多くの企業が、生成AIを使っていかに業務を効率化させるか、サービスを充実させるかに奔走している。KDDIアジャイル開発センター株式会社(以下、KAG)にも「生成AIを活用したい」という相談が多く寄せられている。「アジャイル」という言葉を社名に冠する同社は、文字通り、アジャイル開発に特化している。技術革新のスピードが速い生成AIは、とりわけアジャイル開発と親和性が高い。同社において、アジャイル開発、生成AI活用の最前線に立つキーパーソンに、生成AIを事業に溶け込ませるための「4つのポイント」を聞いた。
事業や業務に生成AIを活用したい。しかし、何をやるべきかわからない。企業において、DXと生成AIは、概念が先行し実践が伴いづらい点で似ていると言える。またDXも生成AIも、取り組まないと変化の時代を生き残れない。多くの企業が抱く認識にも共通点がある。さらに、生成AIはDX推進に欠かせない要素だ。
2022年に、法人顧客のDXを加速するためにKDDI株式会社(以下KDDI)から分社化して設立されたKAG。DX専業エンジニア集団である同社のもとに、生成AIに関する引き合いが急増している。理由はアジャイル開発と生成AIの高い親和性にあると、技術部門を統括する岡澤克暢氏は話し、説明を加える。
「技術革新のスピードが速い生成AIは、ウォーターフォールで要件決めを行っている間に、ビジネスモデルが陳腐化してしまいます。最新技術を学びながら改善し、精度や実用性を高めていくアジャイル開発の手法が適しています。アジャイル的に動かないと、生成AIのプロジェクトは成立しません」
KDDIアジャイル開発センター VPoE
岡澤 克暢 氏
KDDIにおけるアジャイル開発の取り組みは2013年までさかのぼる。以後10年間、アジャイル開発に徹底的にこだわり続けてきた。これまで培った実践知をベースに、日本企業のDX支援に向けて立ち上げたのがKAGだ。
同社のアジャイル開発支援は、他社サービスとは一線を画す。大きな違いは、豊富な実践経験を持つ精鋭エンジニアの存在だ。「2013年当時はエンジニアが数人でしたが、2024年にはパートナー含めて700人を超えました。IT人材不足の時代に、なぜ当社にエンジニアが集まるのか。テクノロジーはもとよりマネジメント、コミュニケーション能力に長けたエンジニアが生き生きと仕事をしているからだと思います。仕事がしやすい環境のもと、最新技術にチャレンジする機会も多くあります。また、専門分野のコミュニティをつくるなど対外活動も活発ですので、お客さまにも新しく、幅広い知見で支援することが可能です。」(岡澤氏)
KAGには、アジャイル開発や生成AIにおいて豊富な実践経験を持つエンジニアが多く所属する。
社内に複数のデザイナー、PdMがいることも特徴だ
同社は、多くの企業で評価の高いアジャイル開発のメソッドを、生成AIの開発・活用支援に生かしている。最新技術に対する感度が高く、経験豊かなエンジニアが、顧客企業の生成AI開発プロジェクトとチームを組む。サービスデザインからプロトタイプ、開発、リリース、内製化まで一貫してサポート。テクノロジーとビジネスの両面から顧客企業に寄り添い、真に役立つ生成AI活用に導く。教科書的ではない、実践を通じて同社エンジニアがコーチングやティーチングをおこなうため、内製化に向けたスキルも着実に身に付く。重要なのは、1つのプロジェクトの成功ではなく、生成AIを活用する仕組みを構築することだ。
生成AI活用において、サービスデザインから内製化まで一貫してサポート。ブロジェクトのどのフェーズからでも伴走して支援する
KAGは、2023年の年明けから生成AIの勉強会を頻繁に開催。そして、2023年前半から生成AI活用の実践に着手した。まずはコーディング支援など、社内の開発効率化に向けて生成AIを活用。また、KDDIのメンバーとチームを組み、KDDI社内データを検索するチャットボットをアジャイル開発した。2024年に入り、グループ外の企業から「事業や業務で生成AIを活用したい」という相談が日を追うごとに増えている。依頼主は業種を問わず、中堅・大手企業の事業部、DX・AI推進部、情報システム部など部門も幅広い。
DXを加速し競争力を高めるために、事業に生成AIをいかに溶け込ませるか。同社の実践知と知見から導き出したのが、以下の4つのポイントだ。
①課題の本質に迫る
②現場にまず触ってもらう
③UX(ユーザーエクスペリエンス)を高める
④ロードマップを描く
1つ目の「課題の本質」は、プロジェクトの出発点であり目的となる。重要性について、ソフトウェアエンジニアリードの岸田正吉氏は話す。「多くのお客さまは、生成AIで何をしたいのか、明確な目的が見えていないのが現状です。大事なのは、生成AIで業務の何を変えたいのか。本質に迫ることです。アジャイル開発手法の1つであるサービスデザインの考え方が役立つと思います。サービスの価値をユーザー視点で捉え、本当に必要なものを『言語化』し整理します。具体的には、まず業務フローを見直し、課題や改善点を見い出す。それを生成AIで代替すべきかを見極め、優先順位を付けて取り組みます」。
KDDIアジャイル開発センター ソフトウェアエンジニアリード
