最近では人工知能(AI)の発達に伴って、車両周囲の認識や判断、操作などをAIに任せることで高精度地図を不要とし、低コストで自動運転を実現できるとされる「End-to-end(E2E)自動運転」技術が台頭してきた。これらをベースに、社会実装を進めていくには、人やクルマ、障害物のIoTセンシング、それらのデータに基づくモニタリングやシミュレーションといった監視・制御システムが必要になる。いわゆるサイバーフィジカルシステム(CPS)の一種だ。
さらに、電気自動車(EV)化を背景とした充電インフラの連携、利用者とクルマのマッチング、「ウォーカブル」などを意識した歩行者とクルマのインフラ分離など、より人の活動を便利にするための仕組みづくりも進んでいく。
国内でも実証実験が続々
ロボタクシーを含め都市部も地方も
米Tesla(テスラ)や中国勢が先行して実装を進めているのに比べて、日本は自動運転の社会実装が遅れているといわれる。確かに米国や中国では、ロボタクシーなどの形で市街地での自動運転が実現されている。ただ、日本国内でも地方自治体を中心に実証実験は数年前から着実に広がり、社会実装の足音が聞こえてきている。背景の一つは2023年の改正道路交通法施行で、特定条件の下での自動運転レベル4での公道走行が可能となったこと。これを機に、自動運転の実証実験が全国に広がっている。政府が掲げる目標でも、2027年度までに100か所以上の地域で自動運転移動サービスを展開することとなっている。
例えば福井県永平寺では、2023年5月に廃線跡の自転車歩行者道でレベル4の無人運行を実現した。ほかにも同様に、日立製作所が専用道BRT区間をレベル4化するなど、特定の既存路線を活用して自動運転を導入する例はいくつかある。加えて最近は、電気自動車(EV)バスなどを使った自動運転を路線バスに採用する自治体の例が増えてきている。例えば長野県塩尻市は、2025年5月に、中心市街地で自動運転バスの定常運行を開始した。事業主体は塩尻市振興公社で、ティアフォー製の自動運転レベル4対応車両「Minibus」を採用。1便で最大13人が乗車できる(図1)。
図1 長野県塩尻市内を走行する自動運転バス「Minibus」(出所:塩尻市)
ほかでは、茨城県つくば市が2025年11月から2026年1月にかけて、関東鉄道バス路線である「筑波大学循環」でレベル2自動運転バスの実証走行を実施した。レベル2自動運転の実証運行を重ね、2027年度にかけてレベル4定常運行へ段階的に移行する計画である。もう一歩進んだ取り組みとしては、千葉県柏市で、東京大学などによるRoAD to the L4 テーマ4コンソーシアムと東武バスグループの東武バスセントラルがレベル4自動運転による中型バスの営業運行を開始した。柏の葉キャンパス駅から東京大学柏キャンパスまでの一部区間で、東京大学の学生・教職員などのシャトルバスとして運行する。
自治体に見られるのは主に、バスなど公共交通での自動運転だが、それとは別にロボタクシーの動きも見えてきた。ロボタクシーは、文字通り完全無人運転によるタクシー。米国や中国で先行しているのは、まさにこの分野だ。2025年4月には、WaymoがGO・日本交通と組んで、東京23区のうち7区でテスト走行を開始した。
ほかにも日産が2025年11月、BOLDLY、プレミア・エイド、京浜急行電鉄、横浜市と共同で、横浜のみなとみらい・桜木町・関内を含む市街地エリアで運転席無人走行を実施した。同社は2027年度のロボタクシー実装を目指している。
これらと並行して、自動運転車両の調達、メンテナンス、燃料、保険、ドライバー運行状況の一元管理などを実施するフリート管理サービスも充実していきそうだ。例えばナイジェリアのMooveが日本市場に参入しようとしている。2025年12月にはNTTグループもNTTモビリティを設立し、自動運転サービスの提供に乗り出している(図2)。
図2 NTTグループが設立した「NTTモビリティ」は車両提供、導入・運用支援、遠隔監視などを含めた自動運転サービスを提供する(出典:NTTモビリティのニュースリリースから引用)
クルマと道路・インフラをつなぐ
多様なセンシングで高度な安全性を実現
こうして見ると、車両に自動運転の仕組みを搭載しさえすれば実現できそうに思えるかもしれない。ただ実際には、より安全かつ便利に利用できる環境にするには、その周辺に様々な仕組みが必要になる。
わかりやすいのが、必ずしも見通しが良くない交差点や高速道路における合流といった場所での制御である。自動運転技術では、高度なセンシングにより周囲の状況を常に把握し、交差点で交差する車両や飛び出してきた歩行者の位置と速度を瞬時に分析することを目指している。ただ、信号がなく、見通しが悪い規模の小さな交差点では、それでも回避が間に合わないかもしれない。そこで必要になるのが、信号機その他の道路インフラや、他のクルマとの相互通信である。いわゆる車車間通信(V2V)や路車間通信(V2I)により、周囲の状況を事前に把握するわけだ。
交通量が多く合流距離が短い高速道路の合流も同様である。そこで首都高速道路は、路側センサー+エッジ処理+4G/5G/ローカル5Gで本線の交通状況を取得し、自動運転車や一般車に合流支援情報を送る実証を2026年秋に、代々木入口(高4上り)で実施する。トヨタ、SUBARU、NEC、富士通、オムロンSS、古河電工、三菱重工機械システムらが参加した社会システムづくりへの取り組みといえる。
NEXCO中日本による新東名高速道路での取り組みもある。具体的には、自動運転車の優先レーン(22–5時)を設定し、工事規制や合流情報を路側機から提供する。サービスエリアでの自動発着までを含め、レベル4トラックの実装に必要な“道路×通信×運用”の連携を丸ごと検証するという。
もちろん、これらの仕組みを道路インフラなどに一気に浸透させるのは難しい。じわじわと拡張していく必要がある。場所によってはセンサーなどを設置しづらいケースもある。そこで重要な役割を担うのは、既存の環境を自動運転システムに柔軟に結びつけるIoT技術である。また自動車メーカーごとの自動運転技術の仕様の違いを吸収し、相互接続することも重要である。こうしたインフラ整備は今後の大きな課題となる。
実はこうした道路インフラの整備には、自動運転よりもう少し広い観点での構想がある。NEXCO東日本が注力する高速道路の未来像“moVision”である。多機能ポールやファイバーセンシングによるリアルタイム監視やデジタルツイン運用を目指している。多機能ポールは遠赤外線VGAカメラ、可視光4Kカメラなどを搭載した、電柱のようなポールで、これらのカメラにより本線をほぼ死角なく監視する(図3)。併せて高速道路に光ファイバーを新設し、ファイバーセンサーで得た情報を基に、1km単位の1分平均速度、10分平均路温、進行方向など本線交通流の連続的な情報を可視化する。多機能ポールのカメラ画像(正解データ)と組み合わせることで、速度低下・停止から落下物や事故などの有無、路温低下から路面凍結の恐れ、進行方向の違いから逆走の把握・先読み(車線別、発生事象別、構造物別など)といった状況についての情報を提供できるか検証する。
図3 NEXCO東日本が描く次世代高速道路の目指す姿(出所:NEXCO東日本)
高速道路や物流用動線は地下に?
