国内初のゼロエミッション・データセンター

「ZED石狩」の挑戦

~再エネと生成AIが融合する次世代拠点に~

DXや生成AIの普及を背景に、データセンター運営の再生可能エネルギー化が急務となっている。そこで京セラコミュニケーションシステムは、北海道石狩市に国内初となる再エネ100%で運営する「ゼロエミッション・データセンター 石狩(ZED石狩)」を開所。デル・テクノロジーズと共にNVIDIA AI Enterpriseによる「生成AIサービス開発基盤」の導入を進めている。ZED石狩の全容と生成AIサービスを提供する狙い、今後の展望などをKCCSのキーマンに聞いた。

国内初となる常時再エネ100%のデータセンター

再生可能エネルギー化(以下、再エネ)を100%活用し、CO2排出量を実質ゼロにする国内初のデータセンター「ゼロエミッション・データセンター 石狩(以下、ZED石狩)」が2024年10月に開所した。ZED石狩は津波、液状化などのリスクが低いエリアに立地しており、南海トラフなどの大規模地震による影響を受けにくい。事業継続やBCPの強化に適したデータセンターだ。

※KCCS独自調べ

ZED石狩は、地域で発電された風力・太陽光などのクリーンエネルギーを活用し、100%再生可能エネルギーでの稼働を実現する

その運営を担う京セラコミュニケーションシステム(以下、KCCS)は、1995年に京セラの経営情報システム部門が分離・独立した企業。現在は「ICT」「エンジニアリング(通信・環境)」の事業を展開している。

同社では、早くからデータセンター事業に取り組むとともに、近年はAIや再エネを注力技術と位置付け、顧客の持続的成長やSDGsの実現を通して、人類、社会の進歩発展に貢献することを大きなビジョンに掲げてきた。その一環として2019年から取り組んできたのがZED石狩の開所だったという。

京セラコミュニケーションシステム株式会社
ICT事業本部
デジタルソリューション事業部長
丸山 陽平氏

「当社では、お客様が安心して利用できる堅牢なITインフラを構築するとともに、AI活用による業務効率化の支援を行っています。事業活動における環境負荷の低減にも注力しており、脱炭素型のデータセンターサービスを通じて、お客様のサステナビリティ経営をサポートすることがZED石狩を開所した大きな狙いです」と、同社の丸山 陽平氏は語る。

企業を中心とした生成AI活用が一気に普及してきたことで、大量のGPUサーバーを稼働させるデータセンターの電力消費量も右肩上がりの傾向にある。企業や組織の事業活動を担うデータセンターには、これまで以上の脱炭素化、グリーン化が強く求められている。

そうした社会的課題に対し、ZED石狩では石狩湾新港洋上風力発電所の電力と、データセンターの近隣に新設した同社所有の太陽光発電所の電力を組み合わせ、すべてを「24/7カーボンフリー電力」でデータセンターを運用している。

ZED石狩では石狩湾新港洋上風力発電所の電力と、近隣に新設した同社所有の太陽光発電所の電力を組み合わせ、すべてを「24/7カーボンフリー電力」で運用している

京セラコミュニケーションシステム株式会社
デジタルソリューション事業部
副事業部長
兼 ゼロエミッション・データセンター部長
尾方 哲氏

「ZED石狩では、データセンターと再エネの同時開発という国内初の試みにチャレンジしました。そこにはICTだけではなく、データセンターファシリティや環境エネルギーエンジニアリングにも精通した当社のノウハウが随所に生かされています」と丸山氏。年間を通して冷涼な外気が確保できる石狩市の気候を生かした間接外気冷房空調方式、建築一体エアフロー、給電効率の高い三相4線式による配電の省エネ化などはその一例だ。これに加え、JDCCティア4相当のファシリティを備え、高いスキルを持った運用者が24時間365日常駐しているという。

こうした特長が注目され、開所して間もないものの、多くの問い合わせがあるという。「サステナブルで持続可能なIT基盤となるZED石狩は、グリーン調達を前提とされているお客様、生成AI活用を加速させたいお客様などに最適なデータセンターになると考えています。同時に、データを国内分散しながら安全に保管したい、機密性の高いデータを保管場所が特定できないクラウドではなく、国内のデータセンターで管理したいニーズにもお応えできます」と同社の尾方 哲氏は説明する。

製造業向けAIモデルの開発を視野に

KCCSはZED石狩の付加価値を高めるべく、今後様々なサービスを提供していく予定だ。その一環として進めているのがNVIDIA AI Enterpriseをプラットフォームとする「生成AIサービス開発基盤」の導入である。

その狙いを丸山氏は次のように説明する。「生成AIに対する需要が広がっていく中、私たちは数年前からお客様に対して新たなサービスを提供できないかと考えてきました。とはいえ、汎用的に使えるAIサービスでは独自色を発揮できない。ならば、KCCSが強みを持つ製造業のお客様向けに、実運用データを利用して効果的な業務改善を行ったり、容易に技術伝承が行えるような生成AIモデルをつくったりできないかと考えたのです。ZED石狩は再エネ100%のデータセンターでGPUサーバーの稼働に最適な環境を持っています。そこに最新の生成AI開発基盤を導入してAIモデルの試作や検証を行えば、GPUインフラに関する経験値やノウハウも向上できると考えました」。

