アジャイルに進化する空調で新市場をつくる 100年企業ダイキンの新たな挑戦
ダイキンがモノからコトへの事業変革を加速
アジャイルに進化する空調で新市場をつくる 100年企業ダイキンの新たな挑戦

アジャイルに進化する空調で新市場をつくる 100年企業ダイキンの新たな挑戦アジャイルに進化する空調で新市場をつくる 100年企業ダイキンの新たな挑戦

100万台の空調機器がつながる
「DK-CONNECT」とは

 DK-CONNECTは、設備の監視や運転制御などをマルチデバイスのリモート操作で行えるサービスだ。クラウドに蓄積された運転データを分析し、運用改善などの提案も行う(図1)。  グローバルメーカーであるダイキンは、世界の主要地域に開発拠点を展開している。国や地域で異なるニーズや要件をとらえ、市場に近いところで開発するためだ。しかし、100%ニーズにマッチしたものを提供するのは難しい。多様化する顧客の課題やニーズをとらえたサービスを開発・提供するためには、データやAIの活用が欠かせない。

ダイキン工業株式会社 執行役員 滋賀製作所長 空調生産本部 副本部長(商品開発担当) 低温事業本部 商品開発推進担当部長 羽東 公一氏
 そこで同社ではDK-CONNECTの開発を決断。販売した後も、DK-CONNECTを通して空調機器の付加価値を継続的に高めていくわけだ。「モノからコトへシフトし、ソリューションとして提供することは一大ビジネスチャンスになる」と羽東氏は狙いを述べる。

 しかし、以前は核となるデータが拠点ごとに分散していた。グローバルの各拠点が個別最適で利用を進めていたからだ。データから価値や洞察を得るためには、より多くのデータを集め分析することが重要になる。多種多様なデータを集約する上でも、DK-CONNECTの構築は必須の取り組みだったのだ。

 以前からもIoT技術を駆使したシステムの実証は進めていたが、オンプレミス環境では空調機器を1万台ほど接続するとシステムが動かなくなってしまった。ダイキンが目指すのは、100万台の空調機器がつながるサービス基盤だ。クラウドを活用すれば、高い拡張性と可用性を実現できる。多様なクラウドサービスの中から、ダイキンはAWSクラウドを選択した。

AWSの高い技術力と
先進のサービス群が決め手に

 AWSクラウドを採用した理由について、羽東氏は次のように述べる。「機械メーカーである当社は、ハードウエアや組込み系の開発は得意ですが、ITやデジタルに関して高度な技術やノウハウを持っているわけではありません。その点、AWSはサーバーレスサービスや各種のマネージドサービスなど、運用を自動化する様々なサービスを提供しています。機能面だけでなく、拡張性や可用性、セキュリティーといった非機能面でも高度な仕組みがあらかじめ組み込まれています。開発者はゼロからこれら非機能要件を設計・開発する必要がなく、素早くシステム構築に着手できます」。

ダイキン工業株式会社 空調生産本部 ITソリューション開発グループ 主任技師 北村 拓也氏
ダイキン工業株式会社
空調生産本部
ITソリューション開発グループ
主任技師
北村 拓也
 多様なポートフォリオやアセットをグローバルで提供している点も大きな選定ポイントになったという。「グローバルに展開する当社の開発拠点は最寄りのリージョンからアクセスできるため、クローズドかつ遅延のない通信環境を確保できる上、各地の拠点でも現地の技術者から充実したサポートを受けられます」と羽東氏は続ける。

 またITソリューション開発グループで主任技師を務める北村 拓也氏は、AWSのサポート対応力を次のように評価する。「基盤インフラの1つにサーバーレスサービスを採用しましたが、当社にはその知見がほとんどありませんでした。サーバーレスを使う場合、どのようなアーキテクチャが最適なのか。AWSはそこからサポートしてくれました。毎週、ソリューションアーキテクトを交えた定例の打ち合わせを行い、100万台の空調機器をつなぐという私たちの大きなチャレンジにも真摯に向き合ってくれました。共に活動することで、きっといいものができる。そう確信させてくれました」。

開発文化やプロセスの変革も
AWSがサポート

 ソリューション事業の根幹となるIoTシステムを構築するためには、クラウドやICT、AIといったデジタル技術が必要不可欠だ。しかし、機器メーカーであるダイキンでは、デジタル技術をもった人材が少ない。

