建築分野におけるCO2排出の現状と、木造・木質化によるネットゼロの可能性について紹介する。お気づきの通り、気候危機は、もはや将来の話ではなく、現在進行形の問題である。ここで注目したいのは、我々が関わっている建築分野が、社会の基盤であるのと同時に、CO2については、大きな発生源でもあることだ。環境負荷要素としての建築分野の現状を正しく把握すること。また、木造という選択肢が未来を変えていくという視点で、話を進めたい。
今後10年間で
150兆円超のGX投資
ネットゼロとは、活動によって発生する温室効果ガスを、森林の成長によるCO2吸収でプラスマイナスゼロにするという考え方だ。2015年のパリ協定で合意された「産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標を達成するためには、排出量の抑制と吸収の両方が必要であることは間違いない。日本政府の取り組みとしては、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指し、今後10年間で150兆円を超えるGX(グリーントランスフォーメーション)投資を計画している。
では、現状はどうなっているのか。世界のCO2排出量の国別割合をみると、中国、アメリカに次いで日本は5番目(2.9%)である。1人当たりのCO2排出量では世界で3番目に多い。また、日本国内の部門別CO2排出量では、産業部門が34・3%と最も多く、建築関連の排出も大きな割合を占めている。
建築分野では、建物の製造・建設・解体に伴うカーボン排出(エンボディドカーボン)が世界全体で約10%、建物使用時の排出(オペレーショナルカーボン)が約27%を占め、合計で約37%に達する。2025年4月に施行された省エネ基準適合の全面義務化や、2030年までのZEB・ZEH水準への引き上げなどの政策が重要性を増している。
建築分野における
LCC可視化が重要
ここで重要になるのがライフサイクルカーボン(LCC)の可視化だ。原材料調達から廃棄・リサイクルまで、その一生を通じて排出するCO2の量を定量的に算出し、数値として「見える化」することである。建築分野のLCCには、資材製造・施工段階のアップフロントカーボン(エンボディドカーボン)、使用段階のオペレーショナルカーボン、そして再利用段階のカーボンが含まれる。脱炭素の取り組みを数値で見える化することで、投資家や金融機関、利用者からの評価につながり、需要拡大に結びつくと考えている。
建築分野のカーボン排出量を削減するための選択肢として、中大規模・中高層木造建築を可能にすることが挙げられる。構造技術と耐火技術の2つが木造化を可能にした重要な技術である。当社は、2000年に性能規定化され、その後2006年には防火地域で2階建て店舗を実現し、2011年の老人福祉施設・2014年の文化施設の3階建てから、15年の4階建て、2016年の5階建て、2020年には7階建てまで木造で建設できるようになり、木質耐火部材の耐火性能も1時間から3時間まで向上した。
日本木造耐火建築協会による耐火技術の設計・施工マニュアルの整備が進んでいる。さらに解体設計は環境負荷の観点から注目したい。具体的には、スケルトン&インフィル設計など、将来の解体・再利用を考慮した設計をはじめ、EPD(環境製品宣言)登録による環境性能の見える化や、木材のトレーサビリティが重要になる。
中高層木造建築が
ネットゼロの鍵に
木造建築の普及によって、持続可能な循環型社会が実現すると私は考えている。特に地方での4~5階建ての中高層木造建築が当たり前になることがポイントになる。このためのサポートシステム「モクビル」の提供を開始した。公益財団法人 日本住宅・木材技術センターによる「木造建築供給支援システム認定制度」の中大規模・中高層対象として日本初の認定を受けたシステムとなる。中大規模木造建築の計画から施工後まで包括的な支援が可能で、今まで木造建築を実施したことのない事業者様でも、取り組みやすいサポートを提供する。
20年前には想像できなかった高さ100メートル規模の木造ビルが都市部では現実になりつつあるが、より実現しやすい規模感の木造建築と地域産材の利用に目を向けたい。本来木材は、地域の木材をその地域の建物に使うことで地域経済の活性化にも直結する。4~5階建ての木造建築技術があれば日本の年間着工戸数の90%をカバーできる。
木材は生産時のCO2排出量が少なく、CO2を唯一固定化する持続可能な建築素材である。森林の循環と建物の長寿命化を考えることの重要性が今後はさらに増すだろう。
※所属・肩書は2025年10月29日時点のものです。













