
京セラは新機軸となる事業として、切削加工の可視化・監視・分析を支援するセンシングソリューション「VIMOA(ヴィモア)」を発表した。無線ながら高いサンプリング周波数で高精度な分析を実現し、既存の工作機械に取り付けるだけで利用可能だ。既に手頃な価格で開始できるレンタルサービスの提供も開始している。
日本の切削加工の品質と生産性の高さは、“ものづくり大国”と日本がうたわれた源泉の一つと言えるだろう。
工作機械や切削工具のイノベーションによって、切削加工の領域では自動化が進みつつある。しかし、高精度加工や難削材加工など求められる技術難易度も高まっており、技能者、特に熟練工の“勘”と“コツ”という、属人性によって支えられている状況は変わらない。
「熟練工の技能継承が課題である今、切削加工の強みを維持・発展する上では、これまで属人的だった技能を科学的に捉える、加工の状態や状況の数値化が不可欠です」と話すのは、京セラの古賀健一郎氏だ。
加工状況に応じた熟練工の判断の基準や妥当性を客観的な数値データで定義できれば、経験に乏しい作業者や外国人労働者にも、高度な技能を継承可能になる。持続可能な自律型の切削加工の実現にも近づくだろう。
電子部品や通信機器を中心に多岐にわたる事業を展開する京セラは、高品質な切削工具の開発・供給においても、日本の製造業の競争力強化に貢献してきた。
総合工具メーカーとして国内市場の一翼を担い、特に「サーメット」と呼ぶセラミックと金属の合金を利用した切削工具は同社成長の原動力だ。また、時計・電子機器・医療機器などの精密機器向け工具も高い実績を有する。
言わば、切削工具の提供を通じて、“勘”と“コツ”に支えられる熟練工の技能継承の課題に直面してきた京セラが、 2025年9月に新機軸となるソリューションとして打ち出したのが、「VIMOA(ヴィモア)」だ(図1)。
「VIMOAは、既存の工作機械に後付けするだけで、切削加工の状態を数値データで可視化できるセンシングソリューションです。振動の精緻な測定に特化した無線式のセンシングツールをコアに、切削加工の高品質化・生産性向上に向けた分析や、異常の予兆のリアルタイム監視を実現します(図2)」(古賀氏)
特長は大きく3つある。1つは、切削加工中に発生する異常振動などを捉える高度なセンシング性能だ。
「低周波の無線式加速度センサーはデータ伝送の関係上、サンプリング周波数の引き上げが課題です。仮に150Hz程度なら1秒間に取得できるデータは150個ほど。この場合、150回転/秒の加工では1回転で1回の測定しかできません。そこでVIMOAは、リアルタイム監視や原因解明に向けて、サンプリング周波数は22kHz、毎秒2万2000個のデータを±100Gの測定レンジで取得できる能力を搭載しました」(古賀氏)
2つ目が、データの安定伝送だ。毎秒2万2000点ものデータを、無線かつ、加工機内の伝送環境で安定伝送するには、通信の面でも高度な技術が求められる。VIMOAでは、京セラが通信機器事業で培ってきた技術力を結集することで、これを実現した。
最後に、既存の工作機械にセンサーを後付けできること。マグネット式で小型な端末を現在稼働する工作機械に設置するだけで、データ収集を始めることが可能だ。
VIMOAは、サービス開始に先駆けて、20社以上の先行ユーザーの協力を得て2〜3年間テストを繰り返し、取り付け位置の選定・分析ノウハウなどの利用技術を磨いてきた。
「試用期間中にも、従来3カ月要していた生産ラインの立ち上げを1カ月に短縮した事例や、工具寿命が5倍に延びた事例など目覚ましい導入効果が得られました。従来の抜き取り検査では見逃されていた突発不良を即時に発見し、『不良ゼロ』の生産体制実現を目指せるような手応えも感じています」と古賀氏は話す。
2025年9月より、センシングツールのレンタルサービス「センシングツールプラン」を先行して開始(図3)。利用料金は14日間9万円、30日間16万円で、「生産技術担当者の方々にまずは手に取って体感していただくために、導入しやすい価格に設定しました」と古賀氏は言う。
さらに、2026年春には加工監視AIによる量産ライン用稼働監視・不具合管理サービス「AIモニタリングプラン」の提供も開始する予定だ。製造業向けのAI技術を専門とするベンチャー企業MAZINと協業して開発中で、少ないデータ(約20個)から加工の正常値を機械学習で判別し、異常を検知する機能の実現にも取り組んでいる。
製造業が直面する課題を解決し、競争力を高めていくためには、属人的技能だけに頼らない、数値化したエビデンスをベースとする共有や、継続的進化が可能な知見・スキルの保有が必須になる。近未来の製造業のあるべき姿を目指す上で、確かなデータを収集できるVIMOAは、欠かせないソリューションの一つとなることだろう。