生成AIよりも高度に業務の効率化や自動化を実現させる手段として、「AIエージェント」がにわかに注目を集めるようになった。この最新技術を取り入れるとビジネスや業務はどう変わるのか。そのヒントを提示すべく、デル・テクノロジーズは、AIエージェントに関する最新の動向や活用事例を紹介するセミナーを開催。イベントには1200人以上が参加した。ここではイベントをもとに、業務への適用を検討する企業がAIエージェントをスムーズに開発・運用するための方法を考えてみたい。
AIエージェントに適した業務とは
株式会社GenesisAI
代表取締役社長/CEO
北陸先端科学技術大学院大学 客員教授
今井 翔太氏
生成AI(人工知能)「ChatGPT」が公開されてから3年。技術進化の速度は凄まじく、生成AIの進化系であるAIエージェントが注目を集めるようになった。同じAI技術である両者の違いはどこにあるのか。GenesisAIの代表でAI研究者でもある今井 翔太氏は、「言語モデルをベースに、AIが問題解決のために必要な行動を決定し、それに必要なツールを選択、実行して目的を達成する手法」とAIエージェントを定義する。
株式会社GenesisAI
代表取締役社長/CEO
北陸先端科学技術大学院大学 客員教授
今井 翔太氏
生成AIは学習した範囲内の知識でしか質問に答えられず、一定以上の複雑な作業はこなせない。これに対してAIエージェントは学習済みの限定的な知識だけに頼らず、必要に応じて自らWebサイトを検索する。与えられた指示を達成するためにどんなツールを使って何をすべきかを自ら判断することで、複雑な業務をアシストしてくれるわけだ。
これまでの進化のペースから推して、AIエージェントは数年後には人が1カ月かけて達成するような複雑な作業を短時間で遂行できるようになり、社内事務や経営業務の大半が自動化されるようになるとの予測もあるという。
だからといって、現在人が行っている業務を、片端からAIエージェントに任せればよいというわけではない。重要なのは、「AIエージェントがそのタスクをこなせるかどうか」だけで判断しないことだと今井氏は指摘する。「例えば『調達』や『旅行手配』などは金銭の支払いが伴うため、誤りがあった際に厄介なリスクが生じます。それに対して『ソフトウエア開発』『研究』『調査』などは、タスク完了後の確認や修正がしやすいことから、AIエージェントに行わせるのに適していると考えられます」(今井氏)。
まだ歴史の浅いAIエージェントが実際にいかなる業務に向くのかは、現時点では明言できない。それだけに活用に踏み切るにはある種の勇気を要する反面、どんな分野でもうまく使いこなすことができれば、その領域における活用のトップランナーになれる可能性がある。「変革期にある今だからこそ、この新しい技術を用いて飛躍するチャンスがどの企業にも大きく広がっているはずです」と、今井氏はAIエージェントを積極的に業務に取り入れようとする企業にエールを送る。
“人と共進化するバディ”にして業務プロセスを変革
既にAIエージェントを使って業務プロセスを大きく変革しようとしている企業もある。コンサルティングファームのアクセンチュアだ。同社はこれまで構築してきた生成AIの社内基盤を、AIエージェント活用にも応用し始めた。
「私たちは今、国内の全社員約2万7000人が、AIとタッグを組みながら生産性高く業務に打ち込めるようにするプラットフォームの構築に注力しています」とアクセンチュアの山根 圭輔氏は語る。
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
チーフ・テクノロジー・アーキテクト
シニア・マネジング・ディレクター 執行役員
山根 圭輔氏
プラットフォーム上には、簡易なAIアプリケーションをノーコードでつくるための機能を用意。エンジニアではない社員が、プレゼン資料の骨子作成ツールなどのアプリを手軽に作成できる環境を整えている。
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
チーフ・テクノロジー・アーキテクト
シニア・マネジング・ディレクター 執行役員
山根 圭輔氏
内製された様々な業務アプリのうち、内部審査を通過したものは「Peer Worker Platform」と名付けた場で社内に公開。2023年に取り組みを開始してから3300以上のアプリが作成され、その1割ほどが社員に共有されてきた。
「戦略コンサルタントやマーケティングなどの非エンジニアが、業務現場に根差した発想でアプリをカジュアルにつくり、それを社内でシェアすることに大きな意義があります」と山根氏は語る。
アプリの一例に、新人がコンピュータプログラミングを初歩から理解するための研修をサポートする「AIエージェントコーチ」がある。これは熟練プログラマーに匹敵するナレッジを持つAIエージェントが講師役を務めるもので、人から講義を受けるより受講者の理解度が高いそうだ。「AIのコーチには分からないところを気兼ねなく質問できることが功を奏しているのでしょう」と山根氏は推測する。
