全社を横断し、戦略的にDXを推進する企業が増えている。老舗非鉄金属メーカーの三菱マテリアルもその1つだ。1871年(明治4年)、三菱グループのルーツとなる九十九商会が鉱業へ進出したことを皮切りに、150年以上にわたって日本の産業を支えてきた老舗企業である。
2020年にDX推進本部を設立した同社では「MMDX」(三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)の名のもと、「ビジネス付加価値」「オペレーション競争力」「経営スピード」の向上を目標にさまざまな施策に取り組んできた。2023年4月には三菱マテリアルグループ(以下、MMCグループ)のシステム機能会社として三菱マテリアルITソリューションズを新設し、グループ一丸となったデジタル化を加速させている。
MMDXでは事業DX、ものづくりの高度化、業務効率化、人材基盤など約20個のテーマを設定。基幹業務変革の柱にはERP(Enterprise Resource Planning)導入を掲げた。2024年4月には三菱マテリアル単体でERPの本番稼働が始まり、今後は国内外グループへの展開を図る。
ERP導入と並行して、周辺システムのモダナイゼーションにも着手した。折しも改正電子帳簿保存法(以下、改正電帳法)への対応が重なり、電子帳票類の安全かつ適切な保管に迫られていたからだ。全社DXの勢いを削がないためにも、業務効率化を実現するデジタルツールの選定は急務となっていた。
そこで着目したのが、ウイングアークによる電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent(インボイスエージェント)」だった。三菱マテリアルグループ(以下、MMCグループ)では長年ウイングアークが提供する総合帳票基盤ソリューション「SVF」を活用してきた経緯があり、SVFとのスムーズな連携もポイントになった。帳票デジタル化がもたらした成果はどんなものだったのか。DX担当者の言葉を通じて具体的な内容を紹介する。
「そもそもMMCグループとウイングアークは20年以上の付き合いがあります。2000年代前半に各工場で情報システムの導入が始まり、製造指示書、納品書などをデジタル化するためにSVFを導入したのがきっかけです」。そう話すのは、三菱マテリアルITソリューションズの藤塚陽平氏だ。
藤塚氏はSVFの選定理由として「オフコンやオープン系プログラムからのAPIによるシステム帳票印刷が可能なこと」「複合機などのプリンタに対してプッシュ印刷が可能なこと」「帳票設計ツールの優れた操作性」を挙げた。現在ではグローバルを含むMMCグループの標準帳票ツールとなっている。
invoiceAgentに関しては、先に述べたようにDXの推進、ERPの導入、改正電帳法への対応が契機となった。三菱マテリアルITソリューションズの菊池一平氏は、invoiceAgentを検討した背景を次のように語る。
「私はMMDXにおける統一基盤の担当者です。パブリッククラウド(AWS)をベースにした全社共通基盤『MMCGクラウド(三菱マテリアルグループクラウド)』を構築する中で、ERP導入は大きなトピックでした。そこに帳票保管の問題や改正電帳法対応の課題が持ち上がり、MMCグループにおける全社的な文書アーカイブ基盤としてinvoiceAgentが候補に上がりました」(菊池氏)
invoiceAgent選定にあたっては「すでにMMCグループで広く利用されているSVFとの相性の良さ」「国内シェアNo.1の実績」「信頼性や将来性、技術的サポートの品質が高いこと」などを考慮した。「invoiceAgent自体はERP導入に向けた周辺システムという位置づけのため、ERPや既存システムとの親和性も重視しました。さらに改正電帳法に対応した文書管理システムとして、SVFとの連携の高さは大きかったと思います」(菊池氏)。
ERP導入のフェーズでは改正電帳法の対応が定まっていなかった部分があり、後から要件が追加された部分も少なくなかった。しかしウイングアークが詳細な情報や資料を提供することで順調に進められたという。三菱マテリアルITソリューションズの北川順一氏は「それらの情報により、追加検討をすることができました。手厚いサポートが、invoiceAgentの利用を円滑に進めることができた秘訣だと感じています」と振り返る。
