大阪教育大学 みらい教育共創フォーラム 2025 &
教育とICTセミナー 2025 大阪 Summer
産官学で次世代教育を推進
教育の未来を共創する

大阪教育大学は2025年8月1日と2日の2日間、天王寺キャンパスにある「みらい教育共創館」で「みらい教育共創フォーラム 2025」と「教育とICTセミナー 2025 大阪 Summer」(日経BPと共催)を開催した。産官学連携による教育改革などをテーマに多様な登壇者による講演やパネルディスカッションを実施。また、教育委員会のポスター発表や企業展示で、様々な事例や最新のソリューションを紹介した。
特別パネルディスカッション・協賛講演はこちらから
大阪教育大学天王寺キャンパスの「みらい教育共創館」は、2024年の創基150周年を記念して設置した産官学連携の拠点だ。
「みらい教育共創フォーラム 2025」では、大阪教育大学が目指す教育の在り方や、教員養成フラッグシップ大学としての役割と取り組みなどについて、情報発信した。
「教育とICTセミナー 2025 大阪 Summer」では、生成AIの教育利用、教育データの活用、教育DXの実践事例など、ICT活用教育に関する最新の情報を参加者に伝えた。
産官学の連携で知恵を結集
継続して教育の高度化を進める
開会の挨拶をした大阪教育大学学長の岡本幾子氏は、「フォーラムは教育に関わる多様な方々が意見交換し、課題解決や新たな発想を得るための場」と述べ、共創の重要性を強調した。岡本氏は、みらい教育共創館には企業や団体が入居し、日常的に交流と共同研究を実施していることを紹介し、「産官学の知恵を結集し、学びを止めない仕組みづくりを進めたい」と語った。
2日に挨拶した理事・副学長の藤井睦子氏は、これまでの産官学連携の成果と課題に触れ、「連携は一過性ではなく継続性が鍵だ。互いの立場や目的を理解し合い、教育現場に還元できる形にすることが重要だ」と指摘した。特にICT活用については「単なる技術導入ではなく、教育目標に沿った活用設計が求められる」と述べた。
大阪教育大学は2022年、「令和の日本型学校教育」を担う教育養成の在り方を変革する「教員養成フラッグシップ大学」の一つに選ばれた。
産官学連携による共創の場であるみらい教育共創館には、35の企業や団体が共創パートナーとして参画(2025年8月時点)。NPO法人や自治体、教育機関など多様な主体が共同研究や連携事業、セミナーなどを通じて教育の高度化を目指している。
フォーラムでは大阪府教育委員会教育長の水野達朗氏と大阪教育大学 みらい教育共創拠点長・副学長の水野治久氏が基調講演と対談を実施。「令和型不登校」の課題解決に向けて、教員養成大学としてできることをテーマに議論した。
大阪教育大学
学長
岡本 幾子 氏
大阪教育大学
理事・副学長
藤井 睦子 氏
大阪教育大学が包括連携協定を結んでいる教育委員会や同大学の学生などによるポスター発表も実施した
ポスター発表についてのプレゼンテーションも開催。参加者は興味深く聞き入っていた
オンラインプラットフォームで
教育関係者の学びを支援
教員不足や職場環境の厳しさが国内外で深刻化する中、教育現場の持続可能性と教員のウェルビーイング向上が急務になっている。大阪教育大学はこうした課題に対応すべく、教育関係者の学習を支援するオンライン教育プラットフォーム「OZONE-EDU」を運用している。2024年には愛知教育大学との連携もスタートした。
フォーラムでは、大阪教育大学 理数情報教育系 特任教授・学長補佐の堀真寿美氏が、OZONE-EDUの取り組みを解説した。
OZONE-EDUは、マイクロラーニングとデジタルバッジによる学習証明の仕組みで構成され、教員を目指す学生から現役教員まで、誰でも自由にアクセスできるオープンエデュケーションを実現している。登録すれば最終的な確認テストも受けられる仕組みだ。
教育とICTセミナーでは、大阪教育大学の教員が、産官学連携や教育データ活用、AIの教育利用などのテーマで講演した。また、遠鉄システムサービス、日本HP、アルファコード、NEC、マウスコンピューターが、担当者の講演や動画でICT活用教育の最新のソリューションを解説した(次ページ以降の紹介記事を参照)。
教育とICTセミナーでは、企業が最新の製品やソリューションを紹介した
教育とICTセミナーで産学連携の事例について紹介する大阪教育大学 産官学イノベーション共創センター長 環境安全科学部門 教授の堀一繁氏
新しい学習指導要領は
デジタル学習基盤が前提になる
