―2024年5月にマイクロソフトから「Copilot+PC」のコンセプトが打ち出されるなど、「AI PC」が大きな注目を集めています。AI PCの概要、従来のPCとの違いなどをお聞かせください。
國持急速に進化を遂げるAIですが、特に生成AIの登場によって、日本語など自然言語を使って利用できることから、AI技術がビジネスユーザーにとって一気に身近なものとなった感があります。
誰もが気軽にAIを使える環境が整い始めたわけですが、その一方で生成AIを活用しようとすると、サービスが動作するサーバーなどのハードウエアには、非常に高いレベルのマシンパワーや潤沢なリソースが必要で、多くの場合AIの利用は提供されているクラウドサービスによって行うことになります。ただ、その都度クラウドにデータを送って処理結果が返されるという形態の利用では、当然、通信環境の遅延、あるいはデータを外部に送信することに伴うセキュリティー上の問題なども懸念されます。これに対し、比較的簡単なAIの処理を効率よく手元のデバイスで行いたいというニーズが高まり、登場してきたのがAI PCです。
―仕様上の特徴としてはどのような点が挙げられますか。
中山端的にいえば、AI処理に特化した専用のチップであるNPU(Neural Processing Unit)を搭載しており、AIの推論処理をNPUにオフロードできるため、CPUの負荷を軽減できるというメリットがあります。特に、近年はAIモデルのサイズが大きくなる一方のため、通信やセキュリティーの問題に加えて、高い処理負荷に付随してデータセンター側の消費電力も肥大化するという問題も指摘されています。そうしたことから、エッジデバイス上でのAI処理の実施を目指すというのは、必然的な流れであるといえるでしょう。
―クアルコムはそうしたニーズに応えるSoC(System on a Chip)として「Snapdragon X Elite」を提供していますが、その特徴についてお聞かせください。
中山クアルコムは、1985年に米国で設立され、CDMA方式携帯電話の実用化に成功して大きな成長を遂げました。その後、半導体を専業とするメーカーとなり、特に近年では、スマートフォンなど通信機器を提供している数多くのお客様にSoCを供給してきました。現在はそうした通信機器向けのチップ提供の経験値を生かし、人々の生活や経験を変革する新たな価値提供をサポートすべくチャレンジを続けています。
Snapdragon X Eliteでは、マイクロソフトの「Copilot+PC」の要求水準である40 TOPS(1秒当たり40兆回)を超える、45 TOPSを実現するという高度な性能を提供しています。現時点で、Copilot+PCの性能上の要件を満たしているSoCは、Snapdragon X Eliteを置いてほかにありません。言い換えれば、現在Copilot+PC準拠のモデルとして各社から提供されている製品は、すべてSnapdragon Xシリーズを搭載しているということになります。
そうした高性能に加えて、通信機器向けの領域で培ってきた高度な電力効率技術によって長時間のバッテリー駆動も実現しています。また、ファンレスによる静寂性、5GやWi-Fi 7といった超高速通信技術を搭載していることも、Snapdragon Xシリーズの大きな特徴です(図1)。
図1 Snapdragon Xシリーズ搭載AI PCの特徴
クアルコムが通信機器向けの領域で培ってきた高度な電力効率技術による長時間のバッテリー駆動に加え、AIエンジン、超高速通信技術搭載などで、次世代AI PCを実現する
―Snapdragon X Eliteを搭載したCopilot+PC準拠のAI PCを活用することで、業務にはどのような変革がもたらされますか。
中山Snapdragon X Elite搭載のCopilot+PCでは、業務ですぐに役立つ様々な新機能が含まれています(図2)。例えば「リコール機能」は、ビジネスシーンでは特にニーズが高いものと思います。業務中によく発生する「あのメールはいつ送ったかな」「あのファイルはどこに保存したかな」「あのWebサイトはどうやって見つけたかな」といった、探し物に時間を費やすことはもはやなくなります。
