美容業界のDXを加速するMASSホールディングス

AI基盤をオンプレミスで構築し

新サービス創出へ

美容業界のトップディーラーであるMASSホールディングスは、AI活用による業務革新を本格化させている。NVIDIA H100 GPUを4基搭載したDell PowerEdgeサーバーをオンプレミスで導入し、クラウドの約5分の1のコストで高性能なAI基盤を構築。これにより、需要予測の精度向上、物流の効率化、ヘアカラーのリアルタイムシミュレーションなど、業界の課題に対する具体的な解決策を次々と実現させている。

2万4000のサロンを支える美容業界屈指のIT先進企業

MASSホールディングスは美容業界を中心に、流通、デジタル、美容学生の就職イベントなど多角的なビジネスを展開する企業グループ。同社は美容業界屈指のIT先進企業としても知られている。

グループの中核となるきくや美粧堂では、ヘアサロン、エステサロン、ネイルサロンなどで使われる美容商材や内装、器具などを全国のサロンへ届けるための物流体制を整備。サロンが顧客向けECサイトを容易に展開できる「LifeKarte(ライフカルテ)」、サロン店舗管理ITプラットフォーム「Altair(アルタイル)」、フリーランスのスタイリスト向け美容材料通販サイト「MiCOL(ミコル)」といったECサービスも自社開発し、無償で提供している。

株式会社 MASSホールディングス
常務取締役 COO
カスタマー DX 推進本部 本部長
畠山 勇樹氏

「当社は美容業界に携わるサロン様、スタイリスト様、メーカー様、サロンへ来店するお客様、すべてのステークホルダーに満足していただけるサービスをご提供することを使命としており、グループ全体のITシステム開発や物流倉庫などの機能も受け持っています。現在約2万4000のサロン様をクライアントに持ち、取り扱い商品数は10万点にのぼります」と、MASSホールディングスの畠山 勇樹氏は説明する。

同社が顧客向けのDXをスタートさせたのは2013年にまでさかのぼる。ジェンダーレスな価値観や身だしなみ意識の浸透によるメンズ美容市場の拡大、サロンで提供される美容商材を自宅でも使いたいといった顧客ニーズの多様化など、美容業界を取り巻く環境が変化しつつあった。こうした中、美容業界の卸売業として満足のいくサービスを提供するためデータ統合に向けた取り組みを始めたのだという。

「お客様がどのサロンに来ているか、担当はどのスタイリストなのか、どのような美容商材を愛用されているのか。これらのデータを全部つなげていかないとサービスは完結しません。そこでこの10年間、倉庫システムや受発注システム、サロン様向けのデータをつなげるアーキテクチャを自社開発してきました」と畠山氏は振り返る。

例えば、自動搬送モバイルロボットなどの最新設備が整備された物流拠点の倉庫内システム「Fomalhaut(フォーマルハウト)」では、同社が展開する3つのECプラットフォーム「LifeKarte」「Altair」「MiCOL」と同じデータベースで受発注がリアルタイムに管理されている(図1)。これにより、以前はアナログでの受発注だった、サロン、メーカー、倉庫それぞれの属人的な作業が激減するとともに、欠品の少ないスピーディーな物流が実現している。

倉庫内システム「Fomalhaut」では3つのECプラットフォーム「LifeKarte」「Altair」「MiCOL」と同じデータベースで受発注が管理されており、サロン、メーカー、倉庫それぞれの属人的作業が激減。スピーディーな物流が実現している

また、各ECプラットフォームでは顧客と担当スタッフのひも付けができるため、スタッフごとのインセンティブ管理が行えるほか、顧客の購入状況を活用した販促やアフターケアも可能となっている。

「ECサイトと倉庫システムを別々のベンダーで構築してしまうと、ベンダーロックインやサイロ化を招き、リアルタイムなデータ連携を行うことが難しくなります。倉庫業務についても3PL(サードパーティー・ロジスティクス:物流業務を受託する企業)にアウトソースしたのでは他社と差異化ができなくなってしまう。システムの内製化や倉庫の自社運営はコストダウンだけではなく、データを自社でコントロールすることでサプライチェーンを構成するすべてのお客様へのサービスレベル向上につながると考えているのです」(畠山氏)

