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デジタル変革の新たな伴走者 ベトナムIT産業の底力デジタル変革の新たな伴走者 ベトナムIT産業の底力
Vol.7 福岡市

「海外IT人材をわが街に」、日本の地方都市で争奪戦スタート
福岡市が攻めの「一手」、DX推進と人材不足の解消を目指す

DX(デジタルトランスフォーメーション)需要を追い風に地方自治体が動き出した。国内のIT人材が不足するなか、国外から優秀な人材を招くために各地で取り組みがスタートしている。福岡市は2023年11月、日本で初めて「エンジニアビザ制度」を開始した。これにより外国人ITエンジニアが日本で就労する際の在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下、就労ビザ)取得にかかる審査期間を大幅に短縮した。これに目を付けたベトナムのIT企業が福岡に進出後、ベトナム人ITエンジニアの福岡への集積を始めている。地方都市におけるIT人材確保の最新動向を迫った。

濵﨑 紀代子氏

福岡市
経済観光文化局
新産業振興部 新産業振興課

 日本全体で人手不足が問題となっている。デジタル分野においては、DXニーズの高まりもあり、IT人材の不足が深刻だ。

 地方都市の場合、さらに東京への一極集中という問題が重なる。IT人材の働き口は首都圏に集中している。そのため地方都市は、首都圏よりはるかにIT人材が足りていないのだ。

 仮に地方都市にIT人材を集めることができれば、地方でも地元企業の案件を請け負えるようになる。DX化が進めば企業の生産性が高まり、ビジネス拡大が期待できる。その結果、さらにDX化の要望が高まり、新たな雇用が生まれる。地元出身の若者が、東京から戻って働くケースも増える可能性がある。

 地方都市が抱えるITエンジニア不足の状況に目を付けたのがベトナムだ。今、多くのベトナムIT企業が東京や大阪以外にも拠点を設け始めている。

 ただし、課題もある。一つは就労ビザを取得するハードルの高さだ。外国人のITエンジニアが就労ビザを取得する場合、地方出入国在留管理局(以下、入管)にてITエンジニア本人の身元や、日本でそのITエンジニアを雇う企業の経営状況などの審査を受ける必要がある。審査期間として約1~3カ月を要するが、非上場の中小企業やスタートアップ企業の場合は経営状況の審査が長期化しやすい傾向にあるという。

福岡市は短期間で就労ビザが
取得できる新制度を開始

 この就労ビザの入管での審査を迅速化し、外国人のITエンジニアを雇用しやすくする動きがある。

 福岡市は2023年11月、「エンジニアビザ制度」を開始した。就労ビザ取得に際し、福岡市が事前に受け入れ企業の経営状況などを確認し、一定の条件を満たした企業を認定することで、入管での審査期間の短縮を実現したという。

 2014年に指定された国家戦略特区の枠組みを使ったもので、このエンジニアビザは全国初の試みだ。福岡市内に事業所がある企業が対象で、中小企業やスタートアップ企業の利用を想定している。

濵﨑 紀代子氏
福岡市
経済観光文化局 新産業振興部
新産業振興課 課長
濵﨑 紀代子

 福岡市経済観光文化局新産業振興部の濵﨑紀代子新産業振興課長は「AI(人工知能)など最新テクノロジーの根幹はITエンジニアが担っており、目まぐるしいスピードで技術革新が起こっている。この潮流の中で企業が国際競争力を持ち続けるためには、優秀なITエンジニアの確保が重要であり、優れた外国人ITエンジニアを早期に入国させ、いち早くプロジェクトを実施できる環境を整えることで、新たなサービスを生み出していくため、この制度をつくった」と語る。

 制度活用の第一号となったのは、ベトナムIT大手VMOホールディングスの日本法人であるVMOジャパンだった。エンジニアビザ認定後、入管へ2024年1月31日に就労ビザ取得を申請し、5日後の2月5日に審査が完了したという。1~3カ月を要していた従来よりはるかに短い、異例のスピードだ。

 これまで11社が認定を受け、14人の外国人ITエンジニアにエンジニアビザ制度を利用した在留許可が下りている。入管での審査期間は平均で17〜20日程度だという(2024年7月末現在)。

 エンジニアビザ制度の認定期間は1年間だ。この間であれば、認定を受けた企業は迅速に何人でも外国人ITエンジニアを入国させることが出来る。当然、認定期間終了後に再度エンジニアビザの認定を受けることも可能だ。

 濵﨑氏は「今後も新たなテクノロジーによってイノベーションを加速させ、経済発展や市民生活の質の向上につなげていきたい」と展望を語る。

ベトナム企業が続々と
福岡に拠点を開設

 2017年創業の、ベトナムの新興ITベンダーであるVTIも、エンジニアビザ制度を利用している。VTIは2024年4月、福岡市に「ニアショア開発センター」を開設した。新拠点で雇用するベトナム人ITエンジニアの就労ビザを取得する際に、エンジニアビザ制度を使った。

 同社のグエン・テェ・マン氏は、「福岡はベトナムから地理的に近く、首都ハノイから直行便も出ていて出張で行きやすい」と魅力を語る。福岡県とハノイ市は2008年に友好提携を締結しており、交流も盛んだという。

 これらの特徴があったところに今回のエンジニアビザ制度が始まったことで、VTIは福岡での拠点開設を決めたという。同社はニアショアビジネスによって同拠点を拡大していく考えだ。人員は現在の約15人から、2030年には500人まで増やす計画だという。

 VMOとVTI以外にも、FPTソフトウェアやRikkeisoftといったベトナムの大手IT企業が福岡に拠点を開設している。

 福岡市のエンジニアビザ制度に類する取り組みをしている地方自治体は、現時点ではまだないという。日本は今後、さらなるIT人材不足が予想されており、地方は首都圏以上に深刻な状況になるはずだ。福岡市と同様に、外国人ITエンジニアの雇用を支援する動きが、ほかの自治体で始まってもおかしくない。

 海外人材の中でも注目は、ベトナムのIT人材となりそうだ。ベトナムは約1億人の人口を誇り、平均年齢は30代前半と若い。平均が約50歳の日本とは大きな差がある。ベトナムにおいてIT産業は人気ナンバーワンの職種であり、優秀な人材が集めやすいという。

 IT人材の不足に悩む企業は今後さらに増えるはずだ。福岡市のエンジニアビザ制度のような動きは、これまで外国人ITエンジニアに縁がなかった企業にとって、人材獲得の新たな選択肢となり得る。

 特に地方企業にとって、チャンス到来となる可能性がある。というのも、海外人材を活用する動きは、首都圏や近畿圏など大都市の企業が中心だった。福岡市のような動きが地方都市でも広がれば、日本の大都市をスルーして、地方企業と海外人材が直接つながるケースが増えていく可能性もある。

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