
デジタル技術を活用し、いかに業務効率化や省人化を推進するか。高齢化や労働者人口の減少により深刻な人手不足に直面している土木建設業界にとって、これは最も重要な課題の1つだといえるだろう。この課題の解消に向け、建設現場の生産プロセスをデジタル化して最適化する「建設現場のDX」を推進しているのがDXベンチャーであるEARTHBRAINだ。同社ではAIアプリケーションの開発を加速させるためITインフラ環境を強化。これまで利用していたクラウド環境ではなく、初めてオンプレミスのAI開発環境を構築した。その理由や狙いはどこにあるのか、またその具体的な成果や仕組みとは――同社のAI開発をリードするキーパーソンに話を聞いた。

今、日本の土木建設業界では就業者の高齢化や労働者人口の減少などを背景に、人手不足による労働生産性の低下が進んでいる。また2024年4月からは36協定を結んでいても、原則として月45時間以内、年360時間の時間外労働の上限が設けられる「働き方改革」が適用されたことで、常態化していた長時間労働の是正にも対応しなければならなくなった。
この流れは日本だけでなくグローバルでも広がると予想されることから、デジタル技術を活用して業務効率化や省人化を図り、生産性や安全性も向上させるDXの推進が喫緊の課題となっている。
そこで、土木建設業界のIoT化にも長年取り組んできた建設機械メーカーのコマツが、コンストラクション(建設)の作業全体をデジタル化する「スマートコンストラクション®」構想を拡大するため、2021年7月にNTTドコモ(※)、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所の4社共同で立ち上げたDXベンチャーが「EARTHBRAIN(アースブレーン)」だ。
※ 2022年7月にNTTドコモからNTTコミュニケーションズに株式譲渡
EARTHBRAINは、世界第2位のシェアを誇るコマツの建機と、NTTコミュニケーションズの通信技術、ソニーのセンサー技術、野村総合研究所のリサーチ・コンサルティング力を併せ持つ企業で、土木建設業界に革新を起こすハードウエア・ソフトウエア・資本力・技術力を擁する。
同社は今までオフラインで行われていた建設生産プロセス(調査・測量→設計→施行前→施行中→施行後→維持/保守)をデジタル化する「建設現場のDX」を実践することで、労働力不足を解決。グローバルレベルの土木建設業界の変革を目指している。
EARTHBRAINでAI開発チームのリーダーを務めるネクロユ・ポール氏は、スマートコンストラクション®の全体像を次のように説明する。
「我々のソリューションのベースとなるのが、土木建設現場の地形、機械、労務、材料などを最新のIoT/AI技術などを使ってデジタル化し、安全性や環境も含めて見える化・最適化を図った上で現場に戻していくデジタルツインのプラットフォームです。現場を遠隔地からリアルタイムでモニターしたり、分析・改善したりできるデバイスやアプリケーションの開発を加速させることで、スマートでクリーンな未来の現場を創造していきます」(図1)
EARTHBRAINはクラウド上にデジタル化された施工条件を入力することで、最適な土配計画や施工手順、建設機械の稼働率を算出。現場のデジタルツイン上で精度の高い施工計画を短時間で実現するサービスを提供している
株式会社EARTHBRAIN
ネットワーク&データ
ソリューション開発G
シニアエンジニア
ネクロユ ポール氏
例えば、ドローンで撮影した写真をもとに高速処理で3次元地形データを生成するサービス「Smart Construction Edge」はその1つ。これを使えば、広大な建設現場の状況を自動飛行するドローンで撮影した写真をもとに簡単に3次元地形データを生成できる。ドローンで撮影した写真はAIを搭載した本サービス専用端末で高速に処理され、現場の建物や建設機械、人など、不要な物体を自動で除去した3次元地形データが生成される。本サービスを利用することで、最も手間がかかる標定点設置/計測と回収作業が不要になり、これまでのドローン測量業務の作業工程が最大40%も削減できるという。
「AIは現場の工事で削った土をどこからどこへ移動させるかといった土量配分において、建設機械やダンプトラックの最適な台数を算出するサービス「Smart Construction Simulation」にも使われています。デジタルツインのベースとなる点群の生成や認識、現場の安全支援活動向けの生成AIなど、幅広いシーンでAI機能の開発を進めているのが当社の特徴です」(ネクロユ氏)(図2)
多くの国で人口が減少していく中、人々が生きていくためのインフラをいかに効率的につくっていくかは世界共通の課題だ。そこでEARTHBRAINのAIエンジニアは幅広いAI機能の開発に取り組み、土木業界のDX化を推進している
LLM(大規模言語モデル)を使った生成AI基盤の開発にも力を入れている。例えば、スマートコンストラクション®のカスタマーサポートセンターには日々国内外の現場などから多くの問い合わせが寄せられる。その回答を迅速化するため、チャットボットを選択した顧客には自ら膨大なマニュアルの中から必要とする情報にスピーディーにアクセスできるように生成AIの活用を進めている。
EARTHBRAINは「全ては顧客への価値創造から(Customer Centric)」をコアバリューに掲げ、顧客と共にオープンなプラットフォームを開発し、顧客現場の課題を解決することを最大のミッションとしている。そのためソフトウエアやハードウエアの開発に携わるエンジニアには、スタートアップやメガベンチャー、海外など多方面から多種多様なバックグラウンドを持ったメンバーが集まり、コマツのグローバルなネットワークを生かしつつ、ベンチャーらしいスピード感ある意思決定で高速のPDCAを回す文化が存在している。
「我々は土木建設業界の課題解決に向け、お客様と伴走する形でカスタマージャーニーを描き、ソフトウエアとハードウエアの両方のソリューションを開発してきました。その一部は、既に世界20カ国以上で利用されています。また、失敗することで学ぶ姿勢があり、失敗を受け入れる文化も特徴的です。アジャイルな開発を推進し、初めから日本視点ではなく、グローバル視点で業界の変革にチャレンジすることができます」とネクロユ氏は話す。

