AI×ロボティクスが支える食品産業の未来 惣菜盛り付けの自動化で人手不足を解消へ

スーパーやデパ地下に色とりどりに並ぶ唐揚げ、コロッケ、煮物、ポテトサラダ、マカロニサラダ――。最近は「シェフ・クオリティ」の惣菜や、オーガニック食材、地産地消にこだわった商品など幅広いメニューが登場している。このように惣菜市場が活況を呈する一方で、その製造現場は慢性的な人手不足に喘いでいるのが実情だ。人手不足の解消に向け、人に替わり惣菜の盛り付けをするロボットを開発したのがコネクテッドロボティクス株式会社だ。同社では、性能のさらなる向上を目指し、農林水産省の「中小企業イノベーション創出推進事業」に参画。支援を受けながら、さらなる性能向上や低価格化向けた技術革新に挑んでいる。

食品業界が抱える
深刻な人手不足を解消したい

 スーパーなどで購入した惣菜を自宅で食べる「中食」が広がりを見せている。中食とは、外食でも自炊でもなく、調理済み食品を家庭で手軽に食べるスタイルのこと。共働き世帯の増加により、調理に時間や手間をかけたくないというニーズが高まり、さらにコロナ禍による外出自粛の影響も中食の普及を後押しした。現在では中食市場は約11兆円規模に達しており、今後も成長が見込まれている。

 しかし、この市場の拡大に伴い、新たな問題も浮上している。それが、惣菜の盛り付け作業における人手不足である。食品工場は地方にあることも多い上、低温や高温といった過酷な作業環境などもあり、働き手の絶対数が足りていない。自動化による解決も検討されてきたが、形が不定形で粘度も異なる食材を、素早くかつ美しく盛り付けるには高度な技術が求められる。加えて、食品製造業の大半を中小企業が占めているため、大規模な設備投資が難しく、機械化はあまり進んでこなかった。

 こうした問題の解決に挑んでいるのが、2014年にAI(人工知能)とロボットコントローラの開発を目的に創業したコネクテッドロボティクス株式会社(CR)だ。同社は「食産業をロボティクスで革新する」というミッションを掲げ、たこ焼きやそばなどの調理を自動化するロボットシステムを開発してきた。その後、食品工場における人手不足の深刻さを知り、これは見過ごせない社会課題であるととらえ、惣菜盛り付けロボットの開発に乗り出したという。

 同社で代表取締役を務める沢登 哲也氏は、同分野に参入した背景について次のように語る。
コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役 ファウンダー 沢登 哲也氏
コネクテッドロボティクス株式会社
代表取締役 ファウンダー

沢登 哲也

 「形状や粘度が異なる惣菜を、常に等量で、しかも見た目よく盛り付ける人間の手はとても器用です。その作業を機械に任せるのは非常に困難で、事実、食品の盛り付けに特化したロボットは世界的にもほとんど例がありませんでした。だからこそ、むしろチャレンジしたいという想いが強まりました。また、おいしいものを手頃な価格で購入できる中食市場は活況を呈しており、当社の技術力を生かせるマーケットとしても大きな魅力を感じたのです」

不定形食材もお手のもの
惣菜盛り付けロボが人手不足の救世主に

 同社の惣菜盛付ロボットDelibot(デリボット)シリーズは、本体の近くにセットした番重(食品の収納・運搬に使われる容器)から食材をハンドでつかみ、ベルトコンベアを流れてくる容器に盛り付ける。2021年に開発をスタートさせ、早くも翌2022年に初号機をリリースしたが、完成までの道のりは苦難の連続だったという。

 特に腐心したのが、形も粘度も異なる惣菜を“指定量”で正確につかませることだった。ポテトサラダのように柔らかく崩れやすいものから、唐揚げのように固形で不揃いなものまで、食材の特性は千差万別。これを1台のロボットで対応させることは想像以上に難しい。そこで複数の専用ハンドと、「ひと掻きで何グラムになるか」を惣菜ごとに予測するアルゴリズムの開発に挑戦することにした。

 「試作品を使って収集した膨大なデータをAIに学習させ、惣菜の外見から統計的に推測して動きを制御するシステムを構築しましたが、当初はなかなか定量を盛ることができませんでした。そこで、持ち上げた食材の重さをリアルタイムで計測し、不足分をつかみ直したり、容器に移す前にこびりつきを振るい落とす動作を加えたりと何度も改良することで、ようやく人間並みの精度を実現できたのです」と沢登氏は振り返る。

 さらに注目したいのは、現場に即した改良も施した点だ。惣菜製造ラインでは多品種少量生産が一般的で、品目の切り替えが頻繁に発生する。そこで同社は、ハンドをマグネット式で着脱可能にし、段取り替えをわずか数秒で完了できる仕組みを導入。これにより、同じロボットが異なる製造ラインで柔軟に活躍できるようになったという。

