タイから世界へ
資産を生かし新たな挑戦で切り拓く日本企業の未来

Mediator ガンタトーン・ワンナワス 氏×藤岡亮介氏

mediator
CEO
ガンタトーン・ワンナワス 氏

海外産業人材育成協会
バンコク事務所 所長 兼
日ASEAN経済産業協力委員会
事務局長 藤岡 亮介 氏

急速に経済成長を続けるアジア地域にあって、タイはその中心的なポジションにある。日本企業の製造拠点も多く、長年にわたって日本と親密な関係を築いてきた。日本企業の成長のために今どのような関係性が求められているのか。タイにおける日本企業の活動を支援している海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所 所長 兼 日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC) 事務局長の藤岡亮介氏と日タイの架け橋としての役割を果たしてきたmediator代表のガンタトーン・ワンナワス氏が話し合った。

タイはグローバル人材の登竜門、
日系企業に求められる変革

——タイが経済的に成長したことで、日本との関係性にはどんな変化が起きているのでしょうか。

ガンタトーン父が現役の頃には日本のプレゼンスは非常に高かったんです。働くなら日本企業でと言われ、日本語を勉強した方が安定した職に就けると考えられていました。その影響もあって私自身も日本に留学し、日本の大使館で働いた後、日本とタイをつなぐ今の会社を起業しました。

 しかし、今は関係性が変わってきていて、タイにおける日系企業の存在感にも変化が見られるようになっています。そこで「なぜタイ人は日系企業を辞めるのか」という記事を書いたりして、その辺りの情報を発信しています。

藤岡昔は日本とタイの賃金格差が大きかったので、特に製造業においては、日本のビジネスモデルをそのまま持ち込んで、グローバル市場を獲得することを通じて、日タイ双方とも利益を得られました。しかし最近では、人件費が上昇してきたために段々と事業環境が厳しくなっていると言われたりしていますが、私たち日本人が現在のタイとの向き合い方を十分理解できていないのではないかと感じています。

 私自身は「辺境から変革を」という主張に共感していて、タイ・バンコクという大きな辺境から、日本や世界に通じる変革を起こせると考えています。実際、起業家や現地採用、駐在員といった多様なバックグラウンドを持つ方々が、様々な変革に取り組んでおられたので、変革人材及び彼らを生かす舞台としてのタイについて調査してみようと、mediatorの皆様と一緒に、関係者の方へのインタビュー調査等を実施しました。

藤岡亮介 氏

海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所 所長 兼
日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC) 事務局長
藤岡 亮介 氏

——調査からはどんなことが見えてきたのでしょうか。

藤岡タイは優れたグローバル感覚を持っていると考えていますが、完全にグローバル化され、比較的新しい国・地域である香港やシンガポールと違って、独自の文化と歴史だけでなく、小さくない市場・現場を持っています。そのため、プロダクトアウト的に日本のものをそのまま持ってきたり、グローバルスタンダードだからやりましょうということではなく、ローカライズも必要です。

 一方で、約6000社の日系企業がタイに進出するだけでなく、タイ人からの日本に対するリスペクトも根付いていますから、まず懐に飛び込んで、自らの製品・サービス・ビジネスモデルなどを適切にローカライズすることで、日本の良さも生かしやすい変革の腕試しの場でもあります。また、グローバリゼーションが岐路に立ち、世界中でローカライゼーションがより重要視される今、タイという国は日本人が世界で羽ばたくための登竜門としてより機能しうるのではないかと考えています。

ガンタトーンタイに来る人、タイで育つ人、タイで羽ばたく人たちがいます。単に遊ぶのではなく、タイ駐在をチャンスとして捉えることで、世界に通用する変革人材として羽ばたく人たちが増えています。日本企業がそういう認識を持って適切な人材を赴任させるようになれば、日系企業を辞めるタイ人も減っていくはずです。

タイで挑戦し変革を生み出す
人材に共通するもの

ガンタトーン・ワンナワス 氏

mediator
CEO
ガンタトーン・ワンナワス 氏

——タイという舞台で変革を起こせるのはどんな人なのでしょうか。

藤岡変革人材として成功する人に共通しているのは、まず目の前の事象を当事者意識を持って捉え、冷静かつ客観的に課題分析ができるという点です。加えて、密なコミュニケーションを通じて言語や文化の壁を乗り越え、困難を乗り越えられるチームづくりが上手い人が多いと感じました。こうしたグローバルで通用するスキルを効率的に磨けるが故に、グローバル人材として羽ばたくための登竜門として、タイは魅力的であると考えています。

ガンタトーン受け入れる私たちとしては、そういう変革人材が最初の半年などでやる気をなくさないように、情報を発信することが大事だと考えています。着任した時は皆さん横一線ですが、タイで成長し羽ばたいてもらえるようにカリキュラムなどを用意し、組織的に支援していきたいですね。