グローバル人材を採用し、AI開発体制を構築

IT活用こそが競争力の源泉であると考えるMASSホールディングスは、AI活用にも積極的だ。

株式会社 MASSホールディングス
ITソリューション本部
ITソリューション開発部 部長
風穴 英俊氏

「当社では以前から倉庫内のピッキングシステムや社内問い合わせシステム、ECサイトのキーワードサジェストなどでトライ&エラーをしながらAI活用に取り組んできました。このために不可欠なのがAIエンジニアですが、IT人材が不足する国内では採用が難しい。そこで広く世界に人材を求めていくことにしました」と語るのは、同社の風穴 英俊氏だ。

コロナ禍前の2019年、現地日系企業とのパイプを利用してミャンマー人やバングラデシュ人のAIエンジニアを採用。その後も各国のAIエンジニアが複数加わったことで、本格的なAI開発に弾みをつけることができたという。

「その後、JICA様やJETRO様がバングラデシュのITエンジニアの発掘と育成を目的に開催されたハッカソンにスポンサーとして参加させていただいたご縁で、バングラデシュの最高学府ダッカ大学の学生もリモートで3人採用することができました。彼らは大学のカリキュラムでAIをしっかり学んでおり、日本語を不自由なく操れる学生もいるため、すぐに即戦力となりました。現在は日本、ミャンマー、バングラデシュといった多国籍チームでAI開発を推進しています」(風穴氏)

NVIDIA H100を4基搭載したGPUサーバーを選択

ただし、本格的なAI活用に向けて立ちはだかったのがITインフラの壁だった。

「これまで実現していた受発注データの統合に加え、現在はECサイトごとに分散していた商品マスターや詳細なお客様データも含めたデータ統合が最終段階に入っています。それが実現するとAI分析で個々のお客様向けにカスタマイズされたご提案やサービスが実現できるようになります。しかし開発環境として利用していた以前のシステムは、コンシューマー向けのハイエンドGPUカードを2枚搭載したPCで、PoCレベルならともかく、本格的な研究開発には力不足でした。また、お客様向けサービスを実際に展開する上でも、十分な性能と信頼性、スケーラビリティを備えたインフラが必要になります。そこで本格的なGPUサーバーを導入することにしたのです」と風穴氏は打ち明ける。

ここで新たに導入されたのが、デル・テクノロジーズの「Dell PowerEdge XEサーバー」だ。風穴氏は製品選定のポイントを「元々当社では、社内業務システムに数多くPowerEdgeサーバーを採用しており、その安定性や扱いやすさを高く評価しています。また当時はNVIDIAのGPUカードの供給が安定していなかったのですが、デル・テクノロジーズさんは他社よりも短納期を実現できると約束してくれました。そこで迷わずPowerEdge XEサーバーを選択しました」と話す。

デル・テクノロジーズ株式会社
広域営業統括本部
フィールドセールス本部
東日本営業部
シニアアカウントマネージャー
大関 誠司氏

機種選定にあたってはデル・テクノロジーズもサポートし、貸出機を用いた性能検証を実施した。「当社は幅広いAI活用の課題解決に向けたソリューションを提供するDell AI Factory with NVIDIAや、お客様に最適なGPUサーバーを選んでいただくための検証環境を提供しています。今回は実データを使ってこの検証環境を利用してもらい、適切なサイジングを支援しました」とデル・テクノロジーズの大関 誠司氏は語る。

その結果、MASSホールディングスは「NVIDIA H100 GPU」を最大4基搭載でき、通常のサーバーと同じく空冷で利用できるPowerEdgeサーバーがベストと判断。同社のオンプレミス環境に4基フル搭載の構成で導入した。

オンプレミスで構築し、クラウドの約5分の1のコストを達成

AI/生成AIの利活用では、クラウドベースのサービスを用いる選択肢もある。だが今回同社は、あえてオンプレミスでの構築を決断した。その理由はどこにあるのか。

「まず、重要な業務データをクラウド上で扱うことにはセキュリティー上の懸念があります。その点オンプレミスであれば、社内向けAIと社外向けサービスに完全に分けることができ、重要な業務データも安心して学習などに利用できます。次に喫緊の課題となりつつある『データ植民地(※)』を避ける意味でも、オンプレミスでパフォーマンスを担保しながら複数のサービスからアクセスできるAIコンテナサーバーを構築することが最善だと判断しました。またクラウドの場合、利用量の増加に比例して費用が嵩むという問題もあります。一方、オンプレミスなら日中はお客様向けサービス、夜間は需要予測などのバッチサービスで活用するといった形を想定すれば、最初から自前でサービス基盤を持った方がコスト面でも有利です」と畠山氏は説明する。

