都市化や生活行動の変化に伴い、人間や動植物の生態に影響を及ぼす「光害」が世界規模で広がっている。人間が不快と感じる障害光を制限する国際的な基準も厳しさを増す。人工照明による視環境などを専門とする望月悦子千葉工業大学教授に、光害の実情と対策を聞いた。

そもそも光害(ひかりがい)とは何でしょうか。

望月 太陽が沈み、暗いはずの夜間に光が存在することで、生物が本来備えているリズムや生態を乱している状況の総称です。日中に咲くはずの花が夜に咲く、昼間と認識される時間が延びることにより落葉樹が落葉しない、実るべきものが実らない、といった状況を生み出しています。
 人間の生活でも、例えば住宅と商業施設が接した地域で深夜営業する店舗の光が隣接住戸に漏れ、居住者が眠れなくなるなどの状況が生まれます。歩行者や運転者がまぶしさを感じる、歩行者や路上に落ちているものが見えづらくなるのも一例です。電力を使うのでエネルギーの過剰消費につながる他、光によって天空全体が明るくなり天体観測にも影響を及ぼします。
 天空を明るくする上方向への光漏れについては、オフィスビルや投光器を備えたスタジアムなどが大きな要因となっている点も知っておくべきでしょう。
 天空への光漏れを調べた約30年前の研究によると、東京都心3区ではオフィスビルの光による影響が圧倒的に大きいという実情が明らかになりました。
 競技場の夜間照明も、場内だけでなく周囲エリアにまで光が漏れる状況を生み出しています。スポーツに関しては、人工照明の下で競技をしている際に、ボールを追って上を見上げたとき光が目に入って感じるまぶしさへの対策も必要です。

その一方で、光がほしい場面もあります。

望月 光には暗い場所で安全や安心を確保する役割もあり、夜間にすべての照明をなくすことはできません。とはいえ歩行者がいない場所を過剰な光で照らす必要はなく、光害対策と安全・安心確保の両立が欠かせません。地域の用途に合わせ、必要な時間や場所には適切な光を用い、不要な場面では光量を抑えるといった切り分けた制御が重要になります。

これまで国内外ではどのような光害対策が実施されていますか。

望月 1970年代から光害が指摘されるようになり、2003年に国際照明委員会が障害光を規制するガイド「CIE 150:2003」を策定しました。海外ではその後も規制を強化しており、2017年に改訂されたガイド「CIE 150:2017」では、真っ暗にしないと生態系が崩れる場所の光をゼロにするなど、より厳しい基準を定めています。
 国内では1998年に環境省が光害対策ガイドラインを定め、以降も海外の規制に対応する形で改訂を重ねてきました。現在は、CIE 150:2017を反映した改訂が求められている状態です。
 この間、光源も変わってきました。かつては白熱電球が主流でしたが、それが蛍光ランプに置き換わり、現在はLEDが中心になっています。
 LEDは、消費電力が少ないため効率が良く、演色性も高いのが特徴です。ただし発光面の面積が小さいため、一方向に強い光(高輝度)を発する懸念があります。そこでCIE 150:2017では、指定された方向に対する光の出力を制限しています。
 LEDはエネルギー効率の高さなど多くのメリットを持っていますが、その裏返しで生じるかもしれない問題を解決しながら活用することが大切です。

具体的にはどうすれば良いのでしょうか。

望月 近年はセンシングや制御の技術が進化してきています。以前の光源では難しかった配光、色、光量などを時間に応じて自在に制御できるのはLEDの大きな利点です。
 時間帯によって光の色味や光量を変えることで、人間のサーカディアンリズム(約24時間周期のリズム)に対応することも可能です。太陽光の1日の変化を模した室内照明を施した実験空間で検証したところ、1日を通した作業効率や、その後の夜間の睡眠にも良い効果が見られました。
 屋外施設の照明でも、適切な制御によって、周囲の建物への光漏れや天空を明るくしてしまう上方光束を抑えることは可能です。光源の向きや広がり方、設置場所などを細かくシミュレートできる技術も整ってきています。これらを上手に活用し、不快さや生物への影響を抑える照明計画が求められます。

こうした状況を踏まえ、設計者に伝えたいことはありますか。

望月 設計以前にまず重要なのは、一般生活者の意識変化だと思います。今まで長く「明るいことが快適で安心」「明るいことが善」という文化が続いてきました。でも、すべての場所で均一に明るい光は必要ありません。常に光漬けとなる状態は自分の体や地球上の生物に良くない影響を及ぼす環境問題だ、と認識することが第一歩です。
 設計者は発注者の要望に応えようとするものです。発注者側でそうした気運が高まれば、「明るければ良い」という設計も変わっていくでしょう。人間の視覚は、良い方向にも悪い方向にも慣れていきます。本来目指すべき光環境の実例が増え、利用者はそれを体感して意識が高まる、そんな好循環が生まれることを望んでいます。
 金沢市や岡山県をはじめ、光環境のガイドラインを定めている自治体は増えてきました。JISでも照度基準などの数値を定めています。設計者には、単にこれらの数値を守るだけではなく、その数値が持つ意味や背景に流れる思想を理解していただきたいと思います。
 本来あるべき光環境をどう考え、利用者にどう暮らしてほしいのかを意識したうえでの照明設計を期待しています。

異なる配光のレンズを1列に集約した独自の光学技術によって器具効率を1.5倍に高めつつ、上方光束をこれまで以上に抑制。加えて、競技者が投光器を直視した際にまぶしいと感じるエリアを縮小させる防眩仕様を実装した。効率の向上により既設のHIDランプに対して同台数以下での置き換えが可能になるため、既存競技場照明のリニューアルに対応させやすくなった。

従来の計算速度を大幅に短縮。空間の3次元データと照明器具の配光、取り付け方向、各面の相互反射を考慮して太陽光や照明の効果を再現する。「CIE 171:2006」に準拠した高精度な照明計算を実施。複数のBIMや3Dソフトとの連携が可能。

異なる配光のレンズを1列に集約した独自の光学技術によって器具効率を1.5倍に高めつつ、上方光束をこれまで以上に抑制。加えて、競技者が投光器を直視した際にまぶしいと感じるエリアを縮小させる防眩仕様を実装した。効率の向上により既設のHIDランプに対して同台数以下での置き換えが可能になるため、既存競技場照明のリニューアルに対応させやすくなった。

従来の計算速度を大幅に短縮。空間の3次元データと照明器具の配光、取り付け方向、各面の相互反射を考慮して太陽光や照明の効果を再現する。「CIE 171:2006」に準拠した高精度な照明計算を実施。複数のBIMや3Dソフトとの連携が可能。

お問い合わせ