【パネルディスカッション テーマパネル①】

科学的アプローチによる
アーバン・ネイチャーポジティブ

〈パネリスト〉

〈ファシリテーター〉

西武造園
取締役 経営企画部担当

清水 遠

積水ハウス
ESG経営推進本部
環境推進部 環境マネジメント室

八木 隆史

〈ファシリテーター〉

シンク・ネイチャー
代表取締役CEO

久保田 康裕

ネイチャーポジティブの実現には何が必要か。シンク・ネイチャーの久保田氏をファシリテータに、造園や建築の立場から議論していく。

アーバンネイチャーポジティブが
人々に恩恵をもたらす

久保田氏 はじめに、改めてネイチャーポジティブの概念を説明する。2020年を基準として、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、2030年に反転させ、2050年までに完全な回復を達成する世界的な社会目標のこと。
日本語にするなら自然再興となる。生物多様性が社会経済の基盤であり、SDGsのウェディングケーキモデルでは自然資本が社会経済の土台となっている。

また、都市の再開発において地域の生物多様性の特徴を生かしたマネジメントが重要であり、バイオフィリックデザイン(自然の要素を取り入れるデザイン)をネイチャーポジティブの観点から拡張する可能性を考えたい。
アーバンネイチャーポジティブは人々に恩恵をもたらす。日本の生物多様性の地図情報と小児ぜんそくの情報を重ね合わせた研究結果によれば、水辺の生物多様性が豊かな場所では小児ぜんそくの罹患率が低くなる傾向があることが分かった。
さらに、東京都をモデルにした分析では、人口密度が高いエリアで物件の半径400メートル以内の樹林面積が多いほど地価が上昇することが明らかになった。
マンションレベルでも、敷地内の緑地面積が400平方メートル以上になると価格が急激に上昇するという結果が出ている。アーバンネイチャーへの投資が経済的リターンをもたらすわけだ。

(出所:シンク・ネイチャー)

生物多様性の定性的評価は向上
課題が残る定量評価

清水氏 西武造園は「人とみどりの環境創造サービス企業」として、企画・調査から設計、造園、建設、維持管理、運営までのワンストップサービスを提供している。
過去30年間の造園業界のキーワードの変遷を振り返ってみると、1990年代は緑化義務や環境配慮設計が始まった時期、2000年代は自然再生や生態系サービスという概念が広がった時期、2019年代以降はグリーンの総合デザインや在来種の導入が進んだ時期と位置付けられる。生物多様性の定性面の評価は向上してきたが、定量化や可視化にはまだ課題が残っているとみている。

(出所:西武不動産HPより抜粋)

八木氏 2010年のCOP10当時は現場レベルでは生物多様性があまり話題にならず、積水ハウスでは「5本の樹」計画と呼ぶプロジェクトを推進していたものの、その効果を数字で示すことができなかった。 2019年に久保田氏と出会い、2021年に定量評価ができるようになったことで、顧客に対して1本1本の植物の効果を示せるようになった。

生物多様性の可視化技術
ビッグデータとAIを活用

久保田氏 気候変動対策と比較して生物多様性の測定が難しいと思われがちだが、ビッグデータとAIを活用した生物多様性の可視化技術の研究が進められている。
生物の分布やつながりに関するデータを、環境データと紐付けることで、都市の緑地における生物多様性の再生効果を測定できる。
また、開発プロジェクトなどによる生物多様性へのマイナス影響を軽減するための4段階の優先順位(ミティゲーションヒエラルキー。回避、最小化、復元、オフセットの順で対策を講じる)が重要だ。

八木氏 個人の庭という小さな単位での活動が、全国的に広がることで大きな効果をもたらす。
以前は個々の庭の効果を示すことが難しかったが、定量評価によって小さな取り組みが大きな効果につながることを顧客に示せるようになった。
都市の緑地が人々に生物多様性の豊かさを体感させる場となり、意識改革につながることも見逃せない。

庭地や不動産緑地に生物多様性の豊かさを(出所:シンク・ネイチャー)

久保田氏 小さなアクションの積み重ねがネイチャーポジティブを推進する基本的なアプローチであり、その小さなアクションのインパクトを計量することが重要だ。

清水氏 「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー」という考え方がある。目の前にあることを少しずつ実行することが大切だ。

法制度の整備と人々の意識改革で
期待できる明るい未来

久保田氏 アーバンネイチャーポジティブの未来について、どう捉えているか。

八木氏 都市では自然を完全に復元することは難しいが、限られた緑地の質を高め、人々の意識を変えていくことが重要だ。

清水氏 法制度の整備によって企業が緑を見直すきっかけになることや、定量化・可視化が制度と結びついて進化していくことに注目したい。

久保田氏 従来は自然保護と経済成長が二項対立で語られてきたが、SDGsのウェディングケーキモデルによってパラダイムシフトが起き、自然資本が社会経済の基盤であるという認識が広がった。
生物多様性の健康への寄与や、不動産価値への影響などの科学的エビデンスを整え、一般の人々に知らしめていくことが、アーバンネイチャーポジティブを推進する力となるだろう。

※所属・肩書は2025年10月29日時点のものです。

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