【基調講演】

ネイチャーポジティブ×
建築・街づくりによる
新しい価値

東北大学
グリーン未来創造機構・
大学院生命科学研究科 教授

藤田 香

サステナビリティ経営において、気候変動対策(脱炭素)、資源循環(サーキュラーエコノミー)、生物多様性保全(ネイチャーポジティブ)の3つの柱を同時に達成し、シナジー効果を生み出すことが重要である。

企業活動や人々の暮らしは自然資本に依存している。2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組では、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させるという目標(ネイチャーポジティブ)が設定された。23の行動目標があり、都市の緑化や木材活用に関連する目標として、目標12(緑地・浸水空間の確保)や目標10(農林漁業の持続的管理)などがある。特に企業にとって重要な目標として、目標3(30by30:2030年までに陸と海の30%を保全)、目標15(ビジネスの影響評価と開示)、目標8(気候変動対策)が挙げられる。

中でも注目したいのは「30by30」だ。2025年4月に施行された地域生物多様性増進法に基づき、企業が保全や再生した緑地が基準を満たせば法の下で「自然共生サイト」として認定されるようになった。企業のTNFD開示も増えており、投資家にとってはESG投資やサステナブルファイナンスの判断材料が増えた。従来の自然保護と異なり、企業や金融を巻き込む大きな動きとなっている。

日本政府は2024年に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定した。自然への負荷を最小化し、自然への貢献を最大化する経営が企業の株価向上やPBR改善につながるとした。また、気候変動対策、資源循環、生物多様性保全の3つを統合的に進めることで、2030年までに47兆円の市場規模が見込まれている。すでに多くの日本企業(180社以上)がTNFDに基づく開示を宣言しており、自治体もネイチャーポジティブ宣言を出し始めている。

先進的な取り組みを見せる企業として、東急不動産、積水ハウス、大成建設などが挙げられる。東急不動産は渋谷の緑化による生物多様性向上やヒートアイランド緩和効果、従業員の集中度向上などを定量化して開示している。積水ハウスは「5本の樹」プロジェクトで20年間にわたり住宅の庭に在来種を植える取り組みを行い、琉球大学と共同で生物多様性向上効果を科学的に証明している。大成建設は建築の施工前後でのネイチャーポジティブ効果を評価する手法を開発した。

2026年7月に熊本で「世界ネイチャーポジティブサミット」が開催される。2030年に向けて市場規模は拡大の一途をたどるだろう。

※所属・肩書は2025年10月29日時点のものです。

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