※ データ植民地:大手クラウドベンダーにデータの主権を奪われる状況を指す

続いて風穴氏も「新たなAIサービス基盤を社内のKubernetes環境に組み込むことで、既存のシステムと統一的に運用管理できる効果が大きい。これまでのPowerEdgeサーバーの運用やAI開発でKubernetesの内製ナレッジもかなり蓄積されているので、新規開発されるコンテナのデプロイや管理・保守にも役立てることができます」と話す。

実際に、今回と同等の環境をクラウド上で構築した場合よりもインフラコストを約5分の1に抑えることに成功。またオンプレミスならではのパフォーマンスにより、AI生成画像の処理時間を2分から20秒へと6分の1に短縮。これによりAIを使った新サービスの開発も加速している。

「そうした成果の1つが、2025年10月にリリースしたヘアスタイルシミュレーターとヘアカラーシミュレーターです。サロンに来店されたお客様の画像とモデルの画像を合成して、仕上がりの状態をリアルタイムにシミュレーションすることができます。髪色はもちろん髪型まで自由に変えることができるので、没入感のある魅力的な体験が提供可能です」(風穴氏)

サロンに来店した顧客の画像とモデルの画像を合成し、髪色や髪型を自由に変えながら仕上がりの状態をリアルタイムにシミュレーションすることができる

社内の需要予測システムの精度向上にもAIが適用された。同社の物流拠点ではピーク時に1日当たり最大1万件の注文、20万個の商品が処理されており、その在庫制御には多大な労力が掛かっている。そこでAIで需要予測を行い、できるだけ省力化・効率化を図ろうというのが狙いだ。

現在、1万8000種類の最小在庫管理単位(SKU)の需要予測を含む主要業務にAIを適用。「まだ実用化に向けたテスト段階ではありますが、細かいチューニングを施すことで最終的に90%以上の精度が見込めます。AIに任せられる部分が増えれば、それだけ人がやるべき仕事に注力できるようになります」と畠山氏は語る。

同社の物流拠点では1万8000種類の最小在庫管理単位(SKU)の需要予測を含む主要業務にAIを適用。細かいチューニングを施すことで最終的に90%以上の精度を見込んでいる

デル・テクノロジーズ株式会社
広域営業統括本部
広域セールスエンジニアリング部
セールスエンジニア
高祖 道晴氏

同社ではこの2つの取り組み以外にも、ECサイトでのレコメンドやAI駆動型の内部問い合わせシステムなど様々な分野でAI活用を推進中だ。実際、2025年10月には、RAG LLMを実装した社内問い合わせシステムをテスト稼働させている。さらなる適用に向け、デル・テクノロジーズにも期待が寄せられている。

「MASSホールディングス様の開発意欲は非常に旺盛で、常に最新の開発技術を模索されています。我々デル・テクノロジーズには北米の拠点やNVIDIA様から常に新しいAI技術やハードウエアの情報が入ってきますので、開発に役立つ情報を継続的に提供していきます」とデル・テクノロジーズの高祖 道晴氏は語る。

日本発の美容サービスを世界へ MASSのグローバル戦略

同社では今回導入したAIサービス基盤を、自社以外の組織に利用してもらう構想も描いている。「最近では大手美容室や業界団体などでも、独自のAIサービスを立ち上げる機運が高まっています。そのインフラにクラウドを使ってしまうと、やはりコストがネックになりがちです。その点、当社にはオンプレミスのAIサービス基盤があるわけですから、これをうまく使ってもらう手もあるはず。また美容業界で培ったITと物流を駆使して他業種と協業することも視野に入れています」(畠山氏)。

さらに将来的には、サービスのグローバル展開も検討中だ。「日本の美容業界のサービスは、東アジアや東南アジアなどでも十分に受け入れられると考えています。日本の商材、日本のサービスを生かして、海外にもビジネスを展開していきたい」と、畠山氏は将来を見据えている。

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