自動運転の実装と並行して街のインフラが進化
道路インフラを含めたまちづくりに目を向けると、さらに違った観点が加わってくる。例えば三井不動産などが東京・日本橋で取り組もうとしているリバーウォークでは、水都復活を合言葉に、首都高速道路を地下化し、地上では人が歩けるスペースづくりを目指している。こうしたまちづくりの発想からは、例えば人や自転車、乗用車、物流のインフラを分離させることが考えられる。
そんな構想を現実にしようとしているのが、トヨタ自動車が2025年8月に静岡・裾野で開業したウーブン・シティ(Woven City)である。自動運転・配送ロボ・スマートホーム・エネルギー管理などを実際の生活に埋め込んで検証する“まちの実験台”として、地上は歩行者/パーソナル/自動運転の三層道路、地下を街全体の各建物を自動運転車両が結ぶ物流動線としている。
この仕組みを道路の階層と役割に分けて考えてみると、例えば次のような構造を想像できる。
(1)地上広場
① 歩行者広場(ガラス路面パネル)
② カフェ・店舗フロント(透過表示ガラス)
③ スマートポール(情報・充電・センサー)
④ イベントステージ/緑地
(2)地表下浅層
⑤ 地上サービス層(配管・ケーブル・蓄電)
⑥ 地下物流ハブアクセス(荷物搬送エレベーター)
(3)地下車道層
⑦ 自動運転車道トンネル(複数レーン)
⑧ 物流専用レーン(無人トラック)
⑨ 緊急車両専用ルート
(4)深層インフラ
⑩ 大型蓄電池・エッジデータセンター
⑪ 排気処理・換気設備
⑫ 保守通路・点検ギャラリー
もちろん、これらは通信回線で接続され、CPS上で一元管理される。こうなると、単に自動運転の導入というレベルではなく、まちづくり・社会インフラ全体の変革に発展していく。
もう一つ、通信/CPSのほかに注目できるのが電力インフラである。例えば上記のようなウォーカブルな街を作る場合でも、スマートボール、地下施設などで電力を消費する。地上でもあちらこちらで歩行者向けの充電ポイントが求められる。クルマ向けではEVの充電設備が欠かせない。そこで挙げられるのが、様々な場所での再生可能エネルギーの確保や蓄電池の設置、そしてクルマへの充電設備の整備である。その候補として、例えば道路に埋め込む太陽光発電、建物の壁面などを利用した太陽光発電、建物の屋上などでの風力発電といったものが挙げられる(図4)。自動車のサンルーフに太陽光発電を実装することも考えられる。
図4 大成建設が開発中の無線給電道路「T-iPower Road」(出典:大成建設のプレスリリースより引用)
いわゆるバッテリーEVでは、充電が切れそうな状態からフル充電するのに30分以上の時間がかかる。航続距離を伸ばすにはできるだけ充電が減らないようにしたい。一方で、充電中の30分間の時間の使い方も考慮したい。実はこの30分間はクルマが音楽や映像、ゲームを楽しむエンターテインメント空間になっている可能性がある。つまり、充電しながら電力を消費してしまう。DUAL MOVEが開発している裸眼3Dなどの仕組みを使えば移動中も電力消費が増えることになる(図5)。この点、サンルーフでの太陽光発電などを活用することで、少しでも電力を補えれば、その分だけ走行用に電力を確保できる。
図5 DUAL MOVEが開発を進める透明ディスプレイを用いた次世代のXR技術のイメージ(資料提供:DUAL MOVE)
自動運転車両のアプリケーションは、エンターテイメント以外にも広がる可能性がある。例えば集中して何らかの作業をこなすための空間だったり、移動する病院のような検査装置だったり、閉じられた空間の使い方は発想次第だ。そのアイデアに合わせて、既存・新規を問わず、さまざまなビジネスが相乗りしていく可能性がある。もちろん前述の通り、そのための電力確保もその一つ。「ひとと社会をつなぐ」自動運転社会の未来に期待したい。