クルマからモビリティへの変革には様々なアプローチがある。世界トップクラスの販売台数を誇るトヨタ自動車(以下、トヨタ)が力を入れたのが「CX(カスタマー・エクスペリエンス、顧客体験)」を軸にした変革だ。
佐々木 英彦氏
トヨタ自動車株式会社
デジタル変革推進室
CX CENTER 担当主査 担当部長
全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する直轄組織として「デジタル変革推進室」を創設し、その重点施策としてCX向上を定義した。「システム開発部署をはじめとした関係組織、関係会社のメンバーで編成した数百名体制の組織で、まずは国内のお客様のCX向上に取り組んでいます」とトヨタの佐々木 英彦氏は話す。
以前は販売店が顧客接点やマーケティングの接点だったが、Webサービスや車載機を通じてトヨタ自身も顧客と接点を持つようになった。しかし、せっかくの顧客の声を十分に活用できていない。そこで多様なチャネルの顧客情報を集約するデジタルマーケティング基盤を整備し、それをさらに発展させた「CX基盤」を2023年に整備した(図4)。このCX基盤はAWSクラウドで構築。トヨタのWeb系サービスは以前からAWSクラウドを活用していたため、その実績と信頼性を評価したという。
この基盤を軸にトヨタグループが提供するサービスの利用ID「TOYOTAアカウント」も新世代IDとして再設計し、重複していたアカウントも統合した。「行動履歴把握、満足度の算出、需要予測、機械学習による購入予測などを基に、Webやメールによるデジタルマーケティング施策を展開しています」と佐々木氏は説明する。
紙で行っていた「CS調査」も経営層の指示とデジタル変革推進室の提案により、TOYOTAアカウントを使った「NPS調査」に切り替えた。その結果を顧客満足度のグループ共通指標としている。「どのお客様接点の、どういう体験が満足度に強く影響しているかを分析し、改善施策にフィードバックします」と佐々木氏は続ける。
その指標は車両開発にも活用されている。「お客様の声を基に、車両のデザイン・機能・使い勝手の満足度を数値化し、そこに定性的な情報も加味して分析を行い、車両開発に反映する活動を始めています」と佐々木氏は話す。
ブランド評価とNPS指標を組み合わせた定量的ブランド評価も導入した。「現在のお客様の期待を要素分解し、重要度を数値化します。トヨタが考える新領域の挑戦や新サービスが、ブランドにどう影響するのかをお客様視点で確認しています」(佐々木氏)。
顧客満足度は車両購入後が最も高く、その後は徐々に下降線を辿るのが従来の一般的な傾向だ。「しかし、お客様とのつながりを維持し、継続的な価値提供を図れば、満足度やブランドの維持・向上につながる。データを中核にしたCX施策で、モビリティの進化とより良い社会づくりに貢献していきます」と佐々木氏は展望を語る。