 開発スタイルも大きく変える必要がある。ハードの開発はしっかりと企画を練り込み、顧客の信頼を裏切らない高い品質を実現する開発プロセスや体制が求められる。しかしソリューションビジネスでは、まず最小限の機能で市場にリリースし、顧客ニーズを探索しながら素早くフィードバックする、アジャイルな開発スタイルが重要になる。そしてダイキンが目指すアジャイルは、顧客本位を徹底的に追求したものだ。「例えば、数カ月サイクルのサービスアップデートを1カ月単位に変えたとしてもまだ足りない。お客様が『こうしたい』『こんな機能が欲しい』という要望にすぐに応える。これが本当のアジャイルだと思います」と羽東氏は力を込める。

 人材不足を補い、開発プロセスやメンバーのマインドをいかに変えていくか――。このためにAWSは技術面だけに留まらず、この取り組みも幅広くサポートした。「AWSのトレーニングによって、アジャイル開発に必要なスキルやプロセスの習得、メンバーのマインドチェンジが促進されました」と北村氏は話す。この成果を生かして社内変革を進め、従来の組み込み系開発とは異なる「IoT開発プロセス」を実現した。ハードウエア、センサー、クラウド、Webなど多様な技術が求められるIoT開発を推進するため、異なる技術、チームを融合させた開発プロセスだ。

 このプロセスに基づいて、イテレーション開発を推進し、アプリケーションの開発サイクルも段階的に高速化していった。さらに2023年には、市場探索・フィードバック型の開発を行うチームがITソリューション開発グループ内に発足。「顧客ニーズを探索しながら素早くフィードバックしていく開発スタイルが確立しつつあります」と北村氏は語る。

多くの顧客がコトの価値を実感し、
市場から大きな反響

 こうした取り組みと並行して、ダイキンではソリューション事業を担う人材育成にも力を入れている。その象徴が2017年12月に開設した「ダイキン情報技術大学」だ。既存社員に加えて、希望する新入社員に対しては2年間の教育を実施するコースもあり、IoTやAIに精通したデジタル人材を育成する。既に1500名以上が卒業し、ITソリューション開発グループにも多数が配属されている。この卒業生が戦力に加わることで、コト売りを推進するソリューション事業が大きく加速し、DK-CONNECTのサービスラインナップも拡充しつつあるという(図2)。  空調機器のデータをもとに運用/管理を一元化するサービスはその1つだ。これは稼働状況の監視や省エネなどの各種設定をリモートで行うもの。あるチェーン店は多拠点で運用しているすべての空調機器を本部で一括管理し、設備管理工数が半減したという。

 空調機器のエネルギー使用量などをフロアやエリアごとに可視化するサービスもある。ある時刻を過ぎたら電気を自動で切る、気温に合わせて室内温度を最適に調整するといった設定も可能だ。2024年の9月には年間で20%の消費電力の削減を実証したダイキン独自のAI自動省エネ制御機能をリリースし、大きな反響があった。

 AWSは空調サービスのメニュー検討についても支援した。具体的には、用途別のソリューションを検討するワークショップを実施し、検討メンバーの育成に貢献したという。

ハード/ソフト一体の
ソリューション事業をさらに強化

 製品のコアとなる空調技術は同社の大きな強みであり、世界トップクラスのメーカーに成長した原動力である。これは今後も変わることはないが、機器開発側の文化が強く、ソフトウエアコンテンツは付随機能の1つという意識がまだ残っているという。ソリューション事業を成長させるためには、機器開発チームとの連携をより強化し、コト重視の開発文化への変革を加速していく必要がある。

 「顧客目線で優れたコンテンツをデザインし、ITソリューション開発グループから機器開発側に、あるべきソリューションを提案する。次第にそうしたケースも増えており、提案の質が向上しているのを実感しています」と羽東氏は手応えを述べる。

 同時にサービス開発におけるデータ活用を進め、データに基づく価値創造とその人材育成にも力を入れる。「今まで手に入らなかった市場のデータも収集できるようになり、そのデータをどのように活用するかを考える風土が醸成されつつあります」と羽東氏は続ける。

 空調を軸に建物全体をインテリジェントに制御するスマートビルの実現も目指す。「多くのプレイヤーと共創が必要になるため、DK-CONNECTのオープン化を考えていきます」と北村氏は話す。開発プロセスも現在のやり方が完成形ではない。より良いサービスの開発や生産性向上に向けて、適宜見直しを図っていくという。「AWSはデータ活用の技術やノウハウを豊富に有しています。ソリューション事業を加速する上で、データに基づく価値創造と人材育成は必須です。AWSのサポートに引き続き期待するとともに、Amazonで培われた知見を活かしたい」と羽東氏は話す。

 ダイキンは今後もDK-CONNECTを軸にソリューション事業を強化し、コト重視の新市場を創出するとともに、次世代の成長基盤をより確かなものにしていく構えだ。
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