
従来の枠組みが再定義される製造業。先の読めないVUCA時代、手戻りの削減や柔軟な開発体制の構築がこれまで以上に重要視される。2025年6月10日、日経ものづくり主催「ものづくり未来戦略会議」にて、業界リーダーが一堂に集結。日本の製造業はいかに不確実性を乗り越え、開発・設計マネジメントを進化させるか。多様な視点から掘り下げた、その内容をリポートする。
基調講演
変革期にある自動車業界。新技術の台頭により、従来の縦割り・自前主義的体制からの脱却が求められている。カギとなるのは、開発設計段階からの抜本改革と、オープンイノベーションの推進。日本の製造業はソフト面の競争力強化が急務だ。
INCJ
代表取締役会長/CEO
志賀 俊之 氏※肩書は講演当時
世界の自動車業界は今、1908年の「Ford Model T」登場以来の大変革期にある。ICE車(エンジン車)からEV(電気自動車)へのシフト(EVシフト)、自動運転の導入、生成AIなど革新的技術の登場で、自動車の価値はハードからソフトへと移りつつある。クルマの自動運転機能やデザインプロセスで生成AIの活用事例も登場している。
INCJ
代表取締役会長/CEO
志賀 俊之 氏※肩書は講演当時
EVを中心としたモビリティーは「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」として進化を遂げようとしている。SDVでは、OTA(Over-the-Air)による機能追加やパーソナライズによって新たな価値提供が可能に。ユーザーは個人所有からシェアリングへシフトし、販売も「売り切り型」から「サブスク型」へと移行。購入後も自動車の性能が進化し続ける。さらに充電インフラの整備や、家庭での蓄電池としての活用など、モビリティーが生活インフラとしての役割も担う。
EVは特に中国勢の台頭が著しい。数多くのEVメーカーがグローバル市場を席巻。普及率においても中国は既にキャズムを超えた状態だ。「地球温暖化を止めるためにはカーボンニュートラルの対応は必須。よって今後も世界でEVシフトは進んでいく」と志賀氏は見ている。
しかし日本は、海外と比較しEVシフトに大きな遅れがあり、このままでは10年後も差は埋まらないと志賀氏は指摘する。国内では航続距離や充電インフラの課題などネガティブな固定観念も根強い。
「国内OEMの懸念は、(こうしたトレンドでは)日本のものづくりの強さが発揮できないのでは、ということ」(志賀氏)。ものづくりの革新を妨げる要因はさまざまだ。設計開発体制の硬直性と根強い自前主義、スタートアップや異業種との連携不足、ソフトウエア開発の知見や人材の不足、横並び主義などが挙げられる。
志賀氏は日本企業の競争力を弱めた課題を3つ挙げる。これを打破する可能性を持つのが「両利きの経営」だ
一方、日本のものづくりの強みとして挙げられるのは、熟練した技能や品質へのこだわり、おもてなしの精神に代表されるユーザー志向などである。それは日本が単一民族国家故の同質性に支えられていた力でもあるが、今は同質性が枷ともなり得る。「これからは多様性に富む風通しの良い組織体制で、リスクを恐れず高付加価値な製品やサービスをゼロから創出することが求められる」(志賀氏)
それには「両利きの経営」が不可欠だと志賀氏は続ける。一般に両利きの経営は「企業が持つ知の効率化・深化」と「新しい知の探索・革新」を両立させること。一方、志賀氏流では「トップダウンの改革」と「ボトムアップの現場改善」の両立を示す。
志賀氏は講演の結びで、時代の変化に対応するリーダーに必要な資質について、「世界の動向、トレンドの変化に高い関心を持つ」「大義がある、社会課題の解決に貢献する」「最新のテクノロジーに精通する」「実行に足るチームを組成する」「途中で息切れしない資金計画を策定する」ことを挙げつつ、日本のものづくりが革新を遂げることを願い未来へのバトンを会場の聴講者に託した。
PwCコンサルティング
PwCコンサルティングの渡辺智宏氏は、日本企業の競争力強化において「開発マネジメントの質の向上」が極めて重要であることを調査結果とともに示した。調査回答者の開発マネジメント水準は同社が「当たり前」としている数値に達していなかった。
PwCコンサルティング
執行役員 パートナー
渡辺 智宏 氏
PwCコンサルティングは2019年より日経BPと共同で、製造業従事者を対象に「開発マネジメント実態調査」を3年に1度のペースで実施してきた。同調査では独自のフレームワークを用いて、企業における開発設計マネジメントの成熟度を数値化している。具体的には、同社のコンサルティング活動を通じて分析してきた結果を基に、部品メーカーや製造業の「目指すべき姿」を基準として設定し、その実現度を測定するもの。2025年の調査では、回答者約150人の職種は研究開発と設計が過半数を占めた。
開発マネジメント水準のスコアは「1.0=取り組みが根本的に不足し、成果が出ていない」「2.0=努力しているが、成果が出るには至っていない」「3.0=成果が部分的に出はじめている」「4.0=業界トップレベルではないが、成果が出て進化を継続している」「5.0=業界トップレベル」として採点。同社は目指してほしい水準を3.0、「当たり前水準」を2.5と定める。今年の回答者の平均は2.3点と「当たり前水準」に届かなかった。「製品・サービス戦略」が最も高く(2.47)、次いで「プロセス」(2.39)。「組織運営」が最も低かった(2.12)。
過去含め3回の調査で、業績が良い企業はQCD(品質・コスト・納期)の問題が少なく、QCDの問題が少ない企業は開発マネジメント水準が高いという傾向が一貫して確認された。QCDの問題がない企業は、問題がある企業と比べ「業績は上昇傾向」という回答の数が1.6倍だった。今回の調査でマネジメント水準が高い企業は、低い企業に比べ「品質に関する問題はない」という回答が2.47倍、「コストに関する問題はない」という回答が3.09倍、「スケジュールに関する問題はない」という回答が3.92倍だった。
調査で見えてきた実態を踏まえ、同社では開発設計部門の目指すべき姿の実現に向けて製造業各社を支援している。
過去含め3回の調査で、業績が良い企業はQCDに関する問題が少なく、
QCDに関する問題が少ない企業は開発マネジメント水準が高い傾向が明確になった
PwCコンサルティング合同会社
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/consulting.html