また「ライブキャプション機能」では、Teamsによるオンライン会議での音声を自動的に字幕として表示できるほか、日本語などの様々な言語の発言を瞬時に英語に自動翻訳して字幕表示することも可能です。
さらに「コクリエーター機能」も非常に便利です。この機能は私もよく使っており、思いついたビジネス上のアイデアを部下に伝えるために図示化したり、スライドを作成したりするというシーンで活躍します。私が描いた拙いポンチ絵を、コクリエーター機能ではAIを使って、一瞬のうちにハイセンスなグラフィックにしてくれます。
図2 Copilot+PCで提供される主な機能
マイクロソフトの最先端のAIモデルと強力なプロセッサを組み合わせることで、より生産的でクリエーティブな業務遂行が可能になる
―クアルコムとTD SYNNEXは、Snapdragon X Elite搭載のPCを国内の法人向けに提供する事業で協業していくと発表がありました。その経緯と、協業により創出される新たな付加価値についてお聞かせください。
國持もともとクアルコム様との間では、かねてよりグローバルで強固なリレーションシップを培ってきています。今回、Copilot+PCという新たなカテゴリの製品を国内の法人市場に提案していくにあたって、両社がタッグを組んでシナジーを生かしていくというのは、極めて自然な流れであると考えます。
Copilot+PCについては、新しい製品であるがゆえに、様々な問題、不具合の発生を懸念されるケースも多いと思います。TD SYNNEXとしては、万が一の問題発生の際にも、クアルコム様やマイクロソフト様をはじめ、関連するベンダー様の支援を受けながら、いち早く原因の切り分けを行い、対処に必要なサポートの提供や解決策の提示を行う役割を担うことで、Copilot+PCの利用にまつわる安心感をお客様にお届けしていきたいと考えています。
中山クアルコムの日本法人は、従業員数約180人という規模の小さな企業です。日本全国の企業のお客様をサポートするには十分とはいえず、また実際現場で私どものテクノロジーを活用いただく皆様にアプローチするノウハウなどをすべて持ち合わせているわけでもありません。これに対しTD SYNNEX様は、PCをはじめとするハードウエアやソフトウエア、サービス、ソリューションをエンタープライズユーザー向けに提供されているソリューションカンパニーです。協業を通じて、当社が有する最新の半導体テクノロジーと、TD SYNNEX様の提供する各種ソリューションを組み合わせながら、より俊敏にSnapdragon X Eliteのもたらす価値をお客様にお届けしていければと考えています。
―今後に向け、まずはSnapdragonシリーズに関連する製品ロードマップについて教えてください。
中山当社では2023年10月にSnapdragon X Eliteを、2025年4月には「Snapdragon X Plus」をそれぞれ発表しました。今後も引き続き、Snapdragon Xシリーズのラインアップを拡充させていきます。また、今後も鋭意継続的にチップの性能を進化させ、新たな市場ニーズに応えていくという明確な方針を掲げて臨んでいます。
―最後に両社の協業に関する今後の予定、将来的に向けたビジョンについてご紹介ください。
中山まず直近では、TD SYNNEX様が全国各地で開催を予定されている、Copilot+PCの説明会をクアルコムとしてサポートさせていただきたいと考えています※。当社自身は、Snapdragon Xシリーズのローンチに伴って日本のPC市場に本格参入したばかりで、そうした意味では日本のPC市場ではまだまだ新参者でもあります。そのような観点から、TD SYNNEX様の今後のご支援には大きな期待を寄せているところです。
國持お客様に対し、単にCopilot+PCが提供する機能をお伝えするだけではなく、その活用により、具体的なビジネスシーンの中でどのような価値がもたらされるかをしっかりとお伝えしていくことが私たちのミッションです。クアルコム様と手を携えて、Copilot+PCが提供する、従来のPCとは一線を画する新たなユーザー体験をしっかりとお客様に訴求していきたいと考えています。
※ITソリューションマーケット名古屋・仙台は実施済み、Inspire Japan 2024 TOKYO出展予定、その他イベントも企画中。詳細はTD SYNNEXのコーポレートサイトでご確認ください。