日経パソコン編集長・教育とICT Online編集長で大阪教育大学客員教授の江口悦弘氏は「デジタル学習基盤を前提とした次期学習指導要領の方向性」について講演した。
江口氏は、「今議論されている次期学習指導要領のポイントは、学校にあるデジタル学習基盤を前提としてつくられること」と説明する。デジタル学習基盤とは、直接的には1人1台端末と高速ネットワーク、クラウドサービスを指すが、その上で運用される教育プラットフォーム、デジタル教科書・教材、各種教育ツールなども含めて総合的に機能する。こうした基盤があることを前提に、学習指導要領そのもののデータベース化やデジタル教科書の正式化、AI時代に適応した情報活用能力の抜本的な強化、校務DXなどを推進。ICT活用により生み出した時間により柔軟な教育課程を実現することも目指す。「デジタルの力がリアルな学びを支え、対話的・協働的で深い学びの実現につなげていくことを狙っている」という。
2日間にわたるセミナーや展示、参加者同士の交流を通じて、教育の未来についての多様な議論があった。自治体や企業を巻き込んだ共創の取り組みは、今後の教育改革に向けたモデルケースになりそうだ。
令和型不登校の解決に向けた行政の挑戦
個別施策をつないで未来の自立を目指す
不登校の背景や形態は多様化し、「令和型不登校」と呼ばれる新たな傾向が広がっている。不登校支援カウンセラーとして家庭訪問を重ね、民間で家庭教育支援と一体化した事業を立ち上げた経験から、2024年に大阪府教育委員会教育長に就任した。「やる気が出ない」という不登校の表層的な理由の背後には、不安や抑うつ、家庭環境、愛着形成の問題など複雑な要因がある。府では教員の行動指針として「オオサカサイクル 5つのC」を策定し、取り組みの推進から情報収集、継続的な支援、課題の整理分析まで組織的に共有する。校内居場所事業や高等学校教育支援センター「ルポン」、通信制高校などを通じて多様な学びの場を整備し、復学だけでなく自立を見据えた支援を重視している。ひとくくりに不登校対策を進めるのではなく、個別施策をパッチワークのように組み合わせるのが理想だ。将来の自立を見据え、多様な主体が連携し、子ども一人ひとりに最適な支援を届けることが、これからの教育に求められる。(談)
大阪府教育委員会
教育長
水野 達朗 氏
不登校問題の解決に求められる支援
教員養成の現場から見た課題と展望
学校心理学を専門に教育現場で多様な子どもたちを支援してきた。近年、不登校や発達課題、外国籍の子どもが増え、学習面・心理面の支援ができる教員の養成がポイントである。不登校は心理的要因だけでなく学習の遅れが要因のことも多い。授業自体を予防的な生徒指導の場とし、例えば国語では感情に関する語彙量を増やすなど、各教科に支援の要素を組み込むことが重要になる。算数や数学でつまずけば将来の進路選択が狭まってしまうし、学び直しを支援すれば子どもの可能性を広げることになる。外国につながる子どもには、言語や文化だけでなく、日本特有の学校文化への適応支援も必要だ。学校は社会を形づくる場で、教員はそのコミュニティーの担い手であり、行きやすく明るい学校づくりは欠席率の低下にもつながる。教員養成では学習者中心の姿勢、ファシリテーターとしての役割、ダイバーシティー理解が欠かせない。「学びで報われるようにすること」が教育者の使命で、現場の課題に根差した実践が未来の教育を支える。(談)
大阪教育大学
みらい教育共創拠点長
副学長
水野 治久 氏
産官学連携で教員支援の新モデルを創出
テクノロジーと共生して教育の可能性を広げる
本学は教員養成フラッグシップ大学として、「みらい教育共創館」を拠点に産官学連携による授業改善や教員支援の新モデル創出を目指している。主に教員を対象にした「オンライン研修プラットフォーム」では、場所や時間に制約されない学び直しの機会も提供中だ。短時間かつ隙間時間に利用できる手軽さから、現在は受講登録者数7000人、提供科目数70科目を擁するまでの規模に達し、今後も拡大が期待される。「オンライン授業プラットフォーム」の活用においては、他大学に向けて教職科目を提供する取り組みも進めている。全国初の特例認定となった札幌大学への教職科目のオンライン提供は、その大きな一歩といえよう。地域の教員育成の裾野を維持すべく、今後も本学の先導的な教職科目・カリキュラムを他の教育現場に順次展開していく考えだ。進化するテクノロジーと共生しつつ、教育の新たなかたちを示し、その可能性を広げることが本学の使命である。(談)
大阪教育大学
理事・副学長
鈴木 剛 氏
24年度に新設した「ICT教育コース」で
ICT活用の核を担う教育者を育成する