岸田 正吉 氏
「課題の本質」の重要性は同社の事例からも明らかだ。「お客さま側でまずチャットボット形式でアイデアの壁打ちをするプロトタイプを作られていましたが、現場に定着しないということで当社に相談がありました。お客さまへのヒアリングを行った結果、回答の精度が良くなく、プロンプト入力におけるストレスに課題の本質があることがわかりました。そこで、プロダクトの方向を転換し、音声で生成AIに質問を投げかけてやりとりするかたちに変えました。生成AIと会話することで、ユーザーの頭の中が整理され、必要な回答を得るために質問に磨きがかかりました」(岸田氏)
2つ目の「現場に触ってもらう」は、「習うより慣れる」ということ。「いきなり高精度のレベルを出すというのは敷居が高いです。デモなどでまず使ってもらうのが第一歩になると思います。回答に精度が出なくても、怖がらずにトライするうちに必要な回答に近づいていく。その感覚を得ることが大切です」(岡澤氏)
最近、同社に対し業務特化型の生成AI活用に関する引き合いが多くなっている。最初にデモを見せてお客さまと会話を進めるケースも増えていると岸田氏は話し、こう続ける。「パワーポイントの資料ではイメージがつかめません。たとえば施工管理部門において、点呼時の会話を録音し、そのデータをもとに生成AIが報告書の下書きを作成するデモを作りました。まずは生成AIがあることで起きる変化にたいして、手触りをもっていただきたかった。KDDIの課題解決用に開発したデモを、お客さま向けに横展開したものです。この”まず触ってもらう”というアプローチは、アジャイル開発はもとより生成AIでも有効だと思います」。
3つ目はUX向上が利用拡大につながるという点だ。アプリは開発して終わりではなく、ユーザーに使ってもらうことで価値が生まれると、テックエバンジェリストの御田稔氏は指摘し、こう続ける。「チャットボットで回答が出てくるまでに数十秒待つことに、ユーザーが不満を感じるのであれば、数秒で少しずつ回答が表示されていくかたちに変えることもできます。また、何をどう質問すべきなのかがわからないユーザーのために、ユースケースを絞った選択式にするという手段もあります。アジャイル開発で、プロトタイプを作ってUI(ユーザーインターフェース)を改善していくアプローチは、生成AI活用でも有効だと思います。そうすることで、本当に使いやすく、日々の業務にとけこむ生成AIの活用へとつながると思います」。
KDDIアジャイル開発センター テックエバンジェリスト
御田 稔 氏
同社は、生成AIを活用したプロダクトの自社開発も行っている。UXの観点でユニークなのが、営業担当の提案書をレビューしてくれる「本部長AI」だ。「エンジニアがKDDIの実際の本部長を観察し言動などの情報を収集して、それをLLM(大規模言語モデル)への指示に落とし込み、本部長AIを開発しました。関西弁のニュアンスも生かし、本当に本部長にレビューしてもらっているかのようなユーザー体験を得られます。多忙な役職者に対し時間を創出するとともに、新人営業担当も気軽にレビューが受けられるためエンゲージメント向上にもつながります」(御田氏)。
最近の生成AIアプリ開発では、人間が介在することなく特定のタスクを実行するAIエージェントがトレンドとなっている。「本部長AI」もAIエージェントだ。「AIエージェントは自律型のため、自由度と統制のバランスが大切です。サービス設計と技術的実現、両方のスキルが求められます」(御田氏)。
4つ目の「ロードマップ」は、成長戦略の中に生成AI活用を落とし込むということ。「経営の観点では、生成AIにより生産性が向上したことで終わっては意味がありません。創出した時間や人材リソースを、戦略的に活用し企業の持続的成長に寄与するために、ロードマップを描き、マイルストーンを決めて着実に進むことが重要です」(岸田氏)。
また、4つのポイント以外に、生成AI活用の普及段階では運用面で課題に直面することもある。「当社は、生成AIを使ったLLMアプリケーションを運用監視するLLMOpsソフトウェアを積極活用しています。エラー時にアラートを発信する監視だけでなく、AIエージェントの動きやコストの可視化、精度評価など生成AI特有の運用を支援します。日々登場する最新技術の中で、“使える”ものを選ぶ目利きも必要です」(御田氏)。
事業や業務における生成AI活用で成果を出すのはこれからだ。発想を変えると、どの企業にもチャンスがある。
「お客さまのご要望に迅速に応えるために、生成AI駆動開発に向けて、社内開発チームの半分以上を生成AIで構成することも想定しています。お客さまに対しては、最新技術をサービスに実装するスピードという強みをパワーアップしていきます。また業務特化型生成AI活用では、アジャイル開発と生成AIの知見を生かし、お客さまの事業部門とタッグを組み、真に役立つソリューションや、付加価値の高いサービス創造に注力していきます」(岡澤氏)
同社に依頼する企業はリピーターも多い。生成AI活用を目的にせず、手段として使いこなし、新たな成長戦略を軌道にのせていく。KAGは、その伴走者としてともに走り続ける。