生成AI時代における
製造業のDX戦略とは

生成AI活用による
マインドチェンジで
新たな“勝ち筋”を
見いだせ

世界の製造業ではクラウドシフトが進んでおり、特に設計領域での取り組みが顕著だ。日本の製造業も決して後れをとっているわけではない。ただし海外の企業と比べて、日本企業は過去の伝統に起因する独自の問題を抱えているのも事実である。そうした弱みを克服し、マインドチェンジを図りつつ、グローバル市場で新たな“勝ち筋”を見出していくためにも求められるのが生成AI活用である。マイクロソフトにおいてインダストリーアドバイザーを務める濱口猛智氏に、そのポイントを聞いた。

日本の製造業DXの現在地と
抱えている問題

濱口 猛智 氏

日本マイクロソフト株式会社
Manufacturing&Mobility Industry
ディレクター
インダストリーアドバイザー
濱口 猛智

――製造業におけるDXの最新情報が集まる場として、「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ)」がドイツで行われています。そこでの展示内容も踏まえつつ、世界の製造業をめぐる動きをどう見られていますか。

 世界のすう勢として、以前はセキュリティや情報漏えいなどの懸念から避けられていたクラウド利用が大きく進んでいます。その中でも目立っているのが設計領域におけるクラウド活用で、例えばPLM(プロダクトライフサイクル管理)をクラウド上で運用するケースが増えています。シーメンスやPTCといった主要なPLMベンダーは、そのソリューションをSaaS型で提供することで、ビジネスをグローバルに拡大しています。

――一方で、日本の製造業の現状はどうでしょうか。世界と比べ、日本の製造業のDXは大きく後れを取っているとも聞きます。

 私はそれほど悲観する必要はないと考えています。日本の製造業でもクラウドシフトは急速な勢いで進んでおり、むしろ日本企業が世界をリードしている分野もあります。2000年代以前からいち早くAI技術を取り入れ、生産設備の故障診断や製品の良品/不良品判定などで実践してきたのも日本の製造業です。

 これは私の個人的な感想になるかもしれませんが、日本ではイノベーティブな取り組みをあまり公にしたくないと考える企業が多いだけに、最新動向が世間の目に触れていないのが実情ではないでしょうか。ただし、まったく問題がないわけではありません。

――それはどんな点ですか。

 まずはガバナンスに関する問題です。クラウドシフトを進めるにあたっては、セキュリティの確保や、他社とのデータ連携におけるポリシー整備などが必要ですが、そういったガバナンスの確立をIT部門が十分にリードできているとは言えません。

 また、データのモデル化といった取り組みにも弱さが目立ちます。日本企業は目の前で直面している具体的な課題に対しては、粛々と解決に向かうことができます。ところが解決すべき課題の抽象度を上げ、業界全体で標準化された方法によって変革を進めていくべきといった議論になると、途端に情報共有にも二の足を踏んでしまいます。結果としてグローバル標準の考え方や方式の導入に遅れてしまい、ガラパゴス化することが懸念されます。これらの点については、大きな改善の余地があります。

生成AI活用がマインドチェンジを
呼び起こすきっかけとなる

――日本企業が脈々と培ってきた歴史的な文化の影響もあって、これまでの行動様式を変えるのは難しいのかもしれません。

 とはいえ、立ち止まってはいられないのが現実です。日本の製造業が今後のグローバル市場で“勝ち筋”を掴んでいくためには、やはりマインドチェンジが不可欠です。

 クラウドシフトが進み、さらには生成AIのようなテクノロジーが台頭してきた現在、しっかり前準備を整えてからモノづくりに取り組むという時代ではなくなっています。必要なときに必要なソフトウェアやデータを集めて素早く試し、失敗から学んで問題を克服しながら製品への展開を進めていくといった、アジャイル開発手法が主流となっています。

 ところが、特に伝統的な製造業の多くはそうした文化になじんでおらず、失敗すると経営層からもマイナス評価が下されてしまいます。マイクロソフトをはじめ主要なソリューションベンダーは、「フェイルファースト(速く失敗せよ)」を推奨していますが、この考え方になかなか追い付いていません。

――生成AIというキーワードもいただきましたが、違った見方をすれば、この技術を積極的に活用することは、日本の製造業がマインドチェンジを図り、企業文化そのものの変革を成し遂げていくきっかけにもなり得るのでしょうか。

 その可能性は非常に高いと言えます。実際に生成AIは、現在の日本の製造業が抱えている次の3つの課題を解決することができます。

 まずは生産年齢人口の減少に伴う人手不足、高齢化した熟練技術者のリタイアといった問題の解決です。生成AIが熟練技術者に近いレベルで生産現場を支援し、経験の浅い若手技術者からの質問に対応したり、生産設備に起こったトラブルの早期解決・復旧を助言したりといった活用が期待されています。

