NUMO VRセミナー仙台 2025/1/25開催
360°の映像を体験できる
VRコンテンツ活用法
教育関係者向けワークショップで
VR映像の活用法を紹介
主体的な学びを深める
エネルギー環境教育を実践
日経BP 総合研究所は2025年1月25日、原子力発電環境整備機構(NUMO)の協力を得てVRコンテンツを活用したエネルギー環境教育に関する教育関係者向けワークショップを仙台市で開催した。参加した教育関係者はVRコンテンツを体験し、最新のICTを活用した授業実践について知見を深めた。
360°の映像を体験できるVRコンテンツを活用したエネルギー環境教育のワークショップは3回目の開催。仙台市の会場には多くの教育関係者が集まり、VRを活用した教育に関する講演やVRコンテンツの体験に参加した。
冒頭、大阪教育大学特任教授の中野淳氏が「児童・生徒が360度の空間の中から自分の興味や関心に応じて、さまざまな気付きを得ることができる」とVR映像の教育利用の利点について語った。
進行中の文献調査の進捗など
NUMOの地層処分事業を紹介
NUMO広報部
地域コミュニケーショングループ
川中 美侑 氏
ワークショップでは、NUMO広報部地域コミュニケーショングループの川中美侑氏が、NUMOが実施している地層処分事業を紹介した。
NUMOは、高レベル放射性廃棄物の地層処分を行う実施主体で、処分地の選定や処分施設の建設から操業、閉鎖までを担当する。
原子力発電所で使い終わった燃料(使用済燃料)は約95%がリサイクル可能だが、残りの5%は再利用できない廃棄物として残る。これをガラスと融かし合わせて固め、ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)を生成する。
ガラス固化体は放射性物質をガラスの構造に取り込むことで、長期にわたり安定的な状態で閉じ込めることを可能とするものだ。製造直後のガラス固化体の放射能は非常に高く危険である。しかし放射能には時間の経過とともに低下していくという性質がある。
原子力発電所で使い終わった燃料(使用済燃料)をリサイクルする際に残る廃液を、ガラスの原料と融かし合わせて固めたのがガラス固化体だ。高さ約130cm、直径約40cm、重量約500kgの円筒形の形状をしている
(出所:NUMO)
100万kWクラスの原子力発電所を1年間運転すると、約20〜30本のガラス固化体が発生する。これまでに原子力発電の利用に伴って発生した使用済燃料を全てリサイクルすると、既にリサイクルされた分も合わせて、ガラス固化体は2万7000本相当になる見込みだ。今後、原子力発電所の稼働状況に応じてガラス固体化の本数は増加することが見込まれ、NUMOは、4万本以上のガラス固化体を処分できる施設を計画中だ。
地層処分事業は、地層処分場の選定から建設、操業、閉鎖まで多くのプロセスをかけて実施される
(出所:NUMO)
高レベル放射性廃棄物の処分方法については、地層処分のほか「宇宙処分」「海洋投棄」「氷床処分」「地上保管」などさまざまな処分方法が検討されてきた。その中で地層処分が最も適切であるというのが世界共通の認識だ。
日本ではガラス固化体を地下300m以上深い安定した岩盤に閉じ込め、人間の生活環境や地上の自然環境から隔離する「地層処分」を実施することが法律で定められている。
高レベル放射性廃棄物の処分方法は、国際的にさまざまな方法が検討され、その中で地層処分が最適な方法と認識されている
(出所:NUMO)
川中氏は「地層処分は、地層が本来持っている閉じ込める力を利用し、人間の生活環境から高レベル放射性廃棄物を隔離して処分する方法だ。日本では、全国で一か所の処分施設を計画しており、その広さは地上施設が1~2㎢程度、地下施設が6~10㎢程度の規模になる予定だ」と説明した。
高レベル放射性廃棄物を地下深くの安定した岩盤に閉じ込め、人間の生活環境や地上の自然環境から隔離するのが「地層処分」だ
(出所:NUMO)
現在NUMOは処分地の選定を進めている。処分地の選定は文献調査、概要調査、精密調査の3段階の調査を経て進められ、場所が決定したら処分施設を建設し、放射性廃棄物の搬入や埋設といった操業を行い、最終的には施設そのものを埋め戻して閉鎖される。
地層処分を行うには、地下水や火山、活断層などの自然現象の影響を考慮する必要があるが、日本の地質の特性に応じた対策を講じることで、高レベル放射性廃棄物を安全に処分することが可能だ。
処分地の選定に向けて現在、北海道の寿都町と神恵内村、佐賀県の玄海町で文献調査が実施されている。24年11月22日には、寿都町と神恵内村における文献調査の報告書及び要約書が公表され、道内での説明会も行った。
地下施設を仮想体験するVRツアー
エネルギー環境問題を考える題材に
地層処分事業は調査に20年程度、処分場の建設、操業、閉鎖までの期間を含めると100年以上の⻑期にわたるため、現役世代だけではなく将来世代に至るまで、事業の理解拡大を図ることが重要だ。
NUMOは学校の授業で地層処分を取り上げてもらうため、教育関係者を対象にした授業研究支援を行っている。その一環で提供しているのが、北海道幌延町に設置された地下350mの世界が見学できる「幌延深地層研究センター」を体験するVRツアーだ。幌延深地層研究センターは、地層処分に関する技術的な信頼性を確認することを目的に、実際に地下深くでの研究に取り組んでいる。
今回ワークショップに参加した教員は、VRゴーグルを装着して幌延深地層研究センターを見学するVRツアーを体験した。
