SDGs Week Expo 「熱中症フリー」な社会をウエアラブル生体センサーがつくる 暑熱リスクをリアルタイムで把握して可視化する新技術

夏の日本列島を襲う暑さは、年を追うごとに苛烈になっている。特に太陽光や外気にさらされる環境で作業に従事する建設業や製造業の担い手には、暑さによるダメージを防ぎながら安心して働いてもらえる熱中症対策が必須となっている。2024年12月4日から6日にかけて東京ビッグサイトで開催された「SDGs Week EXPO」の特別カンファレンスでは、現場で求められる熱中症・高温対策について、名古屋工業大学大学院工学研究科教授の平田晃正氏が講演。これに続き、日本電信電話(NTT)グループが、熱中症による事故防止を目指す対策デバイスやサービスの先端事例を紹介した。

総務省の調べでは、熱中症により救急搬送された人は2024年8月の1カ月間だけで3万3000人近くにのぼった。厚生労働省によると、2018年以降、熱中症による死傷者のうち、年間1000人前後が職場で発生しているという。業種別では建設業が最も多く、次いで製造業、運送業の順である。いわゆる肉体労働の中では、屋外作業で熱中症になる割合が高いことが統計などからも明らかになっている。

一方で、屋内でエアコンをつけていても、室内の冷却が不十分で体が熱くなっていることに気づかず、体温調整がうまくいかなくて熱中症になってしまうケースも多い。

人間の体は活動して体温が上昇すると、血液の循環が盛んになることで発熱した部位の熱を逃がし、皮膚表面からの放熱や発汗などによって全身の体温を下げようとする。だが、湿度が高くて汗が蒸発しにくかったり、気温が高くて熱を逃しにくかったりする環境では、体温を十分に下げることができなくなる――。これが熱中症を引き起こす主な原因となる。

体内温度の変動を的確に把握

「米国では産業衛生専門家会議が基準を定めており、体内温度が1度上昇すると作業を止めるようにと勧告しています」と、NTTデバイスイノベーションセンタの高河原和彦氏は解説する。

日本電信電話(NTT)

NTTデバイスイノベーションセンタ

ライフアシストプロジェクト 担当課長


高河原 和彦

高河原 和彦 氏

NTTグループでは、作業者の体内の発熱と周辺環境への放熱のバランスが崩れるのを見極めることが、熱中症を予防するためのカギになると判断。NTTテクノクロスを中心に、肌着のような「ウエアラブルセンサー」を着用することで心拍数や人体周辺の温度・湿度を計測し、体内温度の変動をリアルタイムで推測する仕組みを開発した。「熱中症を招く『暑熱リスク』を総合的に判定して、適切なタイミングでアラート(警告)を出すことができます」と高河原氏。

実用的なウエアラブル生体センサーシステムを可能にしたのがNTTグループと東レが共同開発した「hitoe®(*)」だ。hitoeは導電性の機能素材で、hitoe®を組み込んだウエアを着用してセンサー/トランスミッタを装着することですることで、心電位や心拍数などの計測を可能にする。hitoe®の名称は「human intelligence to expand」の頭文字と、1枚の布=「単衣(ひとえ)」に由来するという。

(*)
東レとNTTが開発した、体から発している微弱な電気信号である生体信号を収集するための機能素材。機能素材 hitoe® は両社の商標登録である。

NTTテクノクロスの森村浩季氏は「腕に巻くリストバンド型のウエアラブルセンサーは普及していますが、装着が容易ではあるものの、暑熱リスクを判定するには生体情報の種類や精度が十分ではありませんでした。一方、hitoe®ウエアは装着に手間がかかるものの、必要な生体情報を的確かつ高精度で把握でき、暑熱リスク判定の精度を高められます」と説明する。

NTTテクノクロス

IOWNデジタルツイン

プラットフォーム事業部


森村 浩季

森村 浩季 氏

導電性ナノファイバー繊維でつくる「着るセンサー」

hitoe®は、導電性の高分子を染み込ませたナノファイバー繊維である。これにNTTテクノクロスのセンサー/トランスミッタ「TX02」と接続することで、体から発生する微弱な電気信号を着実に捉え、リストバンド型デバイスよりも精密に生体情報を収集できる。運動や肉体労働をしていても「心電位・心拍数」「衣服内の気温・湿度」「歩数・姿勢」といった情報の取得も可能になった。

hitoe®でできること(マルチセンシング技術)
hitoe®で取得できる情報の一例

生体情報、環境情報、運動情報をリアルタイムで収集しながら独自のアルゴリズムで計算し、熱中症になりうるリスクが生じたら、ただちにアラートを発出する。高河原氏は「体幹の体内温度の変動などから推定した作業者1人ひとりの状態がスマートフォンのアプリなどで表示され、危なくなると警告を出します。その時点で作業を休んで体を冷やせば、熱中症を防ぐことが容易になるでしょう」と言う。

屋内外で作業に従事している人の暑熱リスクを、外部から総合的に把握・管理する「hitoe® 暑さ対策サービス for Cloud」という企業向けサービスも開発した。作業員の体内温度が上昇して暑熱リスクが高い状態になっていないかなど、遠隔地にいるスタッフが把握できる。

作業員が持つスマホ上でもアプリでリスクを可視化する一方で、遠隔モニタリングしながら体調変化の可能性がある人は作業を休ませる。これによって企業は作業員の体調管理と労務管理をしやすくなる。

医療現場や長距離バス・トラックの運転にも応用可

NTTグループは、2021年の夏に日本で開催された国際的スポーツイベントのネットワーク構築作業において、hitoe®を活用したシステムを試験導入した。同年6月10日から9月末までの期間に、12人がウエアラブルセンサーを着用しながら作業したところ、8回のアラートが発出された。いずれも体調が変化・悪化する前にリスクを把握できたため、熱中症に罹患したケースはなかったという。

世界的スポーツイベントの運営での利用
hitoe®の運用事例と利用者の声

今後は「リハビリ中の患者の状態を監視・把握して事故を防ぐといった医療の現場での活用や、バス・トラック運転手の運転中の眠気や体調異常の検知など、多方面でhitoe®を活用していきたいと考えています」と、森村氏。検証を積み重ねて、より広い範囲での運用を目指す計画だ。

日本では真夏日(最高気温が30℃以上)や猛暑日(最高気温が35度以上)を記録する地点や期間が増えている。2024年の福岡市では5月〜10月の約5カ月にわたって1日以上の真夏日を記録し、名古屋市では猛暑日が47日間もあった。企業が暑熱リスク対策を取るべき期間は確実に長くなっている。

炎天下の屋外作業だけでなく、エアコンの効いた屋内でも温度調整ができない場合には熱中症になる可能性がある。作業員の高齢化が進む現代では、暑さによって体調を崩す人たちは屋内外にかかわらず増えていくことだろう。だが、ウエアラブルセンサーの着用によって暑熱リスクを知らせる体制を整備することで、不慮の事故を防ぐことが可能になりそうだ。

お問い合わせ

NTTテクノクロス