デジタル化とグリーン化という2大メガトレンドが進む中、産業機器や車載機器を駆動する電源には高度なパワーエレクトロニクス(パワエレ)技術の導入が求められている。そこでカギを握るのが、革新的電源の開発・活用を後押しする高度で使い勝手の良い半導体ソリューションだ。1977年から45年以上にわたり日本の電源開発者に製品を提供してきた日本テキサス・インスツルメンツ(TI)は、2024年3月15日、「パワーサプライ デザインセミナー(PSDS)」を開催し、同社の技術を結集した最新のパワエレ・ソリューションを披露した。
新たな半導体材料であるGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)を使ったパワー半導体や、斬新な回路トポロジー、より精密で巧妙な制御技術、高密度で信頼性の高い実装技術など、電源における技術革新は多面的に進化している。米TIで産業機器担当のゼネラル マネージャを務めるRobert Taylor氏は、こうした高度なパワエレ技術について「応用機器の高性能化や脱炭素化の潮流の中で、これまで以上に多くの領域で利用されるようになりました」と語る。
テキサス・インスツルメンツ
ゼネラル マネージャ
Robert Taylor氏
生成AIや動画配信、クラウドサービスの利用が急拡大し、データセンターに求められる演算能力は高まる一方だ。サーバーの電源は従来の1kW以下の出力では足りず5.5kW以上となり、より小型で高出力、なおかつ高効率で冷却機能を簡素化できる電源が求められている。
自動車の領域でも、先進運転支援システム(ADAS)などの高度化が進み車載コンピュータでの演算量が急増。産業機器同様に大出力で小型、高効率の電源が不可欠となった。
電源開発支援でTIが力を入れる5つの重要課題
TIでは、応用機器の設計者が電源を設計する上で重要な次の5つの課題への対応にフォーカスし、迅速かつ適切に解決できる先進的パワエレ・ソリューションの提供に注力している。
- ①「低EMI(電磁干渉)」
- ②「高電力密度」
- ③「低IQ(静止電流)」
- ④「低ノイズと高精度」
- ⑤「絶縁」の実現
①は、スイッチング電源で発生する電磁ノイズの干渉による誤動作を防止する。そのため、開発対象に合わせて保有するEMI対策の中から適切な技術を適用し、EMI規格への迅速な適合を支援する技術を提供する。
②は、先進的なデバイスプロセスやパッケージング、回路設計技術を導入し、電力密度を最大化した電源ソリューションを提供する。サーバーや車載機器などあらゆる応用機器において、より縮小したスペースで多くの電力を供給できる電力密度の高い電源を実現している。
③は、超低IQ化を実現する技術を導入したパワー製品を提供。静止電流を最小化し、バッテリー動作時間と保管時間を最大化する。バッテリーで駆動する機器が種類・数量ともに増えてきたことに伴い、動作時間と保管時間を延長するために無負荷または軽負荷の条件下での高効率化が求められている。TIでは静止電流を最小化し、システム性能を損なうことなくバッテリー寿命や保存寿命を延長する製品を用意している。
④は、低ノイズのプロセス技術や高度なIC設計、低ストレスのパッケージ、テスト手法を導入し、低ノイズの電源デバイスを実現する。特にEV(電気自動車)用バッテリーの安全性向上と寿命延長を実現するため、バッテリーの稼働状況を高精度に監視し、きめ細かく充放電制御する必要性が出てきている。その実現のために低ノイズの電源が欠かせない。
⑤は、大電力で駆動する機器においてもより高度なパワエレ技術の導入による高電圧電力の緻密な制御が求められ、信頼性の高い絶縁技術が必要になっている。これを受け独自の絶縁技術を開発・適用し、電源の性能を損なうことなく業界標準規格を上回る高い安全性・信頼性を確保している。
革新的技術を使いやすい形で提供
ICT機器や車載機器では、革新的なパワエレ技術を導入した電源が欠かせない。だが、応用機器ごとの要求に合わせた電源を適切に開発するためには、パワエレ技術に関する深い知見が必要だ。米TIで車載機器担当のゼネラル マネージャを務めるPradeep Shenoy氏は「革新的パワエレ技術を注いだ多様な半導体ソリューションを開発・製造し、システムエンジニアリングチームの力を結集して、その潜在能力を生かした応用機器の開発を支援します」と述べる。
テキサス・インスツルメンツ
ゼネラル マネージャ
Pradeep Shenoy氏
米TIでは、1万7000種以上の動作検証済みのリファレンスデザインをそろえたデザインライブラリーを構築。そのうち、2000種以上をオンラインプラットフォームで公開している。これらの設計資産を有効活用して個々の設計案件で抱える課題を見極め、迅速かつ適切に解決できる電源設計の支援サービスを提供し、既に880件もの電源開発案件を成功させた実績を持つ。
課題解決に向けたブリック図や部品を推奨するだけでなく、回路やレイアウトの設計、試作品の製作や各種テストとデバッグを支援することもできる。顧客の設計を基にしたブラッシュアップも可能だ。
応用機器の進化を高度な電源技術で支える
日本TIが2024年3月に開催したPSDSのデモブースでは、最新の製品を活用した車載機器と産業機器の付加価値を高める10種類の電源リファレンスモデルを披露した。車載機器用と産業機器用それぞれから1つずつ紹介したい。
車載機器用では、GaN FETを採用した、小型・高効率の入力電圧範囲の広い2相同期降圧コンバーターのリファレンスモデルを展示した。12V電源に代えて採用されるようになった高効率な48V電源に対応する。スイッチング周波数を300kHzに高めることで、インダクターなど回路を構成する受動部品の小型化を実現。54mm×54mmと小型化で、入力電圧48V時のピーク効率は95.2%を誇る。
産業用では、サーバーなどの電源に適用する、GaN FETを採用した5kW、2相トーテムポールFPCのリファレンスデザインを展示した。70k~1.2MHzでの可変スイッチング周波数とZVS(ゼロ電圧スイッチング)を組み合わせて動作し、サーバーの負荷が大きく変動しても高い電力効率を維持。GaNに最適化した新たなトポロジーと改良型の三角波電流モード(ITCM)の相乗効果で、120W/インチ3という高い電力密度とソフトスイッチングによる99.1%を超える高いピーク効率を実現している。
今回紹介したTIが提供する電源ソリューションを活用すれば、価値ある応用機器の開発がより円滑かつ迅速に進むことだろう。