AIモデルの開発自体は既存のマルチクラウド上で行うこともできる。だが、準備から運用まで多くの工程があり、費用対効果が見合わないリスクがある。それに対し、オンプレミスでGPUサーバーを導入した自社開発環境なら、社内の幅広いエンジニアがコストやリソースの待ち時間を意識することなくチャレンジングな開発が行える。また将来的に提供される生成AIサービスは、個々の顧客向けのプライベートなGPU基盤がベースとなるため運用ノウハウの蓄積も必須になる――こう考えたわけだ。

オールインワンでAI環境を提供できるデル・テクノロジーズを選択

生成AIサービス開発基盤向けのハードウエア選定については、大きく3つの要件があった。1つは、AI向けに最適化されたNVIDIA AI Enterpriseの検証済み設計をサポートしていること。2つ目は、品質が高く運用管理性に優れた製品であること。3つ目は、製品供給/保守・サポート体制が充実していることである。

このすべての要件にマッチしたのがデル・テクノロジーズだった。「デル・テクノロジーズはNVIDIAとの密接な連携のもと、エンタープライズAIソリューション“Dell AI Factory with NVIDIA”を提供されており、GPUサーバー、ストレージ、ネットワーク、ソフトウエアも含めた1社完結のサービス基盤がスピーディーに構築できます。また長年使っているPowerEdgeサーバーの安定稼働実績や障害対応・監視といった保守・サポート面での安心感もあり、パートナーに選定しました」と尾方氏は話す。

KCCSとデル・テクノロジーズは、NVIDIA H200を8基搭載するPowerEdge XE9680サーバーを中心に、Dell PowerScale F710ストレージ、Dell PowerSwitchデータ・センター・スイッチなど、NVIDIA AI Enterpriseに最適化された検証済みの環境で生成AIサービス開発基盤を構築した。

京セラコミュニケーションシステム株式会社
デジタルソリューション事業部
ゼロエミッション・データセンター
副部長
高田 直幸氏

「業務特化型のAI基盤モデルを提供していくためには、最大級の学習量やワークロードを想定した環境を用意しなければなりません。そのためNVIDIA H200のスペックを最大限に生かせるPowerEdge XE9680を選択しました。システム導入の際も、デル・テクノロジーズのProDeployサービスにより、ラックへの設置検証や冷却装置との連携などが非常にスムーズに行えました」と同社の高田 直幸氏は振り返る。

生成AIサービス開発基盤ではリソース管理とジョブ管理を効率化するため、NVIDIA Base Command Managerで管理したGPUインフラを、Slurm Workload Managerの柔軟なジョブスケジューリング機能を通じてユーザーが効率的に利用できるよう工夫されている。

「GPUの計算能力を最大限に引き出すため、RoCEによるGPU間の高速なデータ転送も実現していきます。各ユーザーが互いの環境に影響を与えることなく、独立してGPU検証環境が利用できるようにするためです」と丸山氏は説明する。

GPUインフラについては国内でも事例が少なく、各社ごとに閉じられた技術ノウハウになっているのが現状だ。しかし今回の生成AIサービス開発基盤では、ハードウエアだけではなくNVIDIA AI Enterpriseの保守も含め、デル・テクノロジーズのトータルサポートが利用できる。このため、「日進月歩のNVIDIAインフラにおいて、デル・テクノロジーズさんと共同でシステム開発や拡張を行えることは、CAPEXだけでなくOPEXの削減効果も期待できます」と丸山氏は話す。

今後の基盤運用フェーズで期待されているのが、リモート管理機能「iDRAC」と、データセンター運用効率化ツール「OpenManage」だ。

「iDRACはサーバーの監視・管理で長年慣れ親しんだツールなので、GPUの発熱量を常に監視していかなければならない今回の基盤を、同じ操作性で遠隔監視できるのは非常に助かります。またOpenManageを使うことで、GPUインフラ全体のシステム管理をさらに軽減できるでしょう」(丸山氏)

2025年11月に予定している本格稼働を果たした後は、マルチクラウドやデータセンターに分散している既存のAI開発環境をZED石狩の生成AIサービス開発基盤に集約し、開発スピードとコストメリットを最大化していく予定だ。

顧客の脱炭素化やブランドイメージの強化に貢献

NVIDIA AI Enterpriseを活用した生成AIサービス開発基盤により、これからKCCSは顧客にどのような価値を提供していくのだろうか。

丸山氏は「自社で最先端のAI開発基盤を持つことができたという意味で、エンジニアは今まで以上に自由度が高く、様々な挑戦ができるようになると思います。それをお客様の価値創出に役立つソリューションとして提供できるスピードもさらに加速していくでしょう」と語る。

続けて、高田氏も「AI活用の拡大は、発熱量の高いGPUサーバーによる消費電力の拡大も意味します。それに対して我々は再エネ100%のZED石狩を拠点に、グリーンなAI開発を積極的に展開できる強みがあります。お客様の脱炭素化やブランドイメージの強化に貢献できる価値も含めて、積極的にアピールしていきたいですね」と話す。

将来的にKCCSは、AI開発やハウジングだけではなく、GPUプライベートクラウドなどの分野へもZED石狩のサービス領域を拡大していく考えだ。

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