アクセンチュアはほかに「ピアワーカープラットフォーム(PWP)バディ」というAIエージェントも用意し、一部社員は先行して利用している。ロールプレイやディスカッションのパートナー、コーチやアドバイザー、ほかの社員との間を取り持つコミュニケーションハブなど、多様な役割を果たさせている。
「AIは人の業務を代行するだけのロボットではありません。私たちはAIエージェントを“人と共進化するバディ”と位置付けています」と山根氏。その先に見据えているのは、顧客に提供するコンサルティングのデリバリープロセスに「AIX」(AIトランスフォーメーション)を起こすことだという。
技術・コスト・セキュリティの課題をどう克服するか
デル・テクノロジーズ株式会社
マーケティング統括本部
シニアアドバイザー
若松 信康氏
今後のビジネスにおけるAI活用は、高度な自律性と問題解決能力を持つAIエージェントが主軸になることは疑いない。しかし各企業が活用に乗り出すにあたっては、越えるべきいくつかのハードルが存在する。
デル・テクノロジーズ株式会社
マーケティング統括本部
シニアアドバイザー
若松 信康氏
その1つは、組織全体の連携・協調体制をつくることだ。取り組む内容によって大きな差があるが、AIエージェントへの投資には一定のコストがかかる。利活用をトップダウンで推進する企業でなければ、経営層や各業務部門のマネージャーに対し、それがどう売り上げにつながるかを納得させなければならない。
「そこで重要になるのが、経営戦略や事業部門のKPIにつながるステップをロードマップとして策定して示すことです」と話すのは、デル・テクノロジーズの若松 信康氏だ。
「AIエージェントのユースケースには、定型業務の自動化から業務フロー全体の効率化、事業構造の変革や戦略的差別化による競争優位性の確立まで様々あります。単一業務の効率化をゴールにすると活用は広がりません。その成果をどう拡大していくのか、その次の活用段階につなげるためのステップとして、計画して取り組むことが重要です(図1)」
経営戦略と整合性のとれた事業部門におけるユースケースカタログの作成や、それらに柔軟に対応できるプラットフォーム、データ、インフラ、セキュリティの設計が重要となるが、そのための技術スキルや投資判断がネックになり、活用をスタートすることすらできない企業も多い
これについて若松氏は、次のように語る。「プログラミング知識や専門のスキルがなくても、ノーコードでAIエージェントを開発する手段の選択肢が増えています」。
業務を自動化するためのAIエージェントを比較的簡単に開発できるツールの1つに、Microsoftが提供する「Microsoft Copilot Studio」がある。コードではなくGUIで、さらに会話形式で設定し、Microsoft 365環境のアプリやツール、データを簡単に活用できることが魅力だが、Microsoft 365を使用していない企業やクラウドへのデータのアップロードが許可されない企業では導入のハードルが高い。そのような企業に適した、ローカル環境でセキュアにAIエージェントを開発する手立てもあるという。
今あるPCを使ったスモールスタートも可能
ノーコードでローコスト、しかもセキュリティを担保しながらAIアプリを開発・運用できるツールとして若松氏が推奨するのが、オープンソースプラットフォームの「Dify(ディファイ)」だ。その特長は軽量なこと。これまで使ってきたPC上で十分に使用することができるという。とはいえ、OpenAIなどのモデルプロバイダーのLLM(公開されているオープンウェイトモデル)をAPIで利用するコストは発生する。
APIのコストの捻出も難しい、セキュリティ上クラウドは利用できない、といった場合でも、ローカルPC上にLLMを展開してDifyと連携・活用すれば、クラウドにデータをアップロードすることなく、APIコストもかけずに、AIエージェントを開発することができる。
「とはいえ、より精度の高い(パラメーター数の大きい)モデルを活用しようとしたときに、PCのスペック、特にメモリがボトルネックとなって応答が遅くなります。精度の高いローカルLLMを快適に動かすには、GPU+VRAM(仮想メモリ)が重要になります」と若松氏は指摘する。
そうしたニーズに応えるため、デル・テクノロジーズはNVIDIAのGPUを搭載した、数千億パラメーター規模のローカルLLMに対応したPCを近くリリースする予定だという(図2)。
情報セキュリティに配慮し安全な環境でAIエージェントを開発するには、LLMモデルをローカルで使う必要がある。2025年夏に販売開始予定の「Dell Pro Max」シリーズは、圧倒的なパフォーマンスで快適な開発作業を支援する
