みがき棒鋼や転造ボールねじを手掛ける小木曽工業(本社・名古屋市中川区)は、従来の生産管理システムで生じていた課題の解決と経営の改革を目的に、2016年にSAP ERPを導入した。受注から出荷まで複数工場間でデータが統一され、業務の効率化、顧客満足度向上、付加価値の高い事業へのシフトなど、様々な効果を得ている。
小木曽工業はみがき棒鋼の専業メーカーで、創立は1939年(昭和14年)である。みがき棒鋼とは、鉄鋼メーカーが製造したコイルや棒鋼を材料に、表面状態や寸法精度を向上させた鉄鋼二次製品だ(記写真参照)。また、転造ボールねじなど、みがき棒鋼を加工して付加価値を高めた製品も手掛けている。これらの製品は、自動車や建設機械、産業機械や工作機械などに幅広く使われている。
小木曽工業の主力製品。鉄鋼メーカーが製造したコイルや棒鋼を、引き抜き、旋削、研削のいずれかで加工した二次製品がみがき棒鋼だ(右側手前5本)。さらにその磨き棒から転造ボールねじが作られる(右側奥2本)。この他にボールねじ用ナット(左側2本)なども製作している
同社は2016年に、国内4工場(当時)をまたがる製品の生産管理の効率化とデータの一元化を目的に、SAP ERP を導入した。売上高103億円(2021年度実績)、従業員数248人(2023年4月時点)の規模の同社にとっては英断とも言える投資であった。
ITシステムの大幅刷新に至ったのには理由がある。2005年に生産管理システムを導入し使い続けてきたが、実務面だけではなく経営面でも限界が来ていたからだ。
「従来の生産管理システムは、それぞれの現場に合わせて作り込んできたこともあって、出てくる指標が工場ごとに違っていたり、属人性が強く残っていたりするなど、多くの課題を持っていました」と、代表取締役社長の小木曽正規氏は明かす。
小木曽工業
代表取締役社長
小木曽 正規 氏
「会社の成長に向けて付加価値の高い製品の比率を上げるといった事業の見直しをするにしても、経営判断に必要な情報が不足していたのが実情です。また、月次集計にも時間がかかり、月中になんらかの対策を打とうと思っても後手に回っていました」
また、その当時は生産管理グループに在籍し、現在は経営企画部の福田篤史氏は「顧客に迷惑をかけることもあった」と話す。
「複数の工場全体で最適化を図るシステムにはなっていなかったため、例えば上流工程の工場が自分たちの作業実績だけを優先して仕掛品の発送を後回しにしてしまい、結果として下流工程の作業が滞ったり、時には顧客への出荷が遅れることもありました。また、材料の発注漏れや誤発注も起きていました」
小木曽工業
経営企画部
福田 篤史 氏
2015年、従来の生産システムのままでは成長は難しいばかりか誤った経営判断をしてしまいかねない、と危機感を抱いていた当時会長の小木曽茂氏(現相談役)がSAP ERPの存在を知ったことをきっかけに、ITシステムの大幅刷新プロジェクトが動き出した。
小木曽茂氏がSAP ERPを知ったのは、経団連愛知県経営者協会の交流会(勉強会)だった。会社全体のデータを統合し、データを見ながら経営判断を進めることが重要、といった話を聞いて考えを深めていったという。
このような経緯を経て、経営改革も見据えた上で、SAP ERPの導入がトップダウンで決定された。データの一元化を図るために、生産管理に加え、財務会計、管理会計、販売管理、在庫管理、購買管理の各モジュールを採用することにした。
プロジェクトは、会長の小木曽茂氏自らがプロジェクトオーナーに就き、取締役の小木曽正規氏(現社長)がプロジェクトマネージャとなった。その下には社内のしがらみにとらわれず自由な発想を持ってほしいとの思いから、若い社員が配置された(下記図参照)。前出の福田氏はプロジェクトリーダ兼事務局を任された。
2016年のSAP ERP導入における小木曽工業のプロジェクト体制。キーマンは、SAP ERP導入の目的の展開、業務フローの教育、各工場の移行作業の推進、操作指導や問い合わせなどを担う。プロジェクトチームは、キーマンのサポートに加え、マスタのメンテナンス、データの監視などを行う
ただし、既存システムの入れ替えには様々な困難が予想された。最大の課題は、SAP ERPが持つ機能と、社内業務との整合性であったという。
「従来の生産管理システムを導入したときは、業務に合わせてパッケージソフトを大幅にカスタマイズしたため、結果として開発期間が長くなり、開発コストも増大してしまいました」と社長の小木曽正規氏は述べる。「その反省を踏まえ、SAP ERPの導入にあたっては、アドオンによってカスタマイズするのではなく、社内の業務をSAP ERPの標準機能に合わせる、いわゆる『Fit to Standard』を方針に据えることにしました」。
すなわち、標準機能で対応できないときは運用を工夫し、それでも難しい場合だけ最小限のアドオンを開発する方法だ。
とはいえ、慣れ親しんだ業務のやり方を変えようとすれば社内の反発も強くなる。そこで会長の小木曽茂氏自らが「持続可能な企業への変革」というビジョンを繰り返し説明し、世界標準で日本の多くの製造業にも使われているSAP ERPに自社の業務を合わせることへの理解を得ていった。
既存業務の徹底した洗い出しを経て、2016年1月にSAP ERPの構築を開始。そして同年10月、10カ月間という短期間で稼働を開始した。