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西山 猛 氏 / 今野 雅裕 氏

更別村役場 企画政策課参事 スーパービレッジ推進室長 今野 雅裕

北海道更別村 村長 西山 猛

北海道更別村✕Salesforce 人口3000人の農村がリードする自治体DX —更別村の挑戦

人口3000人の農村が、我が国の自治体DXをリードする存在になりつつある。令和3年(2021年)のデジタル田園都市国家構想推進交付金(デジタル実装タイプ)に採択された北海道更別村(さらべつむら)。採択されたのは、データ連携基盤を活用した複数サービスを実装、早期に開始するTYPE3というカテゴリーだ。更別村では、住民の利便性向上や行政の業務効率化にとどまらず、Salesforceを活用した「住民CRM」に取り組む。小規模な自治体でも実装可能なシステム連携とプッシュ型行政サービスの現状を解剖する。

帯広空港から車で約10分、十勝平野の南部に位置する北海道更別村。村の総面積の約7割が耕地という人口3132人の農村である(*)。他の自治体と同樣、高齢化と産業人口の減少に悩む更別村だが、過疎農村ではない。冷涼で寒暖の差が大きい広大な土地を生かした大規模農業が展開されており、農家1戸当たりの経営面積は約50ヘクタール、トラクター所有台数は約6台と、いずれも日本最大規模を誇る。

そんな更別村が今、Salesforceを活用した「更別スーパービレッジ構想」の実現に取り組んでいる。

(*)住民基本台帳2023年10月1日現在

電子申請と施設予約の「デジタル公民館」

更別村がデジタル化へ大きく舵を切ったのは、2016年の台風被害がきっかけだった。その後、新型コロナウイルス感染症の流行や住民の高齢化による地域コミュニティの希薄化が進んだことで、「住み続けたい村」であり続けるための抜本的な取り組みを始める。その1つが「更別スーパービレッジ構想」だ。

同構想は「ひゃくワクサービス」「デジタル公民館」「超なまら本気スマート農業」という、3つのテーマで構成されている。「ひゃくワクサービス」は100歳までわくわくと楽しく過ごせるためのサービスで、趣味系・健康系・医療系のサービスを提供する。

「デジタル公民館」は、こうした「ひゃくワクサービス」の土台となるサービス。住民が役場に出向くことなく、ポータルサイトを通じて行政手続きや施設予約などをワンストップで行うことを目指した。「超なまら本気スマート農業」は更別村の基幹産業である農業のスマート化を進めるサービスであり、他のサービスとのデータ連携も狙っている。

更別村の西山 猛村長は「もっと簡単・手軽に効率良く村のサービスを機能させるためにも、デジタル公民館による電子申請とオンライン施設予約を拡充していきます」と述べている。

Service Cloudでシームレスな利用環境

デジタル公民館の構築と実装に関しては、Salesforceのパートナー企業であるウフルが参画し、同社のサービス連携プラットフォームであるCUCON(キューコン)とSalesforceの「Service Cloud」を活用。住民ポータルとバックエンドシステムを連携してシームレスな利用環境を実現している。2024年から本格稼働した。

「2024年8月現在で、オンライン予約できる施設は4つ、電子申請が可能な行政手続きは50個あります。更別村には電子化によって押印廃止できる行政手続きが全部で500ほどありますが、将来的にはそのすべてで電子申請できるようにします」こう語るのは更別村役場 スーパービレッジ推進室長の今野雅裕氏。「更別スーパービレッジ構想」をけん引する中心人物の1人だ。

「家に居ながらスマートフォンで様々な申請ができるようになれば、住民の皆さんの利便性は間違いなく上がります。また、行政側からすると、電話や窓口での対応は結構時間がかかるもの。その時間ロスが減ることで、よりニーズのある住民サービスに注力できるメリットもあります」と今野室長は説明する。

西山 猛 氏

更別村は村だけの課題解決を
考えてはいません。
ファーストペンギンとして、
全国の自治体の課題解決を目指しています。

北海道更別村
村長

西山 猛

「孤立したサービスには意味が無い」

行政の電子申請や施設のオンライン予約などを進めて、住民の利便性向上や役場の業務効率化を実現していく更別村のデジタル公民館。しかし、今野室長は「それだけでは意味が無い」と言い切る。本来目指しているのは、住民のニーズや困りごとを起点にサービスを提供していく「住民CRM」の実現だ。

「例えば『あなたのお子さん、来春は保育所ですね』と役場から案内を出します。そこで、『◯◯の手続きは間違いなく申請してくださいね』と伝える。翌年は『そろそろ更新ですがどうしますか?』と通知する。忘れがちな手続きを役場からプッシュ案内してもらえれば、忙しい親御さんは、便利でうれしいでしょう」(今野室長)

