欧米の自動車業界で「CASE」(コネクテッド・自動化・シェアリング・電動化)の概念が生まれたのが2016年のこと。それから9年が経過し、「新しいクルマ」の概念は社会実装が進んでいる。
「ソフトウェアの継続的な更新によって自動車の性能や機能をアップデートし続けるSDV(Software Defined Vehicle)や、サステナビリティに対応した循環型ビジネスモデルの構築など、新たなニーズの高まりと、それを実現可能にするテクノロジーの開発とともに、自動車の“常識”もアップデートされています。そうした状況の中、日本の自動車産業は『どうすれば競争力を維持・強化し続けられるのか?』という課題に直面しています」
そう語るのは、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 自動車Unit Leaderの平井 学氏である。
圧倒的なモノづくりの力によって、壊れにくく、よく走るクルマを提供できるのが、日本の自動車産業の強みであった。
「もちろん、その高い技術力やブランド力が損なわれたわけではありませんが、北米テスラや、中国の新興EVメーカーをはじめとするインテリジェントモビリティメーカーの台頭によって、グローバルにおける日本の自動車メーカーのマーケットシェアは少しずつ奪われはじめています。自動車産業は、グローバルを代表するブランドが複数存在し、国内最大の雇用を抱える基幹産業です。まさに日本経済の“屋台骨”を支える存在であり、それが世界の新しい潮流によって揺るがされると、日本経済そのものの将来にも負のインパクトをもたらしかねません」と平井氏は懸念する。
日本の自動車産業が直面する現状に、「かつてのハイテク・家電産業と同じ道をたどるのではないかと心配しています」と危機感を示すのは、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 Supply Chain & Network Operations Unit Leaderの井上 智氏である。
1980年代ごろまでは世界を席巻していた日本の家電産業だが、デジタル化という新たな時代の潮流に乗り切れず、急速にグローバル競争力を失っていった。それと同じことが、自動車産業でも起きる可能性があると井上氏は懸念しているのだ。
「電動化やインテリジェント化などの急速な進展によって、日本の自動車産業がこれまで強みとしてきたモノづくりの方法論は通用しなくなりつつあります。目の前で起こっている変化を直視し、ビジネスモデルやモノづくりのあり方を根底から見つめ直す時期に差し掛かっていると言えます」(井上氏)
EVやインテリジェントモビリティといった「新しいクルマ」の台頭とともに、製品開発サイクルも急速に短くなっている。
平井氏は、「伝統的な自動車メーカーでは5~7年ごとでフルモデルチェンジするのが主流になりつつありました。一方で、とくに中国を中心に新興EVメーカーがラインアップ拡充を目的に2~3年スパンで新しいモデルを投入している昨今、従来のマイナーチェンジを経てフルモデルチェンジというプロセスでは、競争が激化する市場の中で対抗できなくなりつつあります。目まぐるしい変化のスピードにいかに追いついていけるようにするかも、世界で勝ち抜いていくための重要なポイントとなるでしょう」と指摘する。
では、日本の自動車産業は、どうすれば「新しいクルマ」の潮流に乗って、グローバル競争力を維持・向上し続けられるようになるのか?
自動車Unit Leaderとして、自動車産業の経営変革や事業変革を支援してきた平井氏が提言するのは、従来のビジネスモデルやモノづくりのあり方に捉われず「新しいクルマ」づくりに取り組むことである。
「トラディショナルなガソリン車やディーゼル車の製造において、日本の自動車産業は今でも圧倒的な強さとブランド力を持っています。その強さの“本質”は守りつつも、今までのクルマづくりに固執せず『新しいクルマ』づくりにチャレンジすることが求められています。EVやインテリジェント化、従来のクルマづくりに加えて、「新しいクルマづくり」を両輪で進めていくことは容易なことではありません。市場によってこの「新しいクルマ」の進度が異なるためです。いかに市場別の動向を見極め、経営効率を上げながら、投資を判断していく難しい経営のかじ取りが求められています」(平井氏)
さらに、サプライチェーンの最適化をコンサルティングするSupply Chain & Network Operations Unit Leaderの井上氏は、「新しいクルマ」づくりに適したサプライチェーンの見直しを提言する。
長年、家電産業のサプライチェーン変革を支援してきた井上氏は、テレビの進化とともに起こったサプライチェーンの変化が、自動車産業においても参考になるはずだと言う。
「ブラウン管テレビの時代には、それぞれの国・地域ごとにブラウン管を調達していたものが、液晶テレビの時代に変わってからは、韓国・台湾など特定の国からパネルを大量調達し、グローバルに供給する体制に変わりました。同じようにクルマの部品も、現地調達だけでなく、バッテリーや半導体などをグローバル調達によっていかに確保するかが重要となっています。『新しいクルマ』づくりに対応するためには、サプライチェーンのあり方も根底から見直す必要があるでしょう」(井上氏)
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社は、そうした自動車産業の大変革を支援するコンサルティングサービスを提供している。「100年に一度」と言われる変化に対応した、有効な支援策が提供できるデロイトの価値とは何か?