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センターは、地層処分に関する技術的な知見を蓄積するため、実際の深地層で研究を実施している。
VRツアーでは、実際にはなかなか訪れることができない地下深くの坑道に降り、地下の様子を見ながら地層処分の試験研究などについて学ぶことができる。参加者はVRゴーグルを装着して、地下空間での研究を間近に見たり、ガラス固化体の立体モデルをVR空間の中で持ち上げたりする体験をした。
川中氏は「次の世代に負担を残さないためにも、原子力発電による電気を利用している私たちの世代で、できるだけ早く処分の道筋をつける必要がある。幌延深地層研究センターをVRツアーで体験して、地層処分事業について理解を深めてほしい」と話した。
ワークショップを実施した仙台の会場には、多くの教育関係者が集まった(左)。参加者は、VRゴーグルを装着してNUMOが提供している幌延深地層研究センターのVRツアーを体験した(中)。このVRコンテンツは、パソコンやスマートフォンなどでも利用できる(QRコード)
NUMOでは、地層処分について教育現場でも関心を深めてもらうための取組みを行っている。そのうちのひとつが教育関係者等からなる団体の自発的な研究活動を支援する「授業研究支援」である。研究を行う先生方は、地層処分についての学習を授業に取り入れやすくする教材の開発や、それらを用いた実践授業を行っている。
「地層処分に関する教材を、主体的・対話的で深い学びを実現するために活用してもらいたい」と川中氏は話した。
地層処分の仕組みについて説明を聞く参加者たち
VRとドローンを組み合わせて空撮
理科「流れる水の働き」の学びに活用
VRは教育分野でも多様な可能性を持ち、主体的・対話的で深い学びを実現する効果的なツールになると期待されている。
大阪教育大学の中野氏は、教育分野でのVRの活用事例として、三重大学附属小学校教諭の前田昌志氏の取り組みや大阪教育大学でのオーケストラのVR教材などを紹介した。
前田氏の取り組みの1つが、小学校5年生の理科「流れる水の働き」でのVR活用。ドローンに360度カメラを装着して、空撮したVR映像を教材化した。児童は、川の上流から下流まで合計60本の映像から好きな場所を選んで調査する。こうした教材と現地調査を組み合わせて、深い学びを実現している。
前田氏はこのほかにも、子供が普段は入れない給食調理場の様子をVRで撮影して授業に活用したり、コロナ禍で授業公開が難しくなった際にVR映像を使って授業の様子をオンラインで教育関係者に伝えたりといった実践を進めている。
三重大学附属小学校教諭の前田昌志氏は、ドローンに360°カメラを装着して、空撮したVR映像を教材化している
元大阪教育大学教授の田中龍三氏、元獨協埼玉中学高等学校講師の相原結氏は、VR映像の音楽科での活用事例や他教科でのVR活用の可能性について紹介した。
相原氏は大阪教育大学のVR教材を活用した中学1年生の鑑賞授業について説明した。この授業では、生徒が能動的に視点移動できるVR教材の特⻑を生かして、生徒一人ひとりがオーケストラの良さや面白さを見つけ出すことを目指した。
「授業は、音声のみの鑑賞、VR映像を使用した探求、プレゼンテーションを意識したまとめという3つの段階で構成した。この授業方法により、生徒は自ら疑問を持ち、VRを通じて答えを探す主体的な学習を行うことができた。生徒の興味・関心が高まり、深い学びが実践できた」と結論づけた。
獨協埼玉中学高等学校(埼玉県越谷市)の中学1年生の授業。音楽科の学びにVR映像を活用して、生徒がオーケストラの良さや面白さを探った
田中氏は、音楽の歌唱や国語の和歌の学習など、情景の理解が重要な要素となるさまざまな学びでのVR活用の可能性を示した。「VR映像だと景色の中に何があるかがすべて見える。これは何だろうと疑問を持って、それを自分で解明すると自信を持って人に伝えられるようになる。そういう体験をさせるのが子供にとって大事なことだと思う」と田中氏は説明した。
中野氏は「専用のVRゴーグルを使わなくても、スマートフォンやタブレットでVR映像を手軽に視聴することができ、VRを活用した授業を簡単に実践できる」と解説した。
ワークショップに参加した教員の1⼈は「想像していた以上に臨場感のある体験ができた。深地層研究センターのように実際には⾒学が難しい施設でも、VRコンテンツならその場を訪れたのと同じような体験が可能になる。協働学習や体験学習に取り⼊れると、主体的・対話的で深い学びの視点に⽴った授業を実践できると感じた」などとVRを教育利⽤する効果について話していた。
VRコンテンツを活用した授業実践の効用について話した元大阪教育大学教授の田中龍三氏(左)、元獨協埼玉中学高等学校講師の相原結氏(中)、大阪教育大学特任教授の中野淳氏(右)
NUMOが実践する教育支援の取り組み
NUMOは、「高レベル放射性廃棄物の処分問題」について授業で取り上げやすくするため、授業案の作成や教材開発などを支援しているほか、小中学校・高等学校・大学に向けた出前授業も提供している。その他、地層処分を授業で扱うツールとして、小・中学生用の教材と教員用の解説資料、地層処分について楽しみながら学べるボードゲーム「ジオ・サーチゲーム」やVRコンテンツ、短編のアニメ動画なども提供している。
NUMOの主な支援活動
●教育研究会への活動支援 ●出前授業の実施 ●基本教材・ボードゲーム教材の開発・活用 ● エネルギー環境教育「全国研修会」の開催 ●施設見学会の企画・実施 ●Webサイトを通じた情報発信