大学における情報教育科目の運営に携わり、学部生を対象とした全学必修の情報基礎科目の「ICT基礎a」や「情報活用基礎I」のカリキュラム設計に関わった。PC必携化の進展とコロナ禍を経てオンライン授業が定着し、学習支援システム(LMS)で学習状況を可視化することで、例えば遅れがちな学生への支援も可能になってきた。2024年度に新設したICT教育コースは、ICT活用の核を担うことができる教育者を育成する。多様な学校現場でICTを活用できる人材の育成に向けて、学生は「小学校教諭免許及び高等学校情報科教諭免許」または「中学校・高等学校数学科教諭免許と高等学校情報科教諭免許」を取得する。教育現場でのICT活用力だけでなく、GIGAスクール構想の運用や課題解決、教育データの活用、デジタル人材育成などの視点も重視し、教育学部ならではの情報活用を推進できる人材を育成する。これからも現場の課題に即した柔軟な取り組みを続けていきたい。(談)
大阪教育大学
理数情報教育系 准教授
みらいICT先導センター
副センター長
尾崎 拓郎 氏
「みらい教育共創館」を拠点に産官学が連携
知・情熱・技術で教育の課題解決に挑む
日本の教育課題は、教員の長時間労働や人手不足、生成AIの教育への応用、不登校児童への対策など多岐にわたる。本学の産官学イノベーション共創センターでは多様な組織との連携を通じて、こうした課題を解決する取り組みを行っている。ハード面では「みらい教育共創館」を企業や自治体との連携を深める拠点として利活用し、セミナーや研修を開催している。ソフト面では教育現場と技術をつなぐ架け橋として、教育現場と産業界・自治体とを円滑にマネージメントする「教育版URA」の育成に励んでいる。産官学連携による取り組みは、液晶ディスプレイ導入による教員の業務効率化や不登校児童への支援、外国人児童の日本語教育支援、生成AIによる対話アプリ開発など多彩だ。現在も、様々な企業との共同開発により、テクノロジーを活用した新たなサービスが次々と創出されている。教育現場の知識と情熱だけでは解決できない課題に、テクノロジーの力を掛け合わせて取り組んでいきたい。(談)
大阪教育大学
産官学イノベーション共創
センター長
環境安全科学部門 教授
堀 一繁 氏
教育データ利活用から見える新たな学び
必要性高まるデータサイエンススキル習得の場
国立教育政策研究所では現在、教育理論、コンピューターサイエンス、統計学などを融合させた「教育データサイエンス」を学校現場に活用する研究に取り組んでいる。近年は国が実施した学校に関する教育分野の調査データがプラットフォームに集約され、オープンに活用できるようになってきた。CBTの普及により、ログデータを分析することで生徒の思考過程を可視化し、個別最適な指導へと役立てる動きも加速している。テストを分散実施しても公平感を保てるIRTスコア導入の効果も大きい。生成AIに関しては、日本語に強い言語モデルの開発が進み、ローカルで動作する小規模AIモデルの評価研究も進んでいる。今後は、教員が多様なデータを解釈して指導に生かす能力が問われるため、教員養成段階でデータサイエンススキルの習得機会を設けることが必要だ。本学でも教員養成フラッグシップ科目として、「教育データの活用」を全学部生対象に実施している。(談)
大阪教育大学
理数情報教育系
数理・知能情報部門
准教授
国立教育政策研究所
教育データサイエンス
センター
フェロー
高見 享佑 氏
教育の多様な場面で活用が進む生成AI
教員が可能性や課題を体感することが重要
生成AIは、検索や分析、レポート作成、イラスト・動画の制作などの幅広い領域で急速に進化を遂げている。教育現場でも教材作成、評価、進路指導、探究学習など、多様な場面での利用が加速している。文部科学省の調査によると、校務DXの分野でも生成AIによる業務改善は、教育現場から高い評価を得ている。生成AIは万能ではないが、活用の仕方によっては教育に大きなメリットをもたらす。本学でも、児童・生徒がAIキャラクターと対話する実証プロジェクトを兵庫県三田市と進めている。アンケート結果からは、児童・生徒が人には話しにくい思いをAIキャラクターに伝えたり、気持ちが肯定的に変化したりする様子が見られた。児童・生徒の自尊感情も有意に上昇した。こうした可能性がある一方で、AI活用にはディープフェイクやAIへの依存などの新たな課題も生じている。課題解決に向けて、まずは教員自身が生成AI活用の可能性や課題を体感することが重要だ。(談)
大阪教育大学
理数情報教育系
数理・知能情報部門
特任教授
中野 淳 氏
