成功の3つの鍵は トップダウン マスタ整備 カスタマイズ排除 売上高100億円企業が取り組んだ経営改革 みがき棒鋼の小木曽工業がSAP ERPで成果を実感

売り上げの変化を仮定した
業績シミュレーションも可能に

SAP ERPの導入によって、すべての工場で作業やデータが統一されるとともに、営業や調達との一元化や見える化が図られ、製品ごとの製造原価も明確になるなど、様々な効果が得られたという。月次決算に要する日数は1日に短縮されたほか、月次の着地点が月中に分かるようになり、対策も速やかに立てられるようになった。特定の個人に依存することもなくなり、担当者同士がデータに基づいて会話ができるようになるなど、仕事の効率と正確性は確実に向上した。

もちろん、すべてが順調に進んだわけではない。とくにMRP(資材所要量計画)が正しく回るまでには若干の時間を要した。

「MRPの基礎となるSAP ERPのマスタは項目数がかなり多いため、ある項目の設定を変更するとMRPの出力はどう変わるのか、といった試行や検証に1年近くを要しました。現在では、工程を含めてかなり細かい設定を行っていて、精度の高い生産管理が実現できています」(福田氏)

時間はかかったもののマスタの整備は結果として大きなメリットを生んでいる、と小木曽正規氏は話す。

「受注、調達、加工、出荷のそれぞれが計画通りに進められるようになったことで、なにより、お客様に納期を正確にお答えできるようになりましたし、納期遅れでご迷惑をおかけすることも大幅に減少しました」

最も効果が出ているのが経営面だという。小木曽正規氏は、「データから会社の今の状態を的確に把握できるようになりました。また、売り上げに応じて工場負荷や人員をシミュレーションしたり、設備投資に対する効果をシミュレーションするなど、次の一手を数字で判断できるようになりました」とメリットについて説明する。

実際に業績も向上しており、付加価値の高い製品が主体の産業機械向けの売り上げが、SAP ERPの導入前は15%程度だったのが、2024年には20%にまで増加しているそうだ。好調な業績を反映して2019年には津工場を竣工したほか、春日井工場内に第4工場棟を増設し、生産能力の拡大を図っている。

2019年に竣工した津工場

2019年に竣工した津工場。自動化に対応した最新鋭の設備を導入し、月産800トンの精密センタレス研削みがき棒鋼の生産能力を有する。SAP ERPによって工場やラインの増設にもスムーズに対応できた

中堅・中小企業の成長と改革を
実現するSAP ERP

中小企業基本法における定義によると、日本では資本金が3億円以下で、従業員数が20人超300人以下の製造業企業は「中小企業」に分類される。そして、その数はおよそ5万社に上る*1。小木曽工業のように複数の工場で製品を生産している企業も多いはずで、同社の取り組みは経営改革の参考になるだろう。

同社を成功に導いたポイントとしては、トップダウンでの導入判断とプロジェクト推進、マスタの徹底した整備、および、Fit to Standardによるカスタマイズの排除、の3点が挙げられそうだ。

小木曽正規氏は同社を預かる立場から、次のように述べる。

「お客様や市場のニーズを把握しながら自社の技術的な強みを売り上げや利益につなげていくためには、やはり定量的なデータで判断していくことが当社のような規模の会社では重要です。経営判断にもつなげられる強いITシステムを構築できたと思っています」

なお、SAP ERPは大企業向けシステムというイメージも強いが、実際は売上高がおおむね1000億円以下の中堅・中小企業が導入件数の80%以上を占めており、その敷居は決して高くない。SAP ERPを新規で導入する中堅・中小企業向けに、導入期間の短縮や運用負荷を軽減する「GROW with SAP」という新しいクラウドERPソリューションも登場している。

多くの中堅・中小企業がSAP ERPで競争力を高めて新たな飛躍を果たすことが期待される。

*1 中小企業庁「産業別規模別企業数」(令和5年12月13日)より

小木曽 正規氏 福田 篤史氏