レガシーマイグレーション実践事例
ひとまいる(旧カクヤスグループ)

この先「ビジネスがどう変わっても」
支えられる
柔軟な基幹系システム
内製で構築する

「なんでも酒やカクヤス」を展開するカクヤスをグループ会社に持つひとまいるは、基幹系システムをアマゾン ウェブ サービス(AWS)で再構築するプロジェクトを進行中だ。ビジネスの変化に素早く対応するため、マイクロサービスアーキテクチャを採用したほか、開発も内製を軸にして進めている。2025年7月の社名変更、そしてこの基幹系システムの刷新を通じて同社が目指すものとは。キーパーソンに話を聞いた。
「なんでも酒やカクヤス」を展開するカクヤスをグループ会社に持つひとまいるは、基幹系システムをアマゾン ウェブ サービス(AWS)で再構築するプロジェクトを進行中だ。ビジネスの変化に素早く対応するため、マイクロサービスアーキテクチャを採用したほか、開発も内製を軸にして進めている。2025年7月の社名変更、そしてこの基幹系システムの刷新を通じて同社が目指すものとは。キーパーソンに話を聞いた。

ビジネスモデルを転換し、
他人物配送も担う
そのためにモノリシックな
基幹系システムを刷新

株式会社ひとまいる 執行役員 システム企画開発部・システムサービス部 管掌 村山 智輝氏
株式会社ひとまいる
執行役員
システム企画開発部・システムサービス部 管掌
村山 智輝
 首都圏を中心に関西、九州に店舗を構える酒類小売チェーンストア「なんでも酒やカクヤス」。網羅的な商品の品揃えはもちろんのこと、店舗や物流センターを拠点にした独自の配送網が大きな強みだ。ビール1本からの無料配達や1時間単位の配達指定、2way型物流(配達と引き取り)など、付加価値の高いサービスを提供している。

 「酒類市場には今、大きな変化の波が訪れています。1996年にピークを迎えて以降、一人当たりの酒類消費量は減少傾向にあり、2020年代のコロナ禍がそれに拍車をかけました。この状況で持続的成長を目指すには、酒類販売中心のビジネスに次ぐ柱が必要です。そこで当社は、強みである配送サービスを前面に出した事業再編を打ち出しました」とカクヤスの親会社であるひとまいるの村山 智輝氏は説明する。

 同社の配送サービスを支えるのが独自構築のシステムである。モノを届けるだけでなく、販促・受注・決済・請求書発行・配送といった広範なプロセスをカバーする。この強みをさらに強化することで、物流を軸とした「販売プラットフォーム企業」への転換を目指している。

 「店舗で扱っていない商品も配達できるようにし、他人物配送を開始します。プラットフォームを様々な企業に提供するとともに、企業間連携も強化し、飲食店や消費者向けの商品ラインアップを拡充します。これにより、多品種を取り扱う地域特化型の物流サービスを目指すのです」と村山氏は言う(図1)。
図1ひとまいるが描く新たな物流サービスのイメージ
ひとまいるが描く新たな物流サービスのイメージ
酒類中心の配送網を拡張し、物流センターも増床・拡大することで食材メーカーをはじめとする多様な物流ニーズを取り込む。即日配送可能なクイックデリバリーの強みを生かし、物流のラストワンマイルを埋める
株式会社ひとまいる システムサービス部 部長 佐藤 慎一氏
株式会社ひとまいる
システムサービス部
部長
佐藤 慎一
 そこでボトルネックになったのが基幹系システムである。長年、オンプレミスで運用してきた現行システムは、安定稼働を続けているもののモノリシックなアーキテクチャで柔軟性に欠けていた。1つの変更がほかに影響を及ぼす可能性があるため、機能の追加や修正も簡単には行えない。「市場やビジネスの変化に迅速に対応することが難しい状況でした」と同社の佐藤 慎一氏は振り返る。

 市場環境やひとまいるのビジネスは、今後も変化する可能性がある。新しい時代を担う基幹系システムは、そのような変化を吸収できるようにしておく必要があるだろう。基幹系システムを根本から見直す必要性に迫られていた。
  • ※他社の荷物の配送を有償で請け負うこと

マルチアカウント構成と
豊富な実績が決め手に
Amazon EKSなどの
先進サービスも評価

株式会社ひとまいる システムサービス部 基幹システム移行プロジェクト リーダー 担当特命部長 石井 伸明氏
株式会社ひとまいる
システムサービス部
基幹システム移行プロジェクト リーダー
担当特命部長
石井 伸明
 そこで同社が、新たな基幹系システムの基盤に選定したのがAWSだ。基盤をクラウドへ移行するとともに、全体をマイクロサービスアーキテクチャで再構築することにした。

 「マイクロサービスを前提としたシステムを構築する上で、AWSのマルチアカウント構成が最適と判断しました。複数同時進行する開発やテストのワークロードを安全な形で分離して管理できるからです。セキュリティーやインフラ構成の管理も容易になり、変更要求にもスピーディに対応できます」と佐藤氏はAWSの採用理由について話す。

