生成AIをはじめとするテクノロジーの急速な進化により、ビジネス環境が大きく変化する今、企業や組織にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)はますます欠かせないものになっている。一方、DX に取り組むものの、想定通りに推進できない企業も少なくない。DX に焦点を当てた「日本全国 6都市 JAPAN DX Conference」の中でも、各都市で行われた独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の講演に注目し、様々な側面からDX 推進のヒントを探る。
2025年の崖を飛び越えるため IPAが用意する施策とツールの活用を
経済産業省所管の独立行政法人であるIPAは日本のIT国家戦略を技術面、人材面から支え、ITのメリットを実感できる社会の実現を目指す。その中でDXの推進を担うのが、デジタル基盤センター デジタルトランスフォーメーション部 DX推進グループだ。
同グループの我妻璃奈氏はDXについて、「X:変革」に「D:デジタル」を掛け合わせたものだと説明する。「DXというと、デジタルを使って何かしないといけないと感じるかもしれませんが、DXで重要なのは変革のXです。変革のためにいかにデジタルを活用するかを考えるべきです」(我妻氏)
一方で、ブラックボックス化された企業システムがDXを阻み、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失を生じる可能性があることが、2018年の経済産業省のDXレポートで指摘されている。これが「2025年の崖」である。「IPAでは、2025年の崖を飛び越えるための様々なDX推進施策を用意しています」と我妻氏は言う。
独立行政法人情報処理推進機構
デジタル基盤センター
デジタルトランスフォーメーション部
DX 推進グループ
我妻璃奈 氏
DXの”健康診断”から認定事業者への挑戦を期待
我妻氏は、IPAが提供する施策やツールの中から、「DX推進指標」「DX認定制度」「DX SQUARE」を紹介した。「DX推進指標は、DX推進における健康診断です。経営とITに関する計35項目を成熟度レベルによって自己診断できます。DX推進に向けた現状や課題に対する認識を共有して、アクションの議論や進捗の把握につなげます」(我妻氏)。自己診断結果をIPAに提出すると、業種や規模別のベンチマークが提供され、自社のDX推進レベルを相対的に測ることもできる。
自己診断の次は、経済産業省の定める「DX認定制度」への挑戦を促す。これはDX推進の準備が整っている事業者を認定するものである。認定されると事業者一覧として公表されるほか、DX認定のロゴマーク利用が許可され、DX関連の投資や人材育成に関する支援措置の条件にもなる。我妻氏は「2024年6月時点でDX認定事業者は全国に1059件あり、そのうち九州は83件でした。福岡が最多で33件、熊本が28件、大分が7件、佐賀が5件、鹿児島が4件、宮崎が3件、長崎が3件です」と現況を報告した。
そして「DX SQUARE」は、IPAが運営するDXのポータルサイトである。技術解説や有識者による寄稿記事、DX推進企業へのインタビューなど、様々なDX関連情報を発信している。ここから情報を取り入れることで、自社のDX推進に役立ててもらいたい考えだ。
IPAが運営するポータルサイト「DX SQUARE」
経営と現場業務の改善につなげたDX成功事例
我妻氏は、DX SQUAREに掲載された中から、九州の2事例を紹介した。1つ目が、大分県豊後大野市の株式会社みらい蔵である。「みらい蔵は農業資材販売、米穀集荷、土壌分析事業などを提供しています。創業当初からデータ分析の重要性に気づいて積極的にデータ収集してきました。商品の構成や仕入れの変更だけでなく、営業時間の変更による人件費や光熱費の削減にも成功しています」(我妻氏)
データ活用を続けるうちに、みらい蔵では農家が本当に求めているのは農業資材ではなく、経営の改善策であることに気づいた。そこで、土壌分析を開始し、土づくりから収穫までの施肥設計ノウハウをシステム化した『ソイルマン』を開発、提供するようになる。「農業資材販売の会社がシステムを売る企業へ、トランスフォーメーションした好事例です」(我妻氏)
もう1つが熊本市で半導体製造装置などの精密機器やピアノ、コピー機などの輸送を手掛ける株式会社ヒサノの事例である。我妻氏は「DXのきっかけは、2016年の熊本地震による業務量増加を起因とする職員のフラストレーション蓄積です。社員の不満解消に向けて経営者自らがヒアリングを実施し、その際のテーマを『ITを使った業務改善』にしました」と語る。経営者が現場の課題を引き出すためのテーマとして、ITがふさわしかったのだ。
「ヒサノではITコーディネーターと二人三脚でDXを推進し、受注情報から自動的に配車できる『横便箋システム』をクラウド上に構築しました。配車の迅速化と現場や担当者の間で情報共有の促進が実現したのです」と、我妻氏は語る。続けて「5年先のビジョンを描き、DXの重要性を認識した経営者がいち早くリーダーシップを発揮し、トップダウンでDXを推進していった事例です」と紹介した。
最後に我妻氏は「2025年の崖が、もうすぐそこまで来ています。日本企業が市場で勝ち抜くために必要不可欠なDX推進に、IPAの施策やツールを活用してもらいたいです」と述べ、講演を締めくくった。
