―大規模プロジェクトには、小規模プロジェクトにない様々な難しさがあります。JSOLが考える「失敗する大規模プロジェクトの共通点」とはどのようなものですか。
宮下大きく2つあります。1つ目は、関係者間の情報共有がうまくいっていないケース。例えば、お客様の経営層と現場の間に意識のズレがあり、プロジェクトマネジャー(PM)が孤立することがあります。また、お客様の現場部門の当事者意識が薄く、IT部門に丸投げ状態ということもあります。規模が大きいほどステークホルダーが増えるので、このようなことが起こりやすいのです。
2つ目は、お客様の現状システムの仕様や中身がよく分からないケースです。長年使ってきたシステムでは、導入当時の関係者が全員退職している、あるいは仕様書が見当たらないといったことが往々にしてあります。そうなると、ベンダーも手探りの作業にならざるを得ず、失敗のリスクが高まります。
株式会社JSOL
上席フェロー
法人ビジネスイノベーション事業本部
副事業本部長
宮下 雄介氏
―失敗を避けるためには、どのようなアプローチが効果的なのでしょうか。
宮下プロジェクトの目的や内容、システムの稼働時期などをお客様社内でしっかり認知してもらうことです。例えばJSOLでは、役員会議のあとに時間を取っていだたき、経営層に直接、それらを説明することもあります。経営層のマインドが変われば、管理職や現場部門もプロジェクトを“自分ごと化”してくれるようになります。技術力はもちろん大切ですが、プロジェクト規模が大きくなるほど、お客様と真摯にコミュニケーションを行うことが重要になると私は考えています。
―企業が大規模プロジェクトのパートナーを選ぶ際は、そのようなことができるベンダーかを精査する必要がありますね。
宮下そう思います。また、自社が所属する業界でのプロジェクト経験があるか、業務を理解しているか、大規模プロジェクトの成功事例があるかも重要なポイントです。あとは、やはり人ですね。PMがどれだけ優秀でも、1人でプロジェクトを回すことはできません。各システム領域の、少なくともリーダークラスまでは、自社で人財をそろえているベンダーかどうかは確認することが望ましいです。
―JSOLはそのような条件を満たすベンダーの1社だと思います。強みが発揮された大規模プロジェクトの事例を教えてください。
宮下1つは、グローバルに事業展開する某製薬会社様の事例です。日本に本社、EUと北米に拠点を持つこのお客様は、国内事業を担うグループ全体のシステムの全面刷新と、EU・北米の経営データを日本の本社と連携するプロジェクトを進めました。
最も苦労したのは欧米の経営データを日本に集めるところです。本社側は鮮度が高く、粒度の細かいデータが欲しいのですが、一方で欧米側はそこまで詳細なデータは出したくない。このズレをなくし、合意形成を図るところに十分な時間をかけました。「なぜデータが必要なのか」を、両者が納得できるよう繰り返しミーティングを行い、最終的には日本と欧米、双方の落としどころを見つけてプロジェクトを推進できました。
―まさしく、顧客と真摯にコミュニケーションを行った事例ですね。
宮下「利害関係者をどう巻き込むべきか」は相対する人、部署、国によって異なります。経験がものをいう部分ですが、当社には長年のプロジェクト経験を通じて、ノウハウがDNAとして受け継がれています。そのため、対応できたのだと思います。
もう1つは大手日雑・消費財メーカー様の事例です。このお客様の基幹系システムの大部分が約30年前に構築されたもので、その後、部分最適で追加したシステムも老朽化していました。仕様を詳しく知る人がいない中、国内グループ企業、物流拠点数十カ所の会計、在庫管理、購買、販売、物流、輸送と配車のシステムを含めた大規模刷新に踏み切ります。
関係者が非常に多い上、当初はなかなか各現場部門の協力を取り付けることができず、難しいプロジェクトでした。さらにコロナ禍が重なり、多くのコミュニケーションをリモートで行わなければならない状況になりました。
―それでもプロジェクトを進めるために、どのようなことをしたのですか。
宮下まずコロナ禍でのリモート会議の運営ルール、チャットの活用など、コミュニケーションルールを整理しました。また、担当役員への定期報告を可能な限り定量化した情報で実施し、担当役員間で共有できるようにしました。コロナ禍でなくても有用だとは思いますが、そうすることで、領域間での競争意識が生まれ、プロジェクト全体のスピードが高まっていきました。
ただ、それでもコロナ禍のインパクトは大きく、プロジェクトの稼働延期を余儀なくされました。その際も、お客様と協力し、リプランの計画書を作成し、お客様の経営層の了承を取り付けました。
―大規模プロジェクトには予期せぬ事態がつきものです。そうした場合も、顧客と信頼関係を築くことで柔軟に対応できる。これは経験豊富なJSOLならではですね。
宮下そのように自負しています。ほかにも、提案できるソリューションの幅広さや、各領域のリーダークラスまで社内人財でカバーできる人的リソースの多様さ、外部ITパートナーを含めた全体のマネジメント力などを、多くのお客様にご評価いただいています(図1、2)。
図1 JSOL法人ビジネスイノベーション本部の強み
多種多様な業種・業界のバリューチェーンの業務改革、DX推進プロジェクトに対応できる
図2 大規模プロジェクトの推進体制(イメージ)
大規模プロジェクトをスムーズに進める上で重要なのが体制づくりだ。各システム領域の取り組みをまとめるリーダー層はJSOLの人財を中心にアサインし、連携しながら進める
―今後も顧客プロジェクトの推進力をさらに高めていく上では、雇用・育成を含めた人財戦略が重要になります。求める人財像を教えてください。
宮下大型案件が多数ある中、PM人財はまだまだ足りていません。特に重視するのはコミュニケーション力です。具体的には、いつでも明るく振る舞える前向きさや、最後まであきらめない、いい意味での往生際の悪さ、困難にぶつかっても解決策を見つけようとする粘り強さ。この3つを持つ人財を当社は求めています。
もちろんスキルや知識は重要ですが、すべての技術を1人でキャッチアップするのは不可能です。当社には各領域のエキスパート人財がいるため、専門領域はそれらの人の協力を得て進めればよいのです。当社がPMに求めたいのは、高いコミュニケーション力と、突破力、問題解決力など現場での成果に直結する能力を持つ人財であることです。
―人財を育成する体制についても教えてください。
宮下経験の浅いPMには、先輩PMが伴走型で支援します。週次で個別に会話する機会を設けて、進捗の確認、問題解決に向けたアドバイスなどを行っています。
もう1つは「経営塾」という取り組みです。当社では、PMの先のキャリアパスにマネジメントへの参画を位置付けています。私も、お客様プロジェクトでPMを務めるとともに、企業経営にも参画しています。組織のマネジメントに興味がある方にも、努力次第で道は開けていきます。
―最後に今後のビジネス展望をお聞かせください。
宮下お客様の期待に応え続けるには、期待以上の価値を提供しなければいけません。「お客様のお客様」までがメリットを感じ、喜んでいただけるシステムを実現していきたいと思います。
例えば物流に関して、お客様企業の基幹系システムを配車システムと連携すれば、お客様の取引先である配送業者様にも新たな価値を届けられるかもしれません。それには我々自身の知見や技術力、提案力を磨く必要があります。
大規模プロジェクトには大変なことが多々あります。それでも常に前向きに、最後までやり抜くのが我々のスタイルです。次なる活躍の場を探している方には、「会社の成長に自分の成長を重ね合わせられるかどうか」をよく考え、先々のキャリア形成までを見据えて検討を進めていただきたいと思います。