 実績が豊富なことも後押しになった。基幹系システムの移行事例が多く公開されており、それらが進め方の参考になると考えた。「また、社内にもAWSを使っている部署があり、技術的知見やスキルを持つ人材が揃えやすかったことも理由になりました」と同社の石井 伸明氏は付け加える。

 加えて、AWSが提供する多彩なサービス群も評価した。その1つがフルマネージド型のKubernetesサービス「Amazon EKS」だ。Kubernetes前提でシステムを再構築する際、管理の効率化、自動化に役立てられると考えた。

 また「Amazon Aurora Serverless」を使えば、既存データベースとの互換性を維持しつつ柔軟な拡張性を実現できる。データベース環境をクラウド化することで、コストの最適化も期待できるだろう。

ベンダー依存を脱却し、内製化を推進
クラウド化を機に、組織文化も変える

 こうして同社は基幹系システムの移行プロジェクトを2024年10月に開始した。「基盤構築・コア移行開始」「コア移行・最適化」「周辺業務移行」という3つのフェーズで進められており、全面移行は2027年秋を目指している。

 現在は既存システムの解析と基盤構築が終わり、コア移行を進行中だ。移行作業は自社開発すべき領域とSaaSを利用すべき領域を切り分けて、自社開発領域は内製で進めている。具体的には、社内データを利用するマーケティング領域、2way型物流の配達管理、マスタ管理や営業活動を支えるシステムなどを内製で開発するという。

 この開発の内製化も、ひとまいるがこだわったポイントの1つだ。理由について石井氏は次のように話す。

 「基幹系システムの刷新では、あらゆる業務プロセスを洗い出す必要があります。言い換えれば、我々自身が業務を深く理解する絶好のチャンスといえるでしょう。旧システムではベンダー依存型になってしまっており、その反省もありました。今度こそ、システムを自分たちのものにしたいという思いで、取り組みを進めています」

 内製化を支援するパートナー主体のアジャイルチームに同社のメンバーが参画し、内製開発のスキル習得を図っている。現行システムの解析やコーディングには生成AIを活用することでスキルを補うほか、正確性と効率を両立しながら作業を進めているという。このように、クラウド化を機にシステム開発にかかわる体制や文化を変えることも、このプロジェクトの重要な狙いといえるだろう。

今後も起こるであろう環境変化に
即応できる基幹系システムを実現していく

 今回のプロジェクトを通じて、同社が狙う効果をまとめたものが図2だ。
図2AWS導入によって期待される効果
図2 AWS導入によって期待される効果
システム構成の柔軟性が向上し、機能の追加・修正や新サービスの迅速な展開が可能になる。従量課金やリソースの自動スケーリングによってコスト最適化も狙えるほか、セキュリティー強化も重要なメリットだ
 まず挙げられるのはシステムの柔軟性向上である。移行後は、ニーズやビジネス要件の変化に応じた開発・修正が容易に行えるようになる。現在進行中の移行プロジェクトでも、シミュレーションしながら進められるメリットを実感しているという。「また、AWSは広く使われているクラウドサービスなので、市場には技術に精通したエンジニアやITベンダーが数多く存在します。そのため、何か問題が起こっても、解決策を容易に見い出すことができると考えています」と村山氏は言う。

 オンプレミスで保有してきた資産がクラウドサービスに変わるため、従量課金制によるコストの最適化にも期待している。自動スケーリングによって、需要の変動にもリニアに対応できるようになるはずだ。

 AWSが備える高度なセキュリティーにも期待している。マルチアカウント構成によりセキュリティーの境界も明確になるはずだ。「守るべきところを守ることで、システム全体のセキュリティーレベルを向上し、販売プラットフォームの信頼性・安定性向上につなげたい」(石井氏)。

 内製開発にシフトしたことで、AWSの最先端のインフラや技術、サービスを自ら積極的に活用できるようになる。これにより、新しいことへのチャレンジもより迅速に進められるようになるだろう。既に、AIチャットビルダー「Amazon Lex」を活用したヘルプデスク向けのAIチャットボットの開発が進められているという。

 加えて、将来的にはサードパーティのソフトウエア製品をSaaSやコンテナ型で提供する「AWS Marketplace」の活用も予定している。一般の市場価格より低額で製品・サービスを調達でき、支払いもAWSに一本化できる。CrowdStrikeやSnowflakeなど、かねて使用中の製品をMarketplaceにまとめることも視野に入れている。

 マイクロサービス化と内製開発の両輪で基幹系システムの再構築を進めるひとまいる。物流網の密度強化、取扱商品の拡大、そして展開地域の拡大を推進し、新たなビジネスモデルのもとで持続的な成長戦略を歩む構えだ。

 「『自社が物流会社になる』と思っていた当社の社員は、1年前にはほとんどいなかったと思います。しかし、このような変化は今後も起こるでしょう。その時に即応できる、場合によってはビジネスをリードできるシステムを実現することが、私たちシステムサービス部のミッションです。多彩なサービスを提供してくれるAWSは、我々にとって欠かせない伴走パートナーです。これからもプロアクティブな提案を期待しています」と石井氏は最後に語った。
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アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 URL:https://aws.amazon.com/jp/contact-us/