そもそも行政の仕事を各部署がバラバラにやろうとするから手続きが煩雑になるのではないか。「各サービスが孤立してはデジタル公民館の意味はありません。住民一人ひとりに合ったサービスをベストタイミングでこちらからプッシュする。デジタル公民館が住民CRMとして機能すればそれが可能ですし、それこそSalesforceを採用するメリットだと考えています」。今野室長は、Salesforce導入の背景をこう説明する。

更別村の住民CRMはまだ緒に就いたばかりで、これからが本番。ゴールはまだまだ先にある。今野室長は「次の一歩のために、まずは住民の実態とニーズを可視化したい。そのために、今はとにかくデータを集めているフェーズ」だという。

永続性とノーコード/ローコード開発

だからこそ、デジタル公民館のプラットフォームにはサービスの永続性も吟味した。「一部のワープロソフトやSNSなど、隆盛を誇ったサービスが一気に没落したケースは珍しくありません。住民CRMを実現するにはある程度時間もかかります。短命な仕組みでは非常にまずい。何十年先もなくならないだろう、と思えるものでなければ」と今野室長。

もう1点、Salesforceを選んだポイントがある。ノーコード/ローコードによる開発・実装が可能なことである。つまり、サービスの内製化が比較的容易なのだ。行政業務には、内部の人間しか分からない独特のロジックや仕様が少なくない。それを外部に委託すると“勘どころ”が分からないために開発・実装が非効率になってしまう。

「プラットフォームをどうしようか考えていた時に、農林水産省がSalesforceを導入して3000件ほどあった申請業務を内製でデジタル化したと聞いてびっくりしました。そんなことができるんだと」(今野室長)

ノーコード/ローコードのメリットはコスト面にも及ぶ。内製で開発・実装されたサービスを他業務や他の自治体へ横展開できれば、個別サービスの展開コストは少なくなるからだ。

今野室長は「現在、50の電子申請を可能にしましたが、まずは内製化をして100まで増やすことを見込んでいます」と明言する。

今野 雅裕 氏

目指しているのは、
住民を起点にサービスを
提供していく「住民CRM」の実現です。

更別村役場 企画政策課参事
スーパービレッジ推進室長

今野 雅裕

文字や音声、モビリティ、支払いと連携

またデジタル公民館の今後の展開として、診療所の予約サービスを組み込むことを検討している。村唯一の診療所である更別村国民健康保険診療所では、コロナ禍以降、発熱者の事前予約が必要になった。しかし診療予約業務まで手が回らず、コールセンターとして事務局を置いていたが対応時間は限られており、住民にとってスムーズな予約受付とはいえないものだった。そこで、更別村が考えているのが、Service Cloudを活用した24時間診療所予約システムの開発だ。高齢者が多いことからAmazon Connectによる音声認識と組み合わせ、自動予約を構想する。

スタート時は診療予約の仕組みだけだが、Service Cloudを採用する目論見として、個別最適なサービス連携を想定している。例えば診療予約をするとコミュニティバスが自動的に配車され、受診した帰りにスーパーへ立ち寄って必要な日用品をピックアップする――。いずれは更別村で安心に暮らし続けるための様々なサービスをつないでいきたい考えだ。

「多様なサービスを連携していきますが、起点となるのは一人ひとりの住民。そのために、更別村のすべての住民にIDを配布することを考えています」と今野室長。現在配布済みのID数は548で、まだ全人口の2割にも達していない。これを拡大していく施策として、マイナンバーの仕組みとSalesforceを連携することも考えている。

経験を共有して悩める自治体と共闘

2023年度における更別村の施設予約件数は457件、利用日数は239日だった。内製化とペーパーレス化をどこまで進めることができるのか。始まったばかりのデジタル公民館の進化は、その点にかかっているようだ。

デジタルの導入には確かにコストがかかる。小規模の自治体では導入が難しいとする向きもある。しかし、横展開しやすいSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)では、小規模の自治体でもコストメリットを出せるという。

「例えば同じコストで住民にIDを配るとしたら、10万人規模の都市の配布率が1%なら、3000人の更別村では80%にはなるでしょう。更別村の方が準公共サービスの拡大余地が多く、そこに人的資源をシフトすることで、サービス拡充が加速度的に進むからです」(今野室長)

そこには、外部とのシステム連携と民間協業が不可欠だろう。西山村長は「更別村は自分たちだけの課題解決を考えてはいません。私たちがファーストペンギンとなることで、中山間地域の自治体への横展開、広域連携などにつながればと考えています。人口減少と高齢化に悩む全国の自治体と共有して、一緒に立ち向かっていきたいと考えています」と語る。

今野室長は「住民一人ひとりに合ったサービスが提供される時代が、すぐ目の前に来ていると感じています」という。まさにそれが更別村の近未来像であり、全国の自治体と共有できる付加価値になるのだろう。

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