SVFの効果について、三菱マテリアルITソリューションズの宮下純氏は「一般的な管理帳票だけではなく、出荷製品に貼り付けるシールラベルなどにも活用するなど、紙からデジタルへの移行や迅速な帳票の作成に寄与しています。帳票設計ツール『SVFX-Designer』の使いやすさもメリットです」と語る。
そしてSVFとinvoiceAgentを組み合わせることで、帳票作成から仕分け、保管、検索までが一元的に管理できるのも特徴だ。
三菱マテリアルITソリューションズの馬屋原和樹氏は「紙帳票をデジタル保管する方式になったことで、ERPをはじめとする各システムでデジタル帳票のトレーサビリティが容易になりました」と述べる。
現在は対象となるデジタル帳票をERP、invoiceAgent、ワークフローシステムから参照表示できるように設定し、帳票登録は自動かつ、きちんと改正電帳法の要件を満たして保管される仕組みを構築している。「検索項目も細かく指定でき、スピーディに検索しやすい。中途入社した私はここに来てから初めてinvoiceAgentを使いましたが、こんなに便利なツールがあるのかと実感しました」(馬屋原氏)。
invoiceAgentの導入にあたって旗振り役となったのが、三菱マテリアル システム戦略部 ICT推進室 企画グループだ。グループ長補佐の清水かおり氏は「効率化につながる新しい技術は、適切なものを導入できるように心がけています」としたうえで、活用までに工夫した点をこのように語る。
「invoiceAgent はMMCグループ全体で利用することが決定していました。ただし、各社・各部署で対象となるファイル数やアーカイブ方法が異なるため、共通のルールをどう策定するかに時間がかかりました。そこで役立ったのがウイングアークが公開した公式のWebマニュアルです。これにより事務局側の手間が減り、共通の資料を見ながら実際に使う社員たちと会話できたので非常に助かりました」(清水氏)
今やSVFはMMCグループにとって不可欠な存在であり、デジタル帳票作成、印刷ツールとして高く評価している。一方で藤塚氏は、さらなる進化を望んでいる。
「ブラウザーで完結する帳票設計ツール『SVF Web Designer』の権限管理をミドルウエア側のエンタープライズ規模に対応させてほしい。当社のようにグループ会社が多数ある場合、個別の設定が少しやりにくい部分があります。我々の規模では本社でサーバーを構築して各社にブラウザーで利用してもらうのが理想。グローバル各社からもアクセスできるので、ぜひ実現していただきたいですね」(藤塚氏)
invoiceAgentは、2024年1月の改正電帳法完全義務化に間に合わせるために急いだこともあり、初期段階の導入を終えたもののフル活用までには至っていない。清水氏は「私たち管理者側が理解を深め、さらなる業務効率化を求めて活用していきたいと考えています」と話す。
国内外の展開を視野に入れるERPは「SAP S/4HANA Cloud」を採用しているが、 SAP標準ではない帳票以外はSVFで開発する方針で取り組んでいる。むろん、invoiceAgentに関してもグループ全体を通じた導入を想定しており、現時点で海外拠点に要望を確認しているところだ。北川氏は「ウイングアークはユーザーの要望を聞いて機能拡張してくれる利点があります。今後も法令対応で追加要件が発生することが予想されるため、継続的に利用できる基盤の提供を期待しています」と語った。
最後に菊池氏は、クラウド化と帳票のデジタル化によって生まれた相乗効果について次のように結んだ。
「当社ではクラウド上でinvoiceAgentを運用しています*。これまではデータセンターを保有する自前主義でしたが、将来的に帳票がどれだけの量になるのかが読めないリスクがありました。しかし、クラウドに転換したことでサイジングの呪縛から解放され、我々の試算では少なくとも6年間の合計でオンプレミスよりも低コストになることがわかっています。ですから、MMDXによるクラウド導入を活用できた事例でもあるのです」(菊池氏)
*三菱マテリアルのプライベートクラウド上にオンプレミスのinvoiceAgentを運用。
レガシーな基幹システムの刷新が進む昨今、MMCグループのように帳票生成・保管・配信を1つのプラットフォームで完結したいとのニーズは高まっている。“帳票DX”を目指す企業にとって、今回の事例は参考にすべきヒントになりそうだ。