続いて、「モダナイゼーションを⽀える基盤AWS - レジリエンスとイノベーション」と題し、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)の⽯倉徹氏が登壇。
AWSは、06年にサービスを開始したクラウドサービスの先駆けであり、多くの企業が利用している。石倉氏は、「AWSは現在、240を超える豊富なサービスを提供しており、お客様の要望によって日々改善しています。加えてセキュリティへの大きな投資や、第三者機関の認証取得など、安心してクラウド上で自社のサービスを展開できる体制を整えています」と説明する。
本講演のテーマであるレジリエンスについても、AWSは力を入れている。「メインフレームは『止めてはいけない』という思想で作られています。高可用なハードウェアを利用したとしても、ソフトウェア起因も含め、想定外のトラブルは起こり得ます。そこで、障害が起こることを前提に、迅速な回復を考えることが重要であり、それがレジリエンスです」(石倉氏)。

石倉 徹 氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
パートナーソリューションアーキテクト
AWSはレジリエンス向上の思想で設計されたクラウドインフラストラクチャーであり、世界各地に分散した「リージョン」と、リージョン内の複数のデータセンターを集めた「アベイラビリティゾーン」で構成される。
「各リージョンは互いに災害・障害の影響を受けないように設計され、リージョンを切り替えることで復旧が可能です。リージョン内の各アベイラビリティゾーンも、互いに災害を受けないように距離が離れていますが、通信の遅延が起こらないようにバランスを取って設計されており、マルチアベイラビリティゾーン構成を可能にしています。このバランスにこだわりを持っているのがAWSのデータセンターです」(石倉氏)
また、設備のレジリエンスだけでなく、素早い復旧のためのサービスも充実している。複数のデータベースなどを利用していると、バックアップに複雑なオペレーションが必要だが、管理を一元化できる「AWS Backup」や、データを常に複製することで短い復旧目標(RPOは秒単位、RTOは分単位)を可能にする「AWS Elastic Disaster Recovery」などを提供。これらのツールの信頼性の高さを評価し、AWSは日本の金融機関でも採用例が出てきているという。
こうしたレジリエンスなクラウド基盤の上で、AWSは生成AIをはじめとした顧客イノベーションを支援するサービスを展開。「AWSは、母体であるアマゾンが25年以上培ってきた機械学習の技術をベースに、機械学習サービスを提供してまいりました。その技術の延長線上として、昨今では生成AIのサービスも展開し、開発者用のツールとしては、『Amazon Q Developer』を展開しています」(石倉氏)。
さらに、「Amazon Q Developer」では、メインフレームの主要言語である「COBOL」からドキュメントを生成したり、ソースコードを分析したりすることでメインフレーム移行を支援するセルフサービスツールとして、「Amazon Q Developer: Transform for mainframe」を開発した。これらのツールも含め、アクセンチュアなどの技術力あるパートナーと共に企業のメインフレームモダナイゼーションを推進していくと、石倉氏は語った。
最後のセッションは、JFEシステムズの森弘之氏、AWSの清水大紀氏、アクセンチュアの西尾友善氏の3人が登壇し、「メインフレーム移行の現場から学ぶ」と題したパネルディスカッションを実施した。
鉄鋼メーカーであるJFEスチールは25年2月、西日本製鉄所(倉敷地区)のメインフレームによる基幹システムをオープン環境に移行。システム全体で5000万行にも及ぶ大規模なプログラムの移行プロジェクトは、20年からスタート。当初目標とした25年10月稼働から8カ月前倒しで完了したという。この成功の理由を、森氏は次のように語る。
「規模の大きさから、最初は社内のほとんどの人が反対でした。ですが、『人が作ったものなのだから、変換できないわけがない』というアクセンチュアの後押しを支えにして、進めることができました」

森 弘之 氏
JFEシステムズ株式会社
常務執行役員
これに対し西尾氏は、「昔のシステムをそのまま理解する必要はありません。私たちには新しいテクノロジーがあり、それを使うことで必ず解決できるという信念を持っていました」と語る。
清水氏も「5000万行の変換というプロジェクトの成功は、世界的に見ても偉業です。メインフレームを保有する日本企業にとって、勇気を与える事例だと思います」と称賛する。
COBOLで記述されたプログラムの手続きを維持したままJavaに変換するアプローチは、「JaBOL」とも言われ、Javaに移行した後のメンテナンスに課題があるという指摘も一部では挙がっている。前述したプロジェクトの企画段階で、社内の反対が多かった時期にもこの点が懸念材料の一つだったという。
だが、森氏はこの意見に疑問を呈する。「当社ではJavaを使った開発も経験しており、その場合、すべて教科書通りのコードを書くわけではありません。データベースへのアクセスやロギング(処理の記録)などについては、独自のフレームワークを作ってコードを書きます。それらとMAJALISとの違いを見ることにしました」

清水 大紀 氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
メインフレームモダナイゼーション
ビジネスデベロップメントマネージャー
森氏は自社のJava開発者に、MAJALISでCOBOLから自動変換したJavaコードと、過去に実装したJavaコードの比較を依頼。複数人に聞いたところ、「どちらも癖があるが、それは想定できる範囲に収まっている」と言われたという。MAJALISによる自動変換はCOBOLライクであるため、むしろCOBOLに精通したエンジニアにも理解しやすいメリットもあった。「これを受けて当社として、MAJALISを使った自動変換でメンテナンスも含めて進められることをJFEスチールに提案しました」(森氏)。
プロジェクトの支援に当たって、アクセンチュア側も強力なチームを編成。また目利きとしての役割から、テスト環境はAWSをフル活用することをアドバイスし、JFEシステムズはそれを採用した。
「このプロジェクトは、領域を7つのグループに分け、それぞれが段階的に移行していますが、複数のグループが重なる時期は多くのリソースが必要でした。ニーズに合わせてテスト環境を柔軟に増減できるクラウドの良さを生かしていただいたと感じています」(清水氏)

西尾 友善 氏
アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
インテリジェントソフトウェア
エンジニアリングサービスグループ
マネージング・ディレクター
移行プロジェクトの中で最も工数がかかったのが、変換したプログラムのテストだったという。ここでプロジェクトは大胆な決断をする。「変換ツールのMAJALISの精度は、ほぼ100%であることが分かっていました。そのため、今後システムが稼働して発生するエラーの原因は、ほとんどがプログラムを動かすための設定ファイルが原因と見込まれました。そうであれば、プログラム自体の動作テストは行わず、その分早く本番稼働して、設定のミスを洗い出していく方が合理的だと考えました」(森氏)。
このテスト省略の決断が、前述した工期の大幅短縮につながる。これには、JFEスチール側の理解と協力が非常に大きかったと森氏は振り返る。「工期を縮めるためなら協力を惜しまないという後ろ盾を得ることができました。基幹システム移行の成功は、『割り切り』と『覚悟』、そしてリーダーシップが重要だと実感しました」。
現在JFEシステムズでは、このシステムの5000万行のJavaプログラムの挙動を生成AIにすべて学習させ、それを基に自社のプログラム開発を自動化させる試みを進めている。成功すれば、さらに開発業務の効率化に寄与するはずだ。
テストの省略に象徴される合理的な判断は、業務の深い理解に基づいている。西尾氏は最後に「大規模な基幹システムの移行プロジェクトでは、私たちのようなパートナー企業が、クライアントの業務を知ることが非常に重要だと再認識しました」と語り、講演を締めくくった。