ただし、単一業務の自動化に使用する場合は、小さいモデルでも十分に活用できるケースもある。「数十億パラメーター程度のモデルなら通常業務に用いるPCでも扱えるため、追加コストをかけずに、まずは手元にあるPCでAIエージェントを開発し、パフォーマンスや回答精度と成果見込みを踏まえ、投資を検討していくこともできます。まずは今のローカルのデバイス環境で追加投資なくAIエージェント開発をスタートできることを知っていただきたい」と若松氏は言う。
業務アプリの作成をハンズオンで体験
セミナーの最後では、参加者がAIエージェントの開発プロセスを実際に体験できるハンズオンの場も設けられ、AIエージェントを開発できるローコードプラットフォームDifyを用いた、自社のサービスを顧客に案内する営業メールを自動的に生成するAIエージェントの作成が行われた。
この仕組みを使えば、AIエージェントに企業名を入力すれば、送付先企業の戦略や課題をWebで検索し、それに応じた自社商材を自社のナレッジベースから検索し、それらを合わせた営業メールを作成し、配信することもできる。営業活動の効率化に大いに役立ち、しかもその作成手順は至ってシンプルだ。
まず自分の会社名と氏名/相手先の会社名と担当者名を入力し、相手先の戦略や現在抱えている課題を調査させるためのツールを設定(ここでは「Google Search」)する。次に相手先に応じて提案すべきサービスを検索させる場所を指定(ここでは「dell.com」)し、どんな観点でメールを作成してほしいかを指示するプロンプトを自然言語で入力。「営業メールを作成して」とチャットボットで指示を与えると、要点を的確に押さえたメールがスムーズに作成された(図3)。
営業メール作成エージェントの開発をハンズオンで体験。わずかな手順を踏むだけで、個々の顧客の状況やニーズに応じた営業メールを瞬時に作成してくれるエージェントが完成した
Difyを使ったハンズオンではさらに、社内問い合わせに自動回答するチャットフローを、外部LLMを用いない場合と、外部LLMを用いる場合に分けて解説。また、オフィシャルの会社ブログ記事をAIエージェントにつくらせ、公開前に社員にレビューさせるワークフローの構築も体験した。
さらにMicrosoft Copilot Studioを利用した、出張申請受付チャットボットの作成も実践。若松氏にならって自ら手を動かした参加者は、AIエージェントの内製がけっして難しいものではないことを肌で感じた様子だった。
インフラ整備から人材育成まで総合的に支援
これからAIエージェントの活用に本腰を入れて臨もうとする企業のために、デル・テクノロジーズは様々な支援策を用意している。その1つが、各社のロードマップに沿って必要なリソースを最適なかたちでパッケージ化して提供する「The Dell AI Factory」だ。デル・テクノロジーズでは過去の豊富な導入実績から、開発したいユースケースに適したAIインフラをテンプレート化しており、それに基づいて顧客ごとにカスタマイズ。最低限のコストでインフラ構築をサポートするという。
データ、インフラストラクチャ、オープンなエコシステムなどを統合した、AIの導入と活用を支援する包括的なプラットフォーム。必要な機能やサービスはユーザー企業ごとに自由度高く設計できる
「実際の業務にAIエージェントを適用させるには、十分な質と量のデータを取得し、必要に応じて使えるようにするためのツールやアプリケーションも不可欠で、そのような環境を自社で整えるには、手間もコストもかかります。インフラはオンプレミスだけではなくマルチクラウド環境への拡張性も用意しており、スモールスタートして柔軟に拡張することができます」と若松氏はその特長を説明する。
加えてデル・テクノロジーズは、AI活用のけん引役を育成するための「AI人財育成プログラム」も無償で提供。現在、基礎から応用まで段階的に学習できる月例の「生成AIビジネス活用セミナー」、実践的なAIプログラミングスキルを習得できる「生成AIエンジニア養成講座」、Microsoft 365 Copilotの操作の基礎から応用まで学べる「Microsoft 365 Copilotハンズオン講座」が実施され、「生成AIビジネス活用セミナー」にはこれまで約5000人が参加するなど大きな反響を得ている。Difyを使ってAIアプリを作成するための「AIエージェントノーコード開発講座」も新たにスタートしている。
また、東京・大手町のデル・テクノロジーズ本社オフィスに「AI Innovation Lab」を開設し、ユーザー企業がAI、エッジ、マルチクラウド、データマネジメントなどにおけるイノベーションを促進するための共創と学びの場としている。
「変革を目指す企業にとって何よりも重要なのは、“最初の一歩”を踏み出すことです。業務効率化・自動化に向けゼロベースで進めるのは難易度が高いため、既存の生成AI活用上の課題を改善するところから始めてAIエージェントの活用方法を見定め、ユースケースに落とし込むといったアプローチも有効で、私たちはそうしたフェーズから全力でご支援しますので、ぜひお気軽にご相談ください」と、若松氏はAIエージェントの活用に挑もうとする企業にメッセージを送った。