AIアプリケーションの開発を加速させるため、同社はITインフラの環境整備も強化した。これまでEARTHBRAINではAI開発環境をAWSなどのクラウドサービスで調達していたが、2024年に初めてオンプレミスのAI開発環境を構築したのである。
技術進化の激しいAI開発では、初期投資を抑えられ、迅速に導入できるクラウドサービスの利用が一般的だ。だがEARTHBRAINでは開発規模が大きくなるにつれ、大きな課題に直面していたという。
「1つは、提供されるモデルやツールの範囲内でしかカスタマイズができないことです。独自のデータや仕様に基づいて生成AIを最適化するためには、自社のニーズに合わせたカスタマイズ可能な環境が必要でした。またクラウドサービスでは、データが外部サーバーにアップロードされるため、セキュリティーリスクが高まります。こうしたリスク管理もプロバイダーが提供するツールで行わなければいけないので、マネジメントが難しいと感じていました」とネクロユ氏は話す。
さらに大きな課題となっていたのがAI向けインスタンスの奪い合いだったという。
「ハイスペックなGPUのリソースは簡単には使えない状況となっており、必要なリソースを探すのに何日も時間を費やすケースが増えてきました。そうなるとリザーブドインスタンスを契約しなければなりませんが、そのコストが想像以上にかさんできます。しかもプロジェクトに合わないスペックのリソースしか使えない場合は、すべてがムダになることも起こり得ます」(ネクロユ氏)
これらの課題は現場のエンジニアにもストレスを与えることになる。時間単位の従量制で開発環境を使っていると、コストコンシャスでどうしても自由なトライアル&エラーを躊躇するようになってしまうからだ。
「AI開発では、開発スピードを上げながらコストを気にせず開発に集中できる環境が重要です。エンジニアの自由な発想を最大限に生かすためにも、高性能でオンプレミスなAI開発環境が必要だったのです」とネクロユ氏は振り返る。

同社では新しいAI開発環境の構築に向け複数のGPU搭載サーバーを比較・検討。その結果、デル・テクノロジーズの「PowerEdge R760xa」を選定した。同モデルは「NVIDIA® H100 NVL Tensor コアGPU」(以下、H100)を4基搭載可能な空冷式のラックサーバーで、GPUワークロードに最適化され優れたパワーと拡張性を持つ。
「まず重視したのは将来的な拡張性です。我々はGPUサーバーをデータセンターで運用していきますが、今後エンジニアが増えるにつれてサーバーを拡張する際、同じラックスペースの中でサーバーを増やせるのは非常に魅力的でした。これはコスト面でも有利です。また、時間や場所にとらわれることなくサーバーの更新・モニタリングを行うことができるリモート管理ツールのiDRAC(アイドラック)も評価しました。これに加え、GPUの安定調達の面でもデル・テクノロジーズはNVIDIAと緊密なパートナーシップを築いている点も心強く感じました」とネクロユ氏はその選定理由を語る。
導入検討する際の親身なサポートも、デル・テクノロジーズへの大きな信頼感につながったという。
「オンプレミスでのGPUサーバー導入は当社にとって初めてでしたので、分からないことがたくさんありました。どのようなファシリティのデータセンターを選べばよいのか、ネットワークをどう引くか、電源は何を選べばいいか、狙っていたH100の確保も含めてデル・テクノロジーズにいろいろ相談したのですが、親身になって貴重なアドバイスをたくさんいただきました」(ネクロユ氏)
採用決定からシステム導入までのスピードも早かった。2024年9月に正式な発注を行った後、約2カ月でデータセンターへPowerEdgeサーバーが納品され、12月の初旬にカットオーバーを果たしたのである。
「導入までのスピードが早くて驚きました。我々は2025年1月ごろにはなんとか稼働できるかなと考えていたのですが、デル・テクノロジーズが大幅に前倒しのスケジュールを組んでくださり、本当に助かりました」とネクロユ氏は笑顔を見せる。

GPUを搭載したPowerEdgeサーバーの導入によって、様々なメリットが生まれる。その1つがAI開発のさらなるスピードアップだ。
「クラウドサービスで使っていた開発環境と比べて、H100を使えば数倍の計算パワーが出ます。またGPUサーバーを使いたい時に使える環境が用意されたことでエンジニアたちのモチベーションもアップしました。クラウドではインスタンスを立て、そこにデータを揃えてといったようなセットアップに時間がかかりますが、オンプレミスならその時間が短縮できるので開発スピードは想像以上に早くなるでしょう。同じ開発環境を利用することでエンジニア同士の情報交換も深まり、コミュニケーションが活発化していく効果も期待しています」とネクロユ氏は語る。
コスト低減効果も高い。同社によれば、従来のクラウドサービスのコスト1年分で、今回導入したGPUサーバーが数台購入できる試算が出ているという。
またこうした環境整備は、同社のAI人材が高いモチベーションを持って働く誘因にもなる。 「EARTHBRAINはグローバルに広がる土木建設現場という大きなフィールドの中で、個々のエンジニアが自由にアイデアやプロダクトを創造していける会社でありたいと考えています。AIの適用分野も自分たちでいろいろ探しながら開発、提案できるので、ぜひ我々と一緒にスマートでクリーンな未来の現場をクリエイトしていただきたいですね」とネクロユ氏は期待を寄せる。
EARTHBRAINの積極果敢な挑戦を、デル・テクノロジーズはこれからも力強くサポートしていく考えだ。
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