経営ダッシュボードの構築に加え、同社が力を入れている分野がもう1つある。生成AIの活用だ。これにより業務の自動化・省力化を加速させる。「AWSの閉鎖環境でAI基盤を構築することで、外部に学習されない・データを漏えいさせない仕組みができました。また、クラウドの特性を生かし、デバイスや場所を問わない柔軟なアクセスも実現できています」と高山氏は話す。
同社では以前より開発にローコードAI開発プラットフォーム「Dify」を採用しており、Dockerコンテナ版をAWS上に展開していた。こちらの開発運用は経営ダッシュボードの担当メンバーとは別の、当初はシステム開発未経験だった社内エンジニア2名が担当している。
このAI基盤上で「全社用AI」と「部門特化型AI」という2つのアプローチで開発を進めている(図2)。全社用AIは社内の汎用業務を支援するためのチャットボット。社内規程やシステムマニュアル、専門資料などに関する質問に応えるほか、閉鎖環境で文書の要約や翻訳、企画やアイデアの壁打ちなどを行える。
部門特化型AIは各部の業務アプリなどに組み込み、AI活用ニーズに対応している。例えば、ローコードツールで開発した業務アプリへのAIの組み込みだ。同社では、ローコード開発ツール「Pleasanter」をAWS上の自社環境内に構築している。取引先からの問合せメールの整理をAIで支援する業務アプリを構築した。
同アプリでは、メール受信をトリガーに「AWS Lambda」が「Pleasanter」へのメール本文の転記、要約の実行と書き込み、クラウドストレージへのメール本文と添付ファイルの保存を行う。利用者は対応者の割り当て、案件解決時の報告帳票の出力、AI を活用した過去案件の検索が可能となっている。
利用者からは「メールの管理の手間が減って業務負荷が大幅に軽減された」「AI要約を基に帳票をまとめる方が、ゼロから帳票にまとめるよりも確実に早い」と高く評価されている。
労働災害報告書の作成を支援するAI「安全botアプリ」は既存のAIチャット基盤「Dify」のAWSアーキテクチャを踏襲し、「Amazon Bedrock Agent」を活用して開発したもう1つの「部門特化型AI」だ(図3)。
労働災害報告書の作成の際は事故の内容とともに原因を究明して再発防止策まで報告する。この報告書を基に対策を実施するわけだが、現場担当者はPCに不慣れであることが多く、過去事例を調べるのに時間がかかる。また、全員が法令チェック能力を十分に保有しているわけではないため、チェック作業が属人化しがちである。「報告書作成に時間がかかったり、報告書の品質にバラツキがあったりと、対策実施が遅れてしまうのです」と高山氏は課題を述べる。
本アプリでは報告書作成者はExcel形式のひな形にまとめて「安全botアプリ」に送ることで、対話的に原因分析、対策検討支援を受ける。これは AIが報告書作成のほとんどを自動で行うと、人のスキルが身に付かないという現場の声を反映した仕組みだ。
ボタン1つで事前登録したプロンプトが自動で記入され、AI利用に不慣れでも使いやすい。再発防止策の作成ステップでは、マキタで過去に発生した労働災害のデータベースをAIが参照する仕組みとなっており、過去発生した類似災害とその対策を表示するプロンプトが用意されている。
「このアプリにより、多角的な分析および網羅的なリスクアセスメントが可能になりました。こうした再発防止策の質の向上と検討漏れを防止する仕組みにより、災害防止に寄与できることを期待しています」と高山氏は力を込める。「安全botアプリ」はAI開発プラットフォーム「Dify」を担当する社内エンジニア1名が1.5カ月で内製開発した(図4)。
現場の声を反映した改善にも機敏に対応している。AIが報告書作成のほとんどを自動で行うと、人のスキルが身に付かない。そこで開発担当は安全対策会議に参加し、安全botアプリの使い方を現場利用者と共に考えている。また、会議で複数人が利用するAIシステムの開発も進めているという。