脱炭素の観点から、木造建築が注目を集めている。業界全体での情報共有や標準化の推進が重要である。建設会社の視点から、木造建築のいまに迫る。
課題を残しつつ増える木質建築
ライフサイクル全体で
CO2排出ゼロへ
梅森氏 2001年から2024年までの木造建築(木質建築)データをみると、右肩上がりに増加しているが、平屋・2階建てが多く、高層建築は限定的だ。用途別では学校教育、医療福祉、事務所などが多い。
一方で、シドニーとメルボルンを視察したが、19階建てのCLT(直交集成板)増築ホテルや40階建てのアトラシアンセントラルビルなど、様々な木質建築の事例がある。
木質建築の課題として、①コストとプライス、②技術開発と設計手法の標準化、③設計者の育成、④脱炭素とサーキュラーエコノミーへの貢献、⑤付加価値の見える化(特にウェルネス効果)、⑥サプライチェーンと専門工事業者の育成が挙げられる。当社は、木質建築の分類として「フルモク」(純木造)、「ホボモク」、「ナカモク」、「カオモク」、「ウエモク」、「タシモク」、「ハダモク」、「非モク」(従来型)という8つのタイプに分類し、木質建築に対する認識の相違や捉え方のばらつき解消に努めていきたい。
国内初のゼロエネルギーファクトリー(ZEF)として地域の木材産業に貢献する取り組みがある。埼玉県本庄市の沖電気工業の工場では秩父杉を使用し、伐採エリアでは行政、建築主、地域企業、大成建設の4者で植林活動を行っている。
また、埼玉県幸手市のゼロカーボンビルディング(ZCB)を紹介したい。ライフサイクル全体でのCO2排出量実質ゼロを目指す取り組みだ。木材の活用が調達施工段階でのCO2排出削減に重要な役割を果たす。さらに、木質空間のウェルネス効果について、科学データに基づく研究を進めている。
︎建築物のライフサイクルカーボンの概念図(出所:林野庁「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」/ (一財)住宅・建築SDGs推進センター・(一社)日本サステナブル建築協会「令和4年度ゼロカーボンビル(LCCO2ネットゼロ)推進会議報告書」)
ゼロカーボンとは 従来建築物/ZEBとの違い(出所:大成建設)
CO2排出量の37%が
建築分野から望まれる
木材の循環利用
小原氏 建築分野におけるCO2削減は差し迫った課題だ。なぜなら世界のCO2排出量の37%が建築分野からだからだ。木質建築は脱炭素につながると期待できるが、3階以下の住宅では木造比率が約8割であるのに対し、4階建て以上の建物ではほとんどが非木造である。従来の運用段階(オペレーショナルカーボン)だけでなく、資材製造・施工段階(エンボディドカーボン、特にアップフロントカーボン)でのCO2削減が重要になる。木造が最もCO2排出量が少なく、さらに木材がCO2を貯蔵する効果もある。日本の国土の約7割が森林で、そのうち4割が人工林であることから、木材の循環利用が日本の国土と産業のために有効である。
梅森氏 ゼネコンが手がける大規模な建物では、木だけでやり切ることは合理的でなく、鉄やコンクリートと組み合わせながら木の良さを引き出していくことが重要だ。
木造建築でのコストの捉え方
環境問題解決だけでは
正当化できない
安達氏 耐火構造の開発について、法律が前提としていない中で民間開発が先行した。石膏ボードで耐火性能を確保しつつ表面に木を見せる「木質耐火構造」がある。日本の木造建築では「木材が見える」ことが重要な要素であり、コスト調整の課題になる。また、近年では大手ゼネコンなどを中心に、木造建築を担当する専門部署の新設が多く見られるものの、設計者の経験不足や木材の取り扱いの特殊性を考えれば、対応をしている当該部署、並びに設計者に対するフォロー体制が必要となる。
梅森氏 発注者ニーズの変化という視点では、木材を使いたいという要望が増えている。なかでも発注者側に明確な理由があるほど実現しやすい。沖電気工業の事例では地域貢献という明確な目的があった。単に脱炭素やウェルビーイングという漠然とした理由では、コスト増を正当化しにくいのではないか。
求められる
木造建築ならではの価値
日本の建築産業を変える可能性
安達氏 上場企業におけるスコープ3対応の影響で木材活用が進んでいる。以前は公共建築物が中心だったが、最近は都市部の民間建築物などでの木材活用が増えた。また、地域材活用の課題として、木材の伐採から製材、加工までの時間を考慮した計画が必要だ。木材調達において、木材業者とのネットワーク構築や早期の情報共有、流通している木材と規格材の違いを理解した設計が重要さを増している。木材活用には、いくつか乗り越えなければならない壁がある。現状では一定のパイの中での置き換えに留まっており、木造建築ならではの価値を作り出して需要を創出するところまで達していない。発注者が社内説明をする際に費用対効果を示しにくい。海外では木質空間にすると賃料を高く取れるという事例がある。日本でも木造の不動産評価について、賃貸物件で木造の価値が認められる事例が出始めており、環境配慮や木材の質感に価値を見出す動きが広がっていることに希望が持てる。
梅森氏 木材活用の推進には業界での情報共有や標準化の推進が大切で、スタンダードを作ることでコストの壁を乗り越えられる。
安達氏 木造のコストは市場が決めるものだが、規模によっては木造が決して高くないことを発信すべきだ。また、日本の木材素材業者が安定供給に努力していることを評価したい。木材の良さと仕上げの質は日本人の好みに合っている。
小原氏 木造建築の特徴として、設計者、施工者、素材生産者、加工者、利用者が同じ目線で協力できる点を挙げられる。木造の普及が日本の建設産業を変える可能性があるのは確かなのだ。
※所属・肩書は2025年10月29日時点のものです。