藤岡タイに赴任する人も変わってきていると思います。昔の第一世代は自分が市場を開拓するというフロンティアマインドを持たざるを得ない環境でした。他方、今は第三世代くらいで、必死になって開拓しなくても大丈夫と感じている人が少なからずいらっしゃると思います。しかしながら、先ほど申し上げたように、タイでは先人たちが築き上げたアセットをベースに、更なるチャレンジができる余地があると考えています。

 急速に経済発展する東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心にあるタイを起点にASEAN各国で挑戦した経験などは、日本に帰国してからも生かせると確信しており、そういう方々のチャレンジを政府としても積極的に支援していきたいと考えています。

——駐在員の質に変化があると同時に、日本企業全体での海外投資活動が高度成長期とは違ってしまっているという見方もできますね。

ガンタトーンタイ経済を支えている要素のひとつが海外からの直接投資、FDI(Foreign Direct Investment)です。それがGDPを形成していきます。昔は日本がメインでしたが、今は中国が占める割合が増えているのは確かです。

 しかし、KPIはひとつではありません。投資した先に別のKPIが生まれてきます。雇用の創造、人材の育成、家族までの教育の波及効果など様々な影響があるわけです。地味かも知れませんが、日本企業は何十年もそういう活動にしっかり取り組んできています。ただ、KPIという共通の形になっていないので、アピールができていません。

 インタビューを通して、日本人は良い人たちだけど、日本企業にはイノベーションが見受けられないという声もありました。タイ経済界の人たちの日本企業に対する優先度が下がってきていると実感しました。日本企業はもっとアピールが必要です。

日本企業の強みを
新たな成果へとつなげるために

——タイから見て日本企業の強みはどんなところにあるのでしょうか。

ガンタトーンコンテンツは日本の強みです。自動車も家電も電子部品もどの国でも作れます。しかし、コンテンツは違います。アニメやゲームも含めたコンテンツはまだ日本の強みです。

 もう一つは深く掘り下げる力です。大使館時代に日本の研究機関の、良い意味でのオタク気質には驚かされました。タイから見れば宝の山に思えたものです。持ってくることで新しい産業が生まれるとワクワクしました。

藤岡地方への貢献度の大きさも日本の強みであり、相手国から見ても非常に重要な要素だと思っています。ある地方にある日系企業の工場では約20年務めているタイ人のジェネラルマネージャーが、雇用の機会が都心部と比して限定的な地元の人たちを雇用してくれていることをとても感謝していました。

 ASEANは基本的にどの国も都市型経済で、都市部と地方の間の貧富の差が大きくなっています。私が所属している日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)が1998年に作られた理由の一つは、後からASEANに入った国、特にタイ以外のメコン地域の国を置き去りにすることなく、成長度合いをある程度均質化していきたいというものでした。課題を地域ごとに切り出して、それぞれとしっかり向き合うことは、当時から変わらず大切な価値観で、タイの地方にはまだまだ変革を必要とするフロンティアが広がっていると考えています。

——日本企業がタイで成長するにはどんなことが必要だと思いますか。

藤岡タイで面白い人を育てて、グローバルでネットワークを作るというアプローチもあると考えています。タイには年2万人を超える日本人が就労しており、その太宗を駐在員が占めることから、OB・OGはかなりの数になると思われますが、ここの横の繋がりは薄いと感じており、非常にもったいないと考えております。

 タイでの変革を通じて成長し、日本及び世界で活躍するOB・OGをグルーピングしてコミュニティを作ることで、変革人材の登竜門としてのタイの魅力の情報発信を強化するだけでなく、より大きな変革を起こすアイディアや仲間づくりに大きな役割を果たしうると考えています。そのため、在タイ日本人のOB・OGのつながりを強くすることは、タイ等で新しいことを仕掛けたい日本人、及び日本企業の強みにもなると考えています。

ガンタトーン一つは、日本企業が持っている技術を一覧で見せるような情報発信の仕組みが必要です。日本企業の技術は均一ではない深みがありますが、それが上手くタイの企業に伝わっていません。ビジネス版ディスカバージャパンのように、英語や現地語の雑誌などを使ってアピールすることが必要だと思います。

 もう一つは駐在員に対して個人レベルにブレークダウンしたKPIを設けてはどうでしょうか。例えば社外のタイ人や社外の日本人の役職者との付き合いの数や提出した提案書の数など、タイでの駐在期間中の意識を高めてもらえるKPIを設けることで、交流の状況が変わって活動成果が上がるのではないでしょうか。

藤岡亮介氏 ガンタトーン・ワンナワス氏
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