平井氏が第一に挙げるのは、グローバル市場に対する知見の深さと、世界に広がるネットワークだ。
「ご存じのように、電動化が進んだ今でも、日本で走るクルマのほとんどはハイブリッド車、ガソリン車、ディーゼル車です。国内だけを見ていると、世界の自動車におけるEVシフトやインテリジェントモビリティの進展を実感することができません。デロイトは世界全体における『新しいクルマ』の潮流を俯瞰的に捉え、どのようなグローバル戦略を描いていけばいいのかを適切に助言することができます」と平井氏は語る。
また、先ほど井上氏が指摘したように、「新しいクルマ」づくりに取り組むためにはサプライチェーンを地球規模で見直すことが不可欠だ。その点、世界にネットワークを張り巡らすデロイトなら、最適なグローバルオペレーションの構築を支援できる。
デジタルやIT領域における高度な専門性を備えているのも、デロイトの大きな強みである。デジタル化が進み、データドリブンな経営が求められている今日においては、原価管理、計画業務、受注・出荷プロセスといった局所的な業務の改善・可視化のみならず、サプライチェーンや関連部門を横断した情報マネジメントが求められる。その基盤や仕組み作りにおいても、大きな力を発揮できるのだ。
このように幅広い支援サービスが提供できるのは、多様な経験やケイパビリティを備えた人材が活躍しているからである。
「我々自動車Unitには、コンサルティング出身者のほか、自動車メーカーや部品メーカーなどの事業会社、システム開発に携わってきたITベンダの出身者など、様々なバックグラウンドを持つメンバーが所属しています。自動車産業が抱える課題は、バリューチェーンの再構築や設計・開発、生産、販売の見直しなど多岐にわたるため、あらゆる課題に対応できる人材ポートフォリオを形成しているのです」と平井氏は説明する。
中でも、SDVなどソフトウェアやデジタルを利用する「新しいクルマ」の普及とともに、デジタル領域やIT領域で活躍した人材を採用するケースが増えているという。
井上氏は、「コンサルティングというと、デジタルやITからはほど遠い領域と思われるかもしれませんが、テクノロジー人材が活躍できる場は広がっています。ぜひ、IT・デジタルの領域で培った力を貸していただきたいですね」と期待を寄せる。
もちろん、自動車産業をはじめとする製造業でキャリアを積んだ人材や、サプライチェーンに関する業務の経験者も大歓迎だという。現場で製造やサプライチェーンに関する課題に直接向き合い、試行錯誤を重ねながら克服してきた経験は、これからの日本の自動車産業を変える大きな力になるはずだ。
また、知識や経験もさることながら、日本の基幹産業である自動車産業や、日本経済そのものの発展を支えていきたいという強い気概と意欲を持った人材を求めているそうだ。
平井氏は、「自動車産業の発展を支えることは、日本経済そのものの強さを支えることにつながります。非常にやりがいのある仕事ですし、チャレンジすべきことが多いので、キャリア形成の面でも得難い機会だと言えるのではないでしょうか。日本経済の未来を支える志のある方に、ぜひ仲間になってほしいですね」と語る。
コンサルティングの質を高めるため、多彩なタレントを結集するデロイト トーマツ コンサルティング合同会社は、「All Japan」で自動車産業の発展を支えていきたいと考えている。そのため、自社の枠にとらわれず、外部のパートナーとの協力関係も深めながら、より幅広い支援サービスの提供を目指しているそうだ。
最後に平井氏は、日本の自動車産業界へのメッセージとして、「日本ならではの戦い方で『新しいクルマ』づくりに挑んでいくこと」を提言した。
「米国や中国の新興メーカーに追いつくことだけを考えていては、追い越すことはできません。トラディショナルな自動車の競争では、品質が良く、壊れにくいクルマがJAPANブランドとして独自性を発揮しましたが、同じように『新しいクルマ』でも日本車独自のプレミアムをいかに打ち出していけるかが、競争に勝つためのカギを握るはずです。我々コンサルティング業界も一丸となり、『これこそが日本の新しいクルマだ』という理想形を言語化し、世界に発信していきたいですね」(平井氏)と強い思いを語った。