2)。

業務システムの例としては、出張申請や精算、休暇届など総務系のシステムがある。備品を購入する際は、見積もりから購入までをサポート、最後は資産管理データベースにつながるシステムもある。共通のワークフローエンジンも利用されている。
勤怠管理システムもXPagesで開発。月ごとの電子的な台紙を用意した上で、社員はWebまたは物理的なタイムレコーダーから打刻。こうしたデータは休暇などの申請情報とともにHCL Domino上の勤怠管理データベースに格納され、給与システムに渡される。申請された休暇などはOutlookのカレンダーにAPI経由で登録されている。
各システムはXPagesで開発されているため、UIはポータル上で共通化することができ、開発者の負荷軽減を実現するとともに、ユーザーの利便性も高い。専用の開発ツール「Domino Designer」によって、様々な言語やテクノロジーを組み合わせた開発が可能となり、アプリケーションのスケーラビリティも担保されている。
紹介したシステムはごく一部だが、星野楽器はXPagesとHCL Dominoを徹底的に使いこなし、内製化を進めている。ただし、標準パッケージを拒んでいるわけではない。例えば、会計分野では国産のERPパッケージを用いている。内製開発がメインである背景には、業務の特殊性や複雑性がある。
「当社グループには、卸売機能を持つ海外子会社があります。完成品を仕入れ、在庫した後に販売するというプロセスであれば、標準的なパッケージで十分対応できます。本社の会計システムも同様です。しかし、商品企画から製造、販売に至る当社の基幹プロセスに、標準パッケージの適用だけでは困難です。船便や航空便による輸出入の過程では、イレギュラーな事象が起きることも少なくありません。また、楽器の材料である木の持つ特有の課題があります。木の乾燥にかかる時間は、場所や季節によって異なります。標準プロセスを適用しにくい業務では、無理に標準化を目指す必要はないと思います」(梶原氏)
同社の強みの源泉となっている、独自の業務プロセスを、HCL Dominoがシステム面で支える形となっているのだ。また、システム環境としてオンプレミスをメインにしている点も、星野楽器のユニークな点だ。
「クラウドを検討したこともありますが、コストや開発環境の維持などの観点から、当社にはあまり適していないと考えました。ただ、将来的にはクラウド活用も検討する必要があると感じています。HCL Dominoがハブになって、各種クラウドとつなぐイメージを描いています」と梶原氏は言う。
同社にとって、今後もHCL DominoがITの中核的な役割を担うことになりそうだが、梶原氏はHCL Dominoへの評価をこう語る。
「様々なシステムを動かす基盤として、非常に使いやすいと感じています。また、HCLSoftwareのサポートチームに相談すると、技術的に深いレベルの質問にも丁寧に対応してもらえます。技術的な困難に直面したとき、提案された代案に沿って問題を乗り越えたことが何度もあります」
冒頭の梶原氏の発言にある通り、同社は必要に迫られる形で、今でいうDXを地道に実践してきた。いわば「地に足の着いたDX」ともいえるだろう。決して「ツールありき」ではなく、自社のビジネス上の強みや独自の業務特性に合わせてITを活用してきた歴史があり、そこではHCL Dominoが大きな役割を果たしてきた。現在、多くの企業がDXに取り組む中で、星野楽器の事例には学ぶところは多い。