 次に生産性の飛躍的な向上です。先に述べたとおり製造現場で働く人はどんどん減少していていく一方、顧客からの注文が急増している製品もあり、一人あたりの生産性を2倍、3倍に高めることが求められるケースもあります。もっとも人の能力を高めることには限界があり、生産設備が人間とやりとりしながら動的にパラメータを変更するなど、製造実行システムの自動化・自律化を推進していく必要があります。そうした生産設備と人間との対話において、生成AIが重要な役割を果たすことができます。

 そして3つ目が、よりフレキシブルな生産への対応です。多様化する顧客ニーズに対応するためには、生産する製品にあわせてラインを柔軟に組み換えたり、各設備の動きを変えたりする必要があり、これまではLD(ラダー)などの言語を熟知した製造現場の技術者が、その都度PLC (プログラマブルロジックコントローラ)の制御プログラムを修正して対応してきました。これに対して現在の生成AIは、目的にあったPLCの制御プログラムを簡単な指示で生成することも可能なのです。

 こういった生成AIの高度活用はトライアンドエラーなくして実現することはできず、必然的に全社的なマインドチェンジが求められることになります。

濱口 猛智氏

生成AIは製造業が抱える
3つの課題を解決する鍵となる

AIエージェントによる
ビジネスプロセスを変革

――製造業の変革を後押しする生成AI活用に向けて、マイクロソフトではどんなソリューションを提供していますか。

 マイクロソフトはAIを人の意思決定を支援する副操縦士だとしてCopilotとういう名称を付けています。CopilotにはMicrosoft 365を機能拡張する「Microsoft 365 Copilot」や、特定ロールの業務を支援する「Copilot for Sales」など様々なものがあります。これらは言わばAIアシスタントの機能を担います。

 組織内では様々な知識ベースやデータソースに接続して、タスクの自動化や情報提供、意思決定の支援などを行わせたいというニーズがあります。こうした個々の企業のニーズに合わせたAIエージェントを独自に作り、またそれらをMicrosoft 365 Copilotに統合することのできる「Copilot Studio」も提供しています。また、これらの機能を拡張する位置づけでAzure AI Foundryで様々なLLM/SLMのモデルやエンタープライズデータの組込みも可能です。

このようにCopilotは様々なAIエージェントが連携するユーザーインターフェースの位置づけになり、AIエージェントにより様々な業務を支援しながら生産性の向上をもたらすAgentic Worldを実現する、人とAIの橋渡しをしてくれます。

――Agentic Worldの世界はどんなシーンで役立つのか教えてください

 現実の世界では様々なことが複合的に起こっています。AIエージェントには様々な役割があり、それらが連携して一つの仕事をする世界を想像してみてください。例えば、生産現場では日々様々な事象が発生しており、その度に担当部門や熟練のメンバーに確認をして生産調整や品質対応などを行っていますが、こうした担当部門や熟練メンバーがAIエージェントに置き換わるなら、ドキュメントの検索やデータの取得を行い、それに基づく特定のアクションの実行を代行し、課題への対応時間を短縮することができるようになります。また、マルチモーダルの技術によって、現場の動画から製造現場が利用する各種手順書の生成、更新を行い、改善余地を見つけて、新しいプロセスの目的に沿った自動化プログラムの生成を行うことが可能になるようにするなど、たくさんの活動が関わる幅広い業務で活用することができます。さらには経営層が必要とする分析内容を箇条書きにして依頼するだけで、ベースとなるレポートを自動作成させるといった、意思決定支援の役割を担わせることも可能です。CopilotをユーザーインターフェースにしたAIエージェントの活用は製造業をはじめとするあらゆる企業のマインドチェンジを促進し、ビジネスプロセスの変革を実現していきます。

Copilot はエージェントと対話する場所であり、Copilot Studio はエージェントを簡単に作成、管理し、Copilot に接続できる場所です。Microsoft 365 には、個々の影響を拡大し、ビジネス プロセスを変革するために設計されたエージェントが導入されています。

AIエージェントによるビジネスプロセス変革

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――AI時代において、御社は製造業に対してどう取り組んでいかれますか。今後の展望についてお聞かせください。

 あたかも人がいるような感覚でAIと関わっていくCopilotをユーザーインターフェースにしたAIエージェントの活用が拓く世界について述べてきましたが、生成AIは現在も進化を続けており、画像・動画・音声にも対応し、複数のモデルを組み合わせて使いこなすフェーズへ移行しようとしています。そうしたマルチモーダル/マルチモデルによる変革をめざす製造業の取り組みにも、マイクロソフトはしっかり伴走して支えていきますので、是非ご期待ください。

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