生産ラインで製造品を切り替える際に、機械の部品・装置の交換や設定変更などを行う準備作業のこと


 「操作性も徹底的に簡便化しました。具体的には、操作パネルの画面に表示される惣菜の写真にタッチするだけで稼働させられるようにし、特別なトレーニングを受けることなく誰でも簡単に扱えるロボットシステムにしました」(沢登氏)
【Product】惣菜盛付ロボット「Delibot_Ver1」
※本動画に登場する惣菜盛付ロボット「Delibot」は今秋発売する製品とは異なる
 1人分の作業スペースに設置可能なコンパクトさもDelibotの特徴で、事前のシミュレーションで最良の動作経路を調整することもできる。肝心の作業速度も250食/時間と、初号機の段階で人間に遜色のない能力を発揮。製造ラインを省人化したい複数のスーパーや食品会社に導入された。

 この取り組みの集大成として、CRは2025年秋にDelibot S1を発売予定だ。この新モデルではスーパーなどで販売されるメジャーな惣菜の大半を盛り付けられるようになり、作業速度は旧モデルの1.6倍の400食/時間と、熟練作業者の能力にほぼ匹敵するスピードを実現。さらに重量を270kgまで55%軽量化し、キャスターを搭載することで、製造ライン間の移動やレイアウト変更が容易になった。これにより、人手不足の現場で、必要な場所にロボットを素早く配置し、人の代わりにライン作業を担える柔軟性が大きく向上したわけだ。
惣菜盛付ロボットの新モデルDelibot S1
惣菜盛付ロボットの新モデルDelibot S1
和惣菜・洋惣菜を問わずスーパーなどが扱う主な惣菜の多くに対応。製造品目の変更時はハンドを交換して容器幅を調整し、操作パネルで商品写真を選べば段取り替えが完了する

農林水産省の支援事業で
盛り付け革命をさらに加速へ

 このように技術面では着実に進化を遂げているが、沢登氏には「食品業界の人手不足解消にはまだ十分な貢献ができていない」との思いがある。広く活用してもらうにはさらに多くの品目に対応できるようにし、さらなる作業速度の向上や省スペースであることも求められる。加えて販売価格を下げることも重要なのだという。

 「開発には多大なコストを要するので、価格も当然高額になります。そのため人をロボットに置き換えようとしても投資対効果が見合わず、中小企業への普及は望めません。『性能を高めながら価格を下げる』という難題が目の前に立ちはだかりました」と沢登氏は話す。

 そんなときに目にしたのが、農林水産省の「中小企業イノベーション創出推進事業」(フェーズ3基金事業:技術実証等)である。これはスタートアップの先端技術を農林水産業や食品産業に実装することを支援するもの。早速、CRを代表に、触覚センサ技術や小袋移載技術などを有する全13社でコンソーシアムを組成。「食品産業における食品ハンドリング技術の革新と社会実装」をテーマに採択された。農林水産省の事業担当者は、「食品製造業における人手不足を解消できる技術として期待しています」と語る。

 CRでは、この支援を活用して2028年度以降の発売を目指し新しいDelibotを開発中だ。「既に補助事業採択後1年間で単品惣菜を10種から21種類、高精度かつ高速で盛り付けられるように進化させています」と沢登氏は手ごたえを感じている。最終的には作業速度を1000食/時間、対応品種を10種類から100種類へ、スペースを1m×1m以下にするとともに、中小企業でも十分費用対効果が出るような価格帯で提案できるロボットシステムを目指していくという。

 同社が、この支援を活用して取り組んでいるのは技術開発だけではない。社会実装に向けて、惣菜盛り付けロボットを開発するCR、触覚センサ技術に強みを持つFingerVision、食品搬送や小袋移載技術を得意とするCloserのスタートアップ企業3社が中心となり、サブテクニカルコミッティーを組成。食品業界のスタンダードとなる保守サービスガイドラインを策定した。

 ロボットは納入して終わりではなく、その後の保守サービスも重要となるため、異なる技術領域を持つ3社が連携することで、製造・搬送・操作の各工程をカバーし、業界全体で共通化できる仕組みを構築できる点が大きなメリットだ。

 既に食品製造業やロボットSIer(システムインテグレーター:システムを構築する事業者)への保守状況のヒアリングを通し、食品業界で求められる保守サービス要件を明確化。「ロボット導入後の事後保全だけではなく、予防保全や事前に保守を察知する予兆保全等の今後の取り組みについても協議しています」と沢登氏は話す。

 このように、複数社のスタートアップが協力しあいながら社会実装を目指す事例は非常に稀だ。「保守サービス以外でも、製造や調達、操作パネルのUI(ユーザーインターフェース)の共通化、営業・保守拠点の共通化など社会実装に向けて協力しながら推進していきます」と沢登氏は前を向く。

「AI×ロボティクス」で
快適な社会を実現する

 こうした取り組みを通じ、日本国内のみならず、いずれはアジアやアフリカなど人口が多く食品製造に携わる人が多い地域にもDelibotを普及させていく計画だ。また、このロボット技術は惣菜の盛り付けだけではなく食肉の加工や、農業の現場における選果や収穫物の箱詰めなどに応用できる可能性もあるという。

 「AIとロボティクスの掛け合わせでできるようになることは、ほかにも無数にあるはず。これからも多様な技術を持つパートナーとの共創を軸に挑戦していきたい」と沢登氏。既に同氏の目には、快適で豊かな社会への